絶版文庫書誌集成

文春文庫
【や】


安岡 章太郎 (やすおかしょうたろう)
「父の酒」
 (ちちのさけ)


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*302頁
*発行 1994年
*装丁・田村義也

*カバー文
父は酒のみだった。敗戦の後、十年ぶりに帰還した父は、酒を絶っていた。そして、まるで客人のような父との間に、隠やかな時間が流れ始めるきっかけも、酒であった。― 人物、動物、好きな映画や音楽、文学の話まで、達意の名文で縦横自在に語られる。歳月にはぐくまれた極上の酒のようなエッセイのたのしみがここにある。

*解説頁・長部日出雄


安岡 章太郎・編 (やすおかしょうたろう)
「滑稽糞尿譚 ― ウィタ・フンニョアリス」
(こっけいふんにょうたん)


*装丁・田村義也
 画・ピーテル・ブリューゲル
   「学校の驢馬」より
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*286頁 / 発行 1995年

*カバー文
太古の昔から誰一人として日々欠かすことのなかった玄妙なセレモニー。この粛々たる習いを通して面白おかしくも謹厳に人生の滋味を探りつつ、本書はその深奥をも垣間見る。現在活躍中の諸氏をはじめ、芥川龍之介や谷崎潤一郎、風来山人からラブレー、バルザックに至るまで、古今東西の名品傑作が集結した壮大なアンソロジー。

*目次
追いかけるUNKO … 吉行淳之介
神聖なる糞虫 … 北杜夫
小便がつまる … 入江相政
厠のいろいろ … 谷崎潤一郎
糞尿譚の話 … 渡辺一夫
好色 … 芥川龍之介
寝小便に泣く男 … 遠藤周作
わが糞尿譚 … 安岡章太郎
黒い煎餅 … 阿川弘之
おべんじょ … 田辺聖子
酒・飯・雪隠 … 平野雅章
押入れの中 … 円地文子
モースの便所 … 畑正憲
トイレット天国 … 李家正文
バリュームさわぎ … 白井浩司
食事と排泄 … 星新一
ゾウの大グソ … 中村浩
糞尿の話 … 金子光晴
中国水火譚 … 駒田信二
「放屁抄」蛇足 … 安岡章太郎
スウィフト考 … 山田稔
粉屋の話 … チョーサー / 西脇順三郎訳
尻を拭く妙法を考え出したガルガンチュワの優れた頭の働きをグラングゥジエが認めたこと … ラブレー / 渡辺一夫訳
オイレンシュピーゲルがマイン河のほとりのフランクフルトで、ユダヤ人をたぶらかして千グルデンだまし取った物語。つまり、自分のうんこを「予言者の実」といつわって、彼らに売りつけた次第 … ヘルマン・ボーテ / 藤城幸一訳
路易十一世飄逸記 … バルザック / 小西茂也訳
放屁論 … 風来山人 / いいだもも訳
 あとがき 編者
 文庫版のあとがき 編者


矢野 誠一 (やのせいいち)
「さらば、愛しき藝人たち」 (さらばいとしきげいにんたち)


*カバー・柴永文夫
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*250頁 / 発行 1989年

*カバー文
アダチ竜広、広沢虎造、大辻伺郎、石田一松、シミキン、可楽、馬風……比類なき芸ゆえにいかなる奇矯も許された古き良き時代。すでに鬼籍に入って見ることも聞くこともかなわぬ芸をいとおしみ、愛すべき素顔を懐しむ、優しい目と巧緻な筆で描いた「しがない」芸術家への鎮魂歌は、同時にもうひとつの昭和史だ。

*目次
博奕狂いのアダチ竜光 / 律義でモダンな牧野周一 / 松葉家奴はでたらめ人間 / 殿様気分の清水金一(シミキン) / 誇り高き泉和助 / 箱庭の頭・春風亭枝葉 / 無精のせっかち・三笑亭可楽 / インテリに弱い吾妻ひな子 / タレント議員第一号・石田一松 / 山茶花究は五黄の寅 / 傍若無人の鈴々舎馬風 / 広沢虎造に七人の妾あり / お笑いを一滴の吉原朝馬 / 酒落で死んだか? 大辻伺郎 / 北に消えた後藤博 / 後記 / 解説 色川武大


矢野 誠一 (やのせいいち)
「大正百話」 (たいしょうひゃくわ)


*装画・杉浦非水(三越呉服店ポスター・大正三年)「日本の広告美術 ― 明治・大正・昭和1 ポスター」(美術出版社)より / AD・大久保明子
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*263頁 / 発行 1998年

*カバー文
松井須磨子・島村抱月の醜聞と死、歌舞伎座焼失とその再建、小山内薫らによる築地小劇場の設立など演劇界の重大事件から、関東大震災下の役者や噺家たちの生態、果ては花魁(おいらん)講習会の表彰式まで、演劇界、落語界、花柳界の動静を百のエピソードで綴る大正藝能史。今も昔も、藝能スキャンダルは面白い!

*目次
舌代 / 廃朝中の歓楽街 / 歌姫環の家出 / 原のぶ子の上海道行 / 名人圓喬の死 / 天狗連出世譚 / 消えた歌舞伎座の芝居茶屋 / 圓蔵・むらくの喧嘩 / 真砂座のストライキ / 文藝協会の崩壊 / 歌舞伎座の城明け渡し / 十二階を手にした山師 / 花魁の表彰式 / 訴えられた雲右衛門 / 蝶花樓馬樂の死 / 藝術座の騒動 / 金髪藝者リーナ / 舞台で倒れた門之助 / 当世吉原事情 / 太郎冠者排斥 / 大正三年大晦日の支柱見聞 / 寄席改良案 / 弁士の楽屋 / 東京浪花節事情 / 坪内士行の帰国 / 老妓東遊 / 藪入りの日小僧の賑い / 小坪内の金髪愛人 / 金原亭馬生赤毛布 / 新派の團十郎・高田實 / 伊井河合一座と連鎖俳優の紛争 / 雲右衛門の死 / 桃中軒ものがたり / 花井お梅の最期 / 藤澤淺二郎の死 / 根岸対松竹の摩擦 / 旅役者御難日記 / 活動写真取締規則 / 新門辰五郎の立場 / 貞奴の引退 / ローシー落城 / 劇界の三国鼎立 / 米騒動の傍杖 / 寄席も三派対決 / 島村抱月西班牙風邪で急逝 / 須磨子のその後 / 松井須磨子の縊死 / 須磨子の葬儀 / 須磨子になるまで / 盲目の小せんの死 / 怪談あれこれ / 菊次郎の遺体解剖 / 大阪風になる東京の寄席 / 中村又五郎の鉛毒死 / 大老劇の上演中止 / 上演された大老劇 / 役者と花柳界 / 将軍田村成義大往生 / 二代目又五郎の初舞台 / 地の役者あれこれ / 吉右衛門市村座を退く / 落語界三派の色分け / 歌舞伎座焼失 / 歌舞伎座再建計画 / 市川段四郎逝く / 英国皇太子殿下台覧劇 / 三浦環の里帰り / 早川雪洲の帰国 / 清元連の分裂 / 演劇改善問題 / 連中廃止に宗之助奮戦 / 新庁令実施の影響 / 召喚された森律子 / 『藤十郎の戀』上演中止 / 澤田正二郎らの逮捕劇 / 関東大震災 その時役者は / 歌舞伎座、松竹、日活の対策 / 三津五郎の奮戦と歌右衛門御殿 / 黙阿彌一家の遭難 / 花柳界の被害 / 吉原の被害と復旧 / 山本有三と歌右衛門の喧嘩 / 大同団結は一瞬の夢 / お里の姿で逝った宗之助 / 築地小劇場開場 / 松沢病院で死んだ山長 / 初の二代目圓朝 / 仮放送前夜の騒ぎ / やっとラヂオの第一声 / ラヂオあれこれ巷の話題 / 菊五郎の進退 / アーデンで自殺した久野久子 / 五月信子が最高点 / 旅立った村田正雄 / 落語家のラヂオ出演 / 仁左衛門松竹に縁切り / 市村座の奥役殺さる / 松の屋魚八引退 / 目玉の松ちゃんの死 / v河豚にて頓死


矢野 誠一 (やのせいいち)
「落語長屋の四季の味」 (らくごながやのしきのあじ)


*カバー・和田誠
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*359頁 / 発行 2002年

*カバー文
豆腐、蕎麦、秋刀魚、おから、せんべい……といった落語に登場する食べ物の数々。そんな日本人の食生活に欠かせない庶民の味が大好きという著者が、それらにまつわるエピソードと、その故事来歴等を幅広く紹介。72もの落語と食べ物を旬に分けて歳時記風においしく綴ったエッセイ。

*目次
年たちかへる
 福茶『芝浜』/ 餅『尻餅』 / だいだい『正月丁稚』 / 昆布『瘤弁慶』 / 数の子『寄合酒』 / 塩『泣き塩』

鐘霞む
 鯛『桜鯛』 / しじみ『しじみ売り』 / 萵?『夏の医者』 / 田楽『味噌倉』 / 豚かつ『豚かつ』 / 甘納豆『明烏』 / カステラ『大どこの犬』 / せんべい『道具屋』 / 羊羹『小言幸兵衛』 / 飴『孝行糖』

風薫る
 鰹『白子屋政談』 / 鯉『唖の釣』 / 鮑『鮑のし』 / 鯖『地獄八景亡者戯』 / 穴子『穴子でからぬけ』 / どぜう『居酒屋』 / 鰻『鰻の幇間』 / するめ『てれすこ』 / 豆腐『酢豆腐』 / 茗荷『茗荷宿』 / 筍『二十四孝』 / 胡椒『胡椒の悔み』 / さくらんぼ『あたま山』 / バナナ『初天神』 / ちまき『人形買い』 / すし『真景累ヶ淵』 / 梅干『しわいや』 / 茶『茶の湯』 / 水『水屋の富』

天高く
 秋刀魚『目黒のさんま』 / 鰯『猫久』 / 蛸『蛸芝居』 / 枝豆『馬のす』 / 唐茄子『唐茄子屋』 / はんぺん『替り目』 / おから『千早振る』 / 唐辛子『疝気の虫』 / がんもどき『寝床』 / ありの実『佃祭』 / 饅頭『饅頭こわい』 / 蕎麦『時そば』 / 強飯『子別れ』 / 茶漬『京の茶漬』 / 米『搗屋無間』 / 酒『試し酒』

息白し
 ふぐ『らくだ』 / 大根『七度狐』 / 葱『たらちね』 / 慈姑『百川』 / 沢庵『長屋の花見』 / こんにゃく『蒟蒻問答』 / 猪肉『池田の猪買い』 / 牛肉『意地くらべ』 / しゃも『船徳』 / 葱鮪『葱鮪の殿様』 / うどん『うどん屋』 / ラーメン『ラーメン屋』 / みかん『千両みかん』 / 焼き芋『雛鍔』 / 汁粉『士族の商法』 / 味噌『馬の田楽』 / 酒の粕『酒の粕』 / 玉子酒『鰍沢』

付・医食同源
 陣皮『紙屑屋』 / 朝鮮人参『しびん』 / 宝丹『なめる』

あとがき / 文庫版あとがき / 解説 大村彦次郎


山岸 凉子 (やまぎしりょうこ)
「月読 自選作品集」 (つくよみ)
文春文庫ビジュアル版


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*250頁 / 発行 1996年

*カバー文
姉・天照大御神の歓心を買おうと、
月読、須佐之男の兄弟はことあるごとに対立、
月読の被虐的な献身が悲劇を生む表題作ほか、
咲き乱れる桜花の妖しさにちなむ「天沼矛」
古事記を現代に甦らせた「木花佐久夜毘売」
霊異譚の山岸流新解釈「蛭子」「蛇比礼」
精霊の世界を幻想ゆたかにさまよう「ウインディーネ」など、
名作6篇を精選した山岸ワールド第3弾。

*目次
天沼矛 あめのぬぼこ
木花佐久夜毘売 このはなのさくやひめ
蛭子 ひるこ
蛇比礼 へみのひれ
月読 つくよみ
ウインディーネ


山岸 凉子 (やまぎしりょうこ)
「天人唐草 自選作品集」 (てんにんからくさ)
文春文庫ビジュアル版



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*255頁
*発行 1994年

*カバー文
日常の中に表裏一体に潜む恐怖と幻想……。
作者自らが厳選する傑作マンガ全五篇。
時代錯誤なまでに厳格な父にしつけられた娘の
複雑に成長してゆく心理を描く表題作ほか、
ギリシャ神話上の怪物、女面鳥獣が
現代の日常空間にふと甦る「ハービー」。
霊界とつながりを持つ鳥人一族の末裔の苦悩を描く
「籠の中の鳥」など。
(解説・中島らも)


山岸 凉子 (やまぎしりょうこ)
「ブルー・ロージス ― 自選作品集」
文春文庫ビジュアル版



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*268頁
*発行 1999年

*カバー文
彼女は傷つくのが恐くて男性を見ることが
できないのです……。テネシー・ウィリアムズの
「ガラスの動物園」の中の一篇をモチーフとした
文庫初収録「ブルー・ロージス」を始め、
「パエトーン」「星の素白き花束の…」
「化野の…」「銀壺・金鎖」「学園のムフフフ」
山岸ワールドが堪能できる全六篇。


山岸 凉子 (やまぎしりょうこ)
「わたしの人形は良い人形 ― 自選作品集」 (わたしのにんぎょうはよいにんぎょう)
文春文庫ビジュアル版



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*266頁 / 発行 1997年

*カバー文
偶然、それとも必然!?
持ち主に次々と災厄をもたらす
呪われた日本人形の謎に迫る表題作ほか、
古い体育館に棲みついた
怨霊の祟りを描く「千引きの石」
無人の屋敷を夜毎さまよう
幽霊の正体をめぐる「汐の声」
財産めあてに
富豪の娘と結婚した男の悲劇「ネジの叫び」など、
ページを開くたびに
圧倒的な恐怖があなたを襲う
山岸凉子のホラー傑作選


山口 瞳 (やまぐちひとみ)
「考える人たち」 (かんがえるひとたち)


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*194頁
*発行 1982年

*装画・関保寿 / カバー・山藤章二

*カバー文
偏軒を名乗る主人公とその妻イースト、友人ドストエフスキイとその妻風船、日雇い労務者コーガンにマチモロ、酒場『サマンサ』のマダムK子にバーテンダーのモットモさんなどなど偏軒をめぐる人間群像。その生態描写にほろりとし成程と感心する。淋しい悲しいおかしくこわいこの人生を見事に描破した意欲連作。

*解説頁・高橋呉郎


山口 瞳 (やまぐちひとみ)
「草野球必勝法」 
(くさやきゅうひっしょうほう)


*カバー・柳原良平
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*266頁 / 発行 1983年

*カバー文
小学生の頃は強肩強打の左翼手。サラリーマン時代は投手兼三塁手にして四番打者。そして後に監督と豊富な経験をもつ筆者がウンチクをかたむけて語る江分利満氏の華麗にして優雅なベースボールの楽しみ方。根っからの野球好きが愛惜をこめて書いた草野球論であると同時にユニークな人生論にもなっている。

*目次
1 草野球必勝法
  草野球の話 / 人間の器 / 野球人口 / 軟式野球場 / 走者一、二塁 / 私は背番号60 / 床屋球談 / 実力の一種 / 草野球の日 / 草野球必勝法

2 プロ野球の明日
  プロ野球の明日 / 今年のプロ野球 / 飯島 / 野球の話 / アンチ巨人軍論 / プロ野球・舞台裏の英雄たち / 紳士的なプレイとは / にわかファン / 鍛錬 / かくれジャイアンツ

3 私の愛する野球人間
  三原魔術 / 鈴木武 / 黒尾重明 / 英雄の死 / 長島の構想 / 長島茂雄 / 長島茂雄の顔 / 王貞治 / 王と長島はどうちがうか?

4 熱涙観戦記
  巨人V10ならざるの日 / ヤクルト=巨人・開幕試合観戦記 / 巨人=阪神・熱涙観戦日記

5 わが町、わが野球
  野球 / 卒業記念写真 / 公園 / 秋 / 納会
 あとがき
 解説・阿部牧郎


山口 瞳 (やまぐちひとみ)
「小説・吉野秀雄先生」 (しょうせつよしのひでおせんせい)


*カバー・著者自装
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*231頁 / 発行 1977年

*カバー文
いまでは幻の学校となった「鎌倉アカデミア」で、高らかに愛を鼓吹する歌人・吉野秀雄の薫陶を受けた著者が、大いなる尊敬と愛情をもって恩師を生き生きと描きつつ、帰らざるみずからの青春を愛惜する表題作のほか、川端康成、山本周五郎、高見順、木山捷平、内田百間らの諸先輩を描いた評伝的小説集。  解説・野呂邦暢

*目次
小説・吉野秀雄先生
隣人・川端康成
 隣の伯父さんと私 / 孤独な現実主義者 / 創意の人
曲軒・山本周五郎
 山本さん / 暗がりの煙草
先輩・高見順
木山捷平さん
内田百闖ャ論
解説〈野呂邦暢〉


山口 瞳 (やまぐちひとみ)
「庭の砂場」 (にわのすなば)


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*184頁 / 発行 1990年
*カバー・永田力

*カバー文
一人また一人と、身内に先立たれる ― 。将棋が好きで、縁台将棋の場で、対局中の相手に「汚いことをするな!」と持駒を投げつけ、そのまま倒れて不帰の客になった弟。不遇のうちに五十四歳で死んだ弟の葬儀のあとさきをしみじみと描いた表題作など三篇。たそがれどきの人生の寂寥感を直視する作品集。 解説・岩橋邦枝

*収録作品
庭の砂場
窮すれば
−(まいなす)に−(まいなす)を掛けると


山崎 朋子 (やまざきともこ)
「あめゆきさんの歌 ― 山田わかの数奇なる生涯」
(あめゆきさんのうた)


*カバー・上笙一郎
尾形光琳「紅白梅図」(熱海美術館蔵)より
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*297頁 / 発行 1981年

*カバー文
心ならずもアメリカの娼館街に身を沈めねばならなかった不幸な境涯から脱け出して、大正・昭和前期にわが国でも第一級の評論家・女性解放運動家に変身を遂げた山田わかの数奇な生涯を描く感動の人間ドキュメント。その後、埋もれ忘れられていたその名を掘り起こし、近代女性史に復権させた意義ある評伝。

*目次
第一部
サンフランシスコの夕焼け / 市川房枝さんの話 / 十六歳の花嫁 / 真夜中の電話
第二部
雪のシアトル / 立井信三郎 / キャメロン=ハウスの嵐 / 山田嘉吉との出会い / コルマの薔薇 / 立井信三郎拾遺
第三部
四谷南伊賀町の道 / 「青鞜」の一員として / 限りなき〈母性〉の人 / 強姦の子、生んで育てよ / わかのアメリカ再訪 / 娼婦更生保護の仕事へ
 あとがき / 文庫版のためのあとがき / 解説 尾崎秀樹


山崎 正和 (やまざきまさかず)
「海の桃山記」 (うみのももやまき)


*カバー写真撮影・杉崎弘之
 カバー写真提供・朝日新聞社

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*204頁 / 発行 1978年

*カバー文
天正の遣欧少年使節、そして彼らが代表した16世紀末の日本人が東南アジアからヨーロッパへの旅で見たものは何であったか。400年前の日本人が触れた西洋文明を訪ねながら、日本人にとって生活の基盤になっている「近代」の意味をとらえなおし、海外紀行というスタイルで日本歴史を描いた興味深いエッセイ。

*目次
 マカオにて
 海へ開く門 / ういきょうの香る「南欧」 / 悲しきポルトガル / 禁断の国への旅

 ゴア(インド)にて
雨と緑と大聖堂と / 「副王波止場」のほとりで / 二つの聖堂のあいだで / ザヴィエルの「法難」 / 浜辺の十字架

 ポルトガル
「近代」の遺跡 ― リスボンで / 海に憑かれた国 ― リスボンで / 日本人とポルトガル人 ― リスボンで / 「戦闘」という名の寺 ― バターリヤで / 「数学通り」のある町 ― クインブラで / 国と世界と ― ナザレで / 喪われた海 ― エーヴォラで / 天球儀のある噴水 ― エーヴォラで

 スペインからパリへ
「経・教分離」の失敗 ― セヴィリアで / ドレド今昔 / 或るすれ違い ― ドレドで / 荘厳なる欲望 ― エスコニアルで / 弱さの自覚 ― パリで

 イタリア
首都でない首都 ― ローマで / 燃え尽きた感動 ― ローマで / 矛盾した情熱 ― ローマで / 衝動と思想 ― アッシジで / もうひとつのコミュニケイション ― フィレンツェで / イタリア人と日本人 ― フィレンツェで / 一九七四年夏 ― フィレンツェで / 陶器の「海の星」 ― ヴェネチアで

 あとがき
 文庫版のためのあとがき
 解説 井上輝夫


山崎 正和 (やまざきまさかず)
「おんりい・いえすたでい’60s脱産業化の芽生えたとき」


*カバー・峰岸達
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*249頁
*発行 1985年

*カバー文
「黄金の60年」「動乱の60年」「大衆化と国際化と情報化の60年」といわれた華やかな1960年代。日本の近代100年の中でも、この10年が日本社会にもたらした飛躍と変質は驚くべきものであった。本書は政治から風俗まで、ヴェトナム戦争からミニスカートまで、幅広い的確な視野でとらえた60年代グラフィティである。 解説・川本三郎

*目次
序論・愛憎交々(アンビヴァレンス)の十年
自己の位置づけを求めて
「不定愁訴」の時代
「時代は変った、紅茶にソネット」
猿に帰った食生活
ながら族とついで族
「無責任」と「無限責任」の逆説
ブラック・ボックスの皮肉
ヤング・オア・ヤング・アット・ハート?
きざがむきにならない時代
祭りと演出家の時代
口ごもる動乱期
ブームとゲリラの時代
フローの情報からストックの情報
新しい歳時記
「ナウ」な時代の不安と楽しみ
 あとがき
 おんりい・いえすたでい’60s年表
 解説 川本三郎


山崎 正和 (やまざきまさかず)
「対談 天皇日本史」
(たいだんてんのうにほんし)
文春学藝ライブラリー


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*267頁 / 発行 2015年

*カバー文
「天皇の存在が意識される時は国の調子が悪い時です。忘れられている時が健康なのです」(芳賀幸四郎)。天皇がわからなければ、日本の特殊性もわからない。シャーマンとして、政事責任者として、大元帥として。九人の天皇の治績で俯瞰する日本通史。

*目次
古代帝王天智天皇 … 井上光貞
「聖のみかど」宇多天皇 … 竹内理三
猿楽を愛した後白河法皇 … 小西甚一
怨念の人後醍醐天皇 … 芳賀幸四郎
東山文化の祖後小松天皇 … 林屋辰三郎
乱世の調停者正親町天皇 … 桑田忠親
「学問専一」後水尾天皇 … 奈良本辰也
近代化の推進者明治天皇 … 司馬遼太郎
激動に生きた昭和天皇 … 高坂正堯
天皇及び天皇制の謎 … 小松左京
 あとがき
 文庫版あとがき


山田 五郎 (やまだごろう)
「銀座のすし」
(ぎんざのすし)


*カバーイラスト・山田五郎
 カバーデザイン・中川真吾
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*180頁 / 発行 2013年

*カバー文
江戸前の握りずしは、実に不思議な料理である。もとは庶民のファストフードであったのに、フランス料理のフルコールより高くついたり、ミシュランに三つ星がついたりする。いったいなぜ、すしだけが……。当代きっての“街の達人”が銀座の名店に取材した、この類稀なる食文化の足跡。食と街との交点に浮かんできたものとは?

*目次
二葉鮨 ── 銀座のすし事始
すし栄 ── 江戸の贅沢と戦後の窮乏
新富寿し ── 下町と山の手の交差点
ほかけ ── カンバン娘の「粋」と「品」
久兵衛 ── 震災、戦災、魯山人
寿司幸 ── 美寿志の血を引く酒席のすし
なか田 ── 「二葉四天王」の職人魂
与志乃 ── 戦後「御三家」の異才
次郎 ── 世界一簡素な三つ星料理
青木 ── 義理と人情の銀座独立物語
小笹寿し ── 帰ってきた「二種の神器」
水谷 ── 二大名人が育てた人柄
青空 ── 銀座のすし新世代
さゝ木 ── 不況は追い風
すし善 ── 愛される職人像
くわ野 ── ママが認めてこそ銀座のすし
あら輝 ── 銀座から世界へ
よしたけ ── ミシュランが開いた可能性
おおの ── 銀座のくつろぎ
鮨一新 ── 浅草からの挑戦
かくとう ── 温(あたた)かいシャリ
大河原 ── 日本料理と江戸前すし
寿司田 ── 二極化する銀座のすし
 あとがき / 系譜 / 関連年表


山田 風太郎 (やまだふうたろう)
「エドの舞踏会」
 (えどのぶとうかい)


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*395頁
*発行 1986年
*カバー・村上豊

*カバー文
鹿鳴館を彩った元勲夫人たちの未だ秘められた過去……海軍少佐・山本権兵衛が、西郷従道の命令で大山厳夫人捨松と共に垣間みた権力者たち(井上馨、伊藤博文、山県有朋、黒田清隆、森有礼、大隈重信、陸奥宗光、ル・ジャンドル)の“家庭の事情”とその妻たちの数奇な運命を描き、明治政府の暗部に迫る快作。

*解説頁 中島河太郎


山田 風太郎 (やまだふうたろう)
「幻燈辻馬車」 (上下)
 (げんとうつじばしゃ)


*カバー・安野光雅
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*上巻301頁・下巻301頁 / 発行 1980年

*カバー文
上巻
干潟干兵衛、もと会津藩同心。維新後は東京で辻馬車屋を営む。馭者台に孫のお雛と、息子と妻の幽霊を乗せて……。自由民権の思想に傾倒する青年たちと、彼らのもくろみを防ごうと密偵たちがもつれあう都市で、幕末の戦争で辛酸なめつくし、唯一の生きがいである孫娘とふたり、おだやかな日々を送るはずだった中年の男は、いつしかその渦に巻きこまれていく。三遊亭円朝の講釈にオッペケペーの川上音二郎、築地の市場ですし食う伊藤博文など、豪華絢爛の登場人物が奇怪な彩りを添える。

下巻
お雛が鈴のような声で「父(とと)」と叫ぶと、血みどろの軍服に白刃ひっさげた父親の幽霊が現われて、危機を救ってくれる……。その可憐な少女を馭者台の脇に乗せて今日も干兵衛の辻馬車は東京の街を行く。欧化政策により華やかな変貌をつづける都市を背景に、幽霊となってなおわが身を死に追いやった男を恐れる干兵衛の妻の秘密、四方八方手をつくして見つからぬお雛の母の正体、そして将来を嘱望された若者たちを惨殺した自由民権運動家の野心がぞくぞくと解き明かされる。

*解説頁(下巻収録)・西義之


山田 風太郎 (やまだふうたろう)
「地の果ての獄」 (上下) 
(ちのはてのごく)


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*上巻295頁・下巻307頁
*発行 1983年

*カバー文
明治半ば、薩摩出身の有馬四郎助が看守として赴任した北海道月形の樺戸集治監は、12年以上の受刑者ばかりを集めた、まさに悪党どもが年貢を納めるにふさわしい地の果ての牢獄であった。正義感あふれる青年看守がそこで遭遇した奇怪な事件の数々を描きつつ、薩長閥政府の功罪を抉り、北海道開拓史の一齣を見事に切り開く圧巻。


山田 風太郎 (やまだふうたろう)
「同日同刻 ― 太平洋戦争の開戦の一日と終戦の十五日」
 (どうじつどうこく)


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*264頁
*発行 1986年
*カバー・辰已四郎

*カバー文
昭和16年12月8日、20年8月1日から15日―日本の針路を決定したこの運命の日々を、敵味方の指導者たちは、将軍は、兵は、民衆は、また文学者は、いったい何を考えどう行動していただろう。永年にわたって著者が蒐集した資料をもとに「同日同刻」の記録を対照しつつ、あの狂気の時代を再現して、戦争の悲劇、人間の愚かさを衝く


山田 風太郎 (やまだふうたろう)
「魔群の通過 天狗党叙事詩」
(まぐんのつうか)


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*312頁
*発行 1990年
*カバー・村上豊

*カバー文
尊皇佐幕の藩論統一を巡って、骨肉相食む日本市場唯一の「内戦」を戦い、二千人とも五千人ともいわれる死者を出した水戸天狗党の乱。敗残の武田耕雲齋、藤田小四郎らは八百余名の残兵を率い、道無き雪と氷の山中を京へ向けて死の大長征を開始した……。維新史最大のタブーに真正面から挑む異色歴史巨篇! 解説・有明夏生


山田 風太郎 (やまだふうたろう)
「明治バベルの塔 ― 万朝報暗号戦」 (めいじばべるのとう ― よろずちょうほうあんごうせん)


*カバー・天野喜孝
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*317頁 / 発行 1992年

*カバー文
― クサタヤイケハノサカアカ ―
これは某大臣の『醜聞探し』なり。それを解けば某大臣の醜聞、照魔鏡のごとく現る。さればこのたびは、懸賞金は特に一
千円とす。請う、百万の読者ことごとく参加せられよ!(本文より) 明治の大新聞、万朝報(よろずちょうほう)が仕掛けた
暗号の中身とは……。表題作ほか、珠玉の明治物三篇。

*目次
明治バベルの塔
牢屋の坊っちゃん
いろは大王の火葬場
四分割秋水伝
作者後口上
解説 金井美恵子


山田 風太郎 (やまだふうたろう)
「ラスプーチンが来た」



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*462頁
*発行 1988年
*カバー装画・村上豊

*カバー文
明治23年、ひそかに妖僧ラスプーチンが来日し、ロシア皇太子襲撃を巡査津田三蔵に教唆 ― 即ち大津事件である ― この稀代の怪物と対決するのが、負けず劣らぬ怪男児明石元二郎陸軍中尉。まさに日露戦争の前哨戦でもあった。乃木将軍・二葉亭四迷・内村鑑三にチェホフまで登場して展開される風太郎・明治意外史。

*解説頁・縄田一男


山本 健吉編 (やまもとけんきち)
「目でみる 日本名歌の旅 ― 額田王から石川啄木まで」
 (めでみるにほんめいかのたび)
文春文庫 ビジュアル版



*カバー=伊勢物語芥川図(伝俵屋宗達筆 大和文華館蔵)
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*262頁 / 発行 1985年

*目次
はじめに 山本健吉
目でみる和歌史 万葉から近代短歌まで 木俣修
歌と絵にみる日本人の美学
 水 … 塚本邦雄
 竹 … 佐佐木幸綱
 鳥 … 外山滋比古
 恋 … 中野孝次
 花 … 寺田透
 死 … 山中智恵子
 風 … 多田道太郎
 月 … 田中日佐夫
座談会と一首鑑賞 日本の名歌百五十首を選ぶ
 池田弥三郎/中西進/前川佐美雄/村野四郎/山本健吉/司会・首藤一利
歌人その生と死
 大伴家持 … 青木和夫
 紀貫之 … 目崎徳衛
 和泉式部 … 杉本苑子
 西行 … 上田三四二
 源実朝 … 安田章生
 良寛 … 宮柊二
 斎藤茂吉 … 佐藤佐太郎
 石川啄木 … 岩城之徳
名歌豆辞典 井上宗雄
執筆者リスト


山本 七平 (やまもとしちへい)
「聖書の旅」 (せいしょのたび)


*カバー写真・白川義員
 カバーAD・坂田政則
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*414頁 / 発行 1991年

*カバー文
普通の人間にはあり得ない言葉、また決して結びつかない言葉を結びつけて新しい世界を開くこと、それが「歴史における進歩」であるなら、この旧約の地こそ、その言葉を生み出した地であった。古都の神殿跡、荒野の廃址丘、オアシスの聚落…。聖書の地をひとつひとつ訪ねて、人間の歴史、永遠、聖について考える巡礼の記録。

*目次
はじめに
シナイの真珠  カデシ・パルネア ― シナイ山 ― バルダビル湖 ― アラド
契約の地  ナブルス ― ゲリジム山 ― シケム
鉄と駱駝  テル ― アシケロン ― ガザ ― ベエルシバ
倒れた勇士  ペテシャン ― ミクマシ ― ギルポア山
王位の道  ベルツヘム
逃走と亡命の日々  ユダの荒野
ダビデの逆襲  チクラゲ ― ヘブロン
勇士アブネルの謀殺  ギベオン ― エルサレム
神の革命  サマリア ― エズレル
黄金の聖都  エルサレム
流亡の民  ギメド
美女と伝説  ティベリアス ― ガリラヤ湖
失われた地  ガリラヤ湖 ― カベナウム
裏切り者の謎  ヨタファタ
ユダヤ戦記  死海 ― マサダ


山本 夏彦 (やまもとなつひこ)
「私の岩波物語」
(わたしのいわなみものがたり)
文春学藝ライブラリー


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*427頁 / 発行 2016年

*カバー文
日本出版界の魁・岩波書店は、日本語のリズムの破壊者だった ── 自ら主宰した雑誌「室内」の回顧に仮託しながら出版社、広告代理店から関連団体まで語りつくす、近代日本の「出版と言論の百年史」。稀代の名コラムニストの代表作!

*目次
私の岩波物語 / 講談社少々 / 社員でさえ読まない本「社史」 / 「暮しの手帖」と花森安治 / 「室内室外」 / 暮の二十九日だというのに / 建築雑誌というもの / 電通世界一 / 電通以前にさかのぼる / 筑摩書房の三十年 / 金尾文淵堂と小野松二の作品社 / 赤本 / 佐佐木茂索と池島信平 / 中央公論と改造そして文庫 / 原稿料・画料小史 / 和紙と洋紙 / 印刷いま昔 / 製本屋廃業の辞 / 取次「栗田書店」の面目 / 実業之日本社の時代 / 原稿料ふたたび / 「室内」の才能たち / 茶話会 / あとがき / 主要人名・社名等索引 巻末


山本 夏彦・久世 光彦 (やまもとなつひこ・くぜみつひこ)
昭和恋々 あのころ、こんな暮らしがあった」
(しょうわれんれん)


*カバー写真・毎日新聞社
 カバー・関口聖司
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*272頁 / 発行 2002年

*カバー文
原っぱや露地では、べーごまやめんこで遊ぶ子どもたちの声が響き、家には夕餉の支度に忙しい割烹着姿の母親がいた ── 。名文家二人のエッセイと60点以上の写真で甦る昭和の暮らし。山本氏は「下宿屋」「蕎麦屋」などを引き合いに戦前の東京を描き、久世氏は「日傘」「七輪」などから暮らしの四季を点描、巻末対談で大いに語り合う。

*目次
はじめに ── 昭和変々 久世光彦
第一部 戦前を見に行く ── 山本夏彦
 不忍の池 / 下宿屋 / アパート / 髪床 / 質屋 / 田園調布 / 駄菓子屋 / 蕎麦屋 / 高島屋 / 汁粉屋「竹むら」
第二部 過ぎ行く季節のなかで ── 久世光彦
 [春]
  産湯 / 割烹着 / 姫鏡台 / 入学式 / 大食堂 / 防空演習 / 予防接種 / 蓄音機 / パーマネント / 足踏みミシン / オルガン / 下駄 / 柱時計 / 風車 / 路面電車
 [夏]
  虫干し / 行水 / ラジオ体操 / 麦わら帽子 / 紙芝居 / 蚊帳 / 綿飴 / 金魚売り / サインボール / 日傘 / 花火 / 駄菓子屋 / カフェー
 [秋]
  七五三 / プロマイド / 原っぱ / 物干し台 / 縁側 / 出前持ち / 映画館 / 乳母車 / 七輪 / 露地 / 交通整理 / 似顔絵 / 羅宇屋
 [冬]
  障子洗い / 風呂敷 / 掘りごたつ / 虚無僧 / 夜警団 / お正月 / 書き初め / 福笑い / 輪タク / 質屋 / 汽車
第三部 昭和恋々 記憶のなかの風景 ── 対談・山本夏彦×久世光彦
あとがき ── もといた家も何もなく 山本夏彦