絶版文庫書誌集成

文春文庫
【お】


大江 健三郎 (おおえけんざぶろう)
「青年の汚名」
 (せいねんのおめい)


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*254頁
*発行 1974年
*カバー・司修

*カバー文
鰊の不漁と風土病にさいなまれる隔絶した北海の孤島《荒若》を舞台に、過去の栄光と伝統にしがみつく長老と、現状打開に身を挺する若者たちとの対立葛藤を、土俗の豊饒なイメージのなかで展開させる。日本人の血の意味と、青年の政治参加という今日的なテーマをあわせて追求して話題を呼んだ異色の長篇小説。

*解説頁・篠原茂


大月 隆寛 (おおつきたかひろ)
「無法松の影」 (むほうまつのかげ)


*カバー写真提供・交通博物館
 装丁・中山銀士

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*354頁 / 発行 2003年

*カバー文
小説が発表されて以来、映画や歌の題材となり、深く日本人の心に浸透することとなった「無法松」。しかし、あのお馴染みのキャラクターは、戦後の自由と民主主義のもと、変容をとげたものだった。その変容を独得の民俗学的視点で捉え、この国の男らしさをめぐる領域と、リアルな歴史の再生に挑んだ意欲作。

*目次
道よぎる雲の影のように “松のおいちゃん”の方へ
無松法、一九三〇年代の岩下俊作に舞い降りること
岩下俊作、無法松捜しの世間に辟易すること
岩下俊作、細部に至る確かさを重ねること
岩下俊作、「力」を宿す風景に瞠目すること
無法松、異なる近代をとっととっとっ、と駈けること
無法松、民俗調査されて自己疎外の祇園太鼓を打つこと
無法松、異国人の視線を有する森鴎外に説教すること
無松法、さらに桃中軒雲右衛門を乗せて走ること
無法松、さまざまに複製され読み直されてゆくこと
吉岡良子、戦後民主主義にかりそめの自立を獲得したりすること
ハナ肇、無法松と化し戦後民主主義を戦車で通りすぎること 無法松の戦後的変貌
あとがき
文庫版あとがき
解説・斎藤美奈子
主な参考文献


岡田 茉莉子 (おかだまりこ)
「女優 岡田茉莉子」
(じょゆうおかだまりこ)


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*606頁 / 発行 2012年
*装丁・上楽藍
 カバー写真「秋津温泉」吉田喜重監督作品 (C)松竹 1962

*カバー文
父は夭逝した美男俳優・岡田時彦、名付け親は谷崎潤一郎、デビューは成瀬巳喜男作品。小津安二郎、木下恵介ら巨匠に愛され、『秋津温泉』以後は、夫・吉田喜重作品の女神として輝きつづける女優・岡田茉莉子。戦後日本映画史を鮮やかに生きぬくとともに、ひとりの女として自らの人生を充実させた、女優による渾身の書き下ろし自伝。

*巻末対談
 女優という謎 岡田茉莉子・蓮實重彦


岡松 和夫 (おかまつかずお)
「志賀島」
 (しかのしま)


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*254頁 / 発行 1986年
*カバー・中島祥子

*カバー文
終戦の年、北九州の地で国民学校の六年生だった主人公は、志賀島に海洋訓練に行き、軍隊の苛酷さの片鱗をかいま見る ― 激動の時代の流れにほんろうされるひよわい少年たちを描いて第74回芥川賞を受賞した表題作など5篇。戦中戦後の青春のひとつのかたちを見事に的確に描破した記念碑的な作品集。

*目次
志賀島 / 或る年の秋 / 蓄音機 / 碧空 / 闘花 / 解説 川西政明


小川 鼎三 (おがわていぞう)
「鯨の話」
(くじらのはなし)
文春学藝ライブラリー


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*300頁 / 発行 2016年

*カバー文
“鯨を研究することが人間の医学の進歩にかなり大きな役目をもち得ると私は最初から信じていた”。日本解剖学の泰斗が二十代の若き日に、魅入られたクジラ。飽くなき自然への探求心を武器に、本邦初の本格的研究に踏み出していく ―― 不朽のサイエンス・エッセイ。

*目次
鯨の研究
シーボルトと日本の鯨
鯨の話
鯨の後あしについて
鯨をおそうシャチの話
金華山の沖にて
ひと昔とふた昔まえ
スカンジナビア鯨めぐり
ガンジス河にクジラを ―― 淡水鯨スウスウを求めて
 昭和二十五年版「あとがき」 / 昭和四十八年版「あとがき」
 解説 孫弟子がみた「自然の探究心」(養老孟司)


小川 三夫著・聞き書き 塩野 米松 (おがわみつお・しおのよねまつ)
「棟梁 技を伝え、人を育てる」
(とうりょう)


*デザイン・大久保明子
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*230頁 / 発行 2011年

*カバー文
時代に逆行する「徒弟制度」「共同生活」が、技の継承に必要なのはなぜか?法隆寺最後の宮大工・故西岡常一の内弟子を務めた後、「鵤工舎」を設立、数々の寺社建設を手がけ、後進を育てた著者が、引退を機に語る金言。「技を身につけるのに、早道も近道も裏道もない」「任せる時期が遅かったら人は腐るで」。心に染みる言葉の数々。

*目次
はじめに
第一章 西岡棟梁との出会い
第二章 修業時代
第三章 鵤工舎
第四章 「育つ」と「育てる」
第五章 不器用
第六章 執念のものづくり
第七章 任せる
第八章 口伝を渡す
技の伝承を追いかけて 聞き書き者あとがき
鵤工舎施工実績


奥野 健男 (おくのたけお)
「坂口安吾」 (さかぐちあんご)


*カバー・山本美智代
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*415頁 / 発行 1996年

*カバー文
「人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に人間を救う便利な近道はない」……。敗戦の混乱の中、「風」のような笑いと、「石」のようなニヒリズムをもって、焼け跡を駆け抜けた巨人・坂口安吾。そのめくるめく精神の振幅を、苛烈な人生と作品群から総合的に論じる、批評文学の名作。長男・坂口綱男氏のエッセイを巻末に併録。

*目次
T 安吾発見
 「堕落論」の衝撃
 虚無的合理主義 ― 安吾の宇宙
U 作家以前
 生家と父 / 母への憎しみ / 原風景 / 自己聖化への努力 / 暗鬱な青春 ― 長島萃(あつむ)との交友
V 生涯と作品
 第一章 新進作家時代
  華々しき登場 / 自ら不遇に / 「木枯の酒倉から」から「母を殺した少年」まで
 第二章 「吹雪物語」と放浪時代 ― 戦争期
  矢田津世子について / 「吹雪物語」 / 「閑山」から「朴水の婚礼」まで
 第三章 戦後乱世の時代
  敗戦と安吾 ― 「堕落論」 / 「白痴」から「恋をしに行く」まで / 歴史小説 / 自叙伝小説 ― 「暗い青春」
 第四章 流行作家時代
  「桜の森の満開の下」と「花妖」 / 「花火」から「青鬼の褌を洗う女」まで / 「不連続殺人事件」と推理小説
 第五章 無類 ― 狂気 ― 嵐の季節
  無頼派として ― エッセイを中心に / 「決闘」から「カストリ社事件」まで / 長篇「火」 / 「精神病覚え書」から「肝臓先生」まで
 第六章 巷談師への変貌 ― 凪の季節
  税金闘争、競輪闘争 / 巷談師安吾 / 「街はふるさと」 / 「水鳥亭由来」から「膝が走る」まで
 第七章 歴史家、文明評論家として
  「安吾新日本地理」 / 「安吾史譚」 / 「安吾捕物帖」 / 「飛騨の顔」「夜長姫と耳男」から「中庸」まで / 歴史小説 / エッセイ
 第八章 晩年
  死生観 / 「幽霊」から「桂馬の幻想」まで / 「真書太閤記」「狂人遺書」から「安吾新日本風土記」まで
W 安吾復活

 あとがき
 年譜
 解説にかえて 坂口綱男


長部 日出雄 (おさべひでお)
「桜桃とキリスト もう一つの太宰治伝」
(おうとうときりすと)


*カバー・大久保明子
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*638頁
*発行 2005年

*カバー文
前作『辻音楽師の唄』に続き、本書では絶頂期から玉川上水心中までの、天才の作品と後半生が活写される。創作活動に夫人が果たした役割、キリスト教の影響、『如是我聞』悪口の背景、井伏鱒二との関係など、同じ津軽の血をもつ著者ならではの眼で明らかにされる、死に到る太宰の心情とは。大佛次郎賞、和辻哲郎文化賞受賞の力作。

*目次
第一章 出会い / 第二章 アリアドネの糸 / 第三章 恋文 / 第四章 出発 / 第五章 新しい生活 / 第六章 最初の読者 / 第七章 変身 / 第八章 生きたキリスト / 第九章 「美談」の韻律 / 第十章 地上の国と天上の国 / 第十一章 Last one / 第十二章 銃後の覚悟 / 第十三章 最高の喜劇作者 / 第十四章 桜桃のかなしみ / 第十五章 最後の逆説 / 第十六章 地上の別れ / あとがき / 文庫版あとがき / 解説 豊田健次


長部 日出雄 (おさべひでお)
「鬼が来た ― 棟方志功伝 (上下)」
 (おにがきた)


*カバー・田代素魁
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*上432頁・下413頁
*発行 1984年

*上巻カバー文
善知鳥と悪知鳥 ―― この両犠牲をもつ幻の鳥を追って本州北端、青森の貧しい鍛冶屋から始まった棟方志功の旅は、柳宗悦と民芸運動、保田與重郎と日本浪漫派、太宰治らとの出会いと微妙な反発を経て未知の闇に進んで行く……。天才版画家、棟方志功の人と時代を、同郷の作者が描く渾身の力作伝記文学。芸術選奨文部大臣賞受賞。

*解説頁(下巻収録)・篠沢純汰



長部 日出雄 (おさべひでお)
「津軽世去れ節」
(つがるよざれぶし)


*装画・村上豊
 AD・森玲子
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*263頁 / 発行 1989年

*カバー文
嘉瀬の桃、こと黒川桃太郎。
?アーアンアンアンア〜〜
彼がじょんがらの最初の唸りを発すると、津軽の民衆は一遍に心を奪われたものだった……。昭和六年、酒と賭博に溺れて死んだ津軽三味線大成者の生涯を描き、第69回直木賞を受けた表題作をはじめ、同時受賞作「津軽じょんがら節」他四篇を収録した処女作品集。

*目次
死者からのクイズ
津軽じょんから節
津軽世去れ節
津軽十三蜆唄
猫と泥鰌
雪のなかの声
 文庫版のためのあとがき


大佛 次郎 (おさらぎじろう)
「終戦日記」
(しゅうせんにっき)


*カバー・2冊目の「自由日記」(昭和20年後半期分) 大佛次郎記念館所蔵
 デザイン・野中深雪
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*437頁 / 発行 2007年

*カバー文
人気シリーズ「鞍馬天狗」執筆の傍ら、『パリ燃ゆ』『天皇の世紀』などの歴史小説で冷徹なまなざしを歴史に注いだ著者が、革装の日記帳2冊に、昭和19年9月から翌20年10月まで、太平洋戦争の終局とその後を作家の日常のなかに冷静に書きとめていた。当時書かれた書簡、エッセイをあらたに加えた〈増補決定版〉。

*目次
昭和十九年
 九月 / 十月 / 十一月 / 十二月
昭和二十年
 正月 / 二月 / 三月 / 四月 / 五月 / 六月 / 七月 / 八月 / 九月 / 十月
書簡
エッセイ
解題 福島行一
解説 村上光彦