絶版文庫書誌集成

吉川英治文庫 (よしかわえいじぶんこ・旧版) 1〜10


1 剣難女難


2
「坂東侠客陣」 (ばんどうきょうかくじん)


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*339頁
*発行 昭和52年
*カバー装画・三井永一

*カバー文
 久しく上州一円に君臨していた馬庭念流は北辰一刀流・千葉周作との争覇に敗れ、没落の道をゆく。馬庭家に残されたのは道楽者の麟二郎と健気にも念流の秘文を死守せんとする妹の雪乃(ゆきの)。幕府はこの秘伝の湮滅(いんめつ)をおそれ、黄金数千枚で買上げようという機運。秘文をめぐる骨肉の争いは、色と欲がからんで関八州の剣士、侠客、盗賊など総登場の空前の乱戦。全篇すべて殺気と剣風。出世作「剣難女難」と並ぶ、著者若き日の金字塔である。

*巻末頁 「坂東侠客陣」茶話 松本昭



3
「神変麝香猫」全二巻 (しんぺんじゃこうねこ)


*カバー装画・玉村ヒロテル
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*(一巻)247頁・(二巻)244頁
*発行 昭和50年

*カバー文
(一巻)
「鳴門秘帖」や「剣難女難」の面白さを満喫された読者のかたに、次は何を読めば ― と問われたら躊躇なく「神変麝香猫」をお奨めする。歴史の史実の一片をつまみとって一息吹きこむと、五彩あざやかに紙吹雪が舞う奇術の如く絢爛たる伝奇の舞台は、読者を魅了せずにはおかない。天草の乱後、戦機気分にわきたつ江戸で、一創三百石 ― と自慢の刀傷を披露する陣佐佐衛門に蠱惑の瞳をむける湯女のお林 ― 。開巻、早くも波瀾を呼ぶ。

(二巻)
 大正三年、「講談倶楽部」に「江の島物語」が当選した作者は、作家生活を送るにはまだ若かった。さらに十年の雌伏を経て、「キング」の「剣難女難」でスタートをきる。当時、「講談倶楽部」は大衆小説の檜舞台であった。作者が本誌に初の連載として、秘材を傾けたことは充分想像される。 ― 本国追放となった高山右近の末姫の将軍憎悪。幕府転覆を企む梟雄〈きょうゆう〉正雪。これを防ごうとする智慧伊豆と小天治が三つ巴。作者、初期の代表作である。

*解説頁(二巻収録) 「神変麝香猫」茶話 清水京月



4 鳴門秘帖 全三巻



5 万花地獄 全二巻



6 江戸三国志 全三巻


7
「女来也」 (じょらいや)


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*394頁
*発行 昭和51年
*カバー装画・山本武夫

*カバー文
女来也とは何ものか ― 江戸の夜を脅かす怪盗には違いないが、べに絵売りに化けて忍びこみ、盗んだ金が四千両。残した科白がまた凄い。 ― 殺しただけでは飽きたらない。生かしておいて、もっと苦しめよう、と。狙われたお滝も、お部屋さま崩れの悪党。毒婦の悪あがきに沼津五万石、水野家の神刀“波之平”の紛失がからみ、お小姓小夜川兵馬の活躍とご存知お数寄屋坊主・河内山の跳梁など極彩色の江戸模様。著者初期の逸品である。

*巻末解説頁 「女来也」茶話 松本昭



8 貝殻一平 全二巻


9
「処女爪占師」 (おとめつめうらし)


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*297頁
*発行 昭和52年
*装丁・辻村益朗 装画・山本武夫

*カバー文
 徳川幕府が改易断絶を命じた大名はおよそ二百数十名。そのなかで、世間をアッと驚かせたもの ― 駿河大納言忠長に及ぶものはないだろう。将軍家光の実弟である。幕府の峻烈果断に人々は怖毛をふるった。これは老中土井大炊頭などの陰謀といわれる。忠長の奥方は公卿中御門家の息女墨子。人も羨む縁組であったが、内実は良人との仲は初めから遮断され、良人(つま)恋しの一念は心に燃えさかり、この恐ろしい物語を作った。著者初期の傑作。

*巻末頁・「処女爪占師」茶話 昭和四年の編集者たち 松本昭


10-1
「恋ぐるま」(全二冊) (こいぐるま)


*カバー装画・秋野卓美
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*一巻368頁・二巻372頁 / 発行 1985年

*カバー文
一巻
 著者の伝奇作品中で、これほど雄大な構想、大胆な展開はないだろう。 ― 秀頼は落城後、薩摩に下ったという信憑すべき異説により豊臣党の破天荒な再挙を描いたものである。もとより主力の大半を失った豊臣残党であるが、なお健在なる盟主秀頼、震太郎、怪力小弥太、お愛など彼等の一挙一動が、この小説を動かしてゆく。「大坂落城の翌日から直ぐ徳川時代だとは云い切れない。無視できない底流がある」。著者の持論は、見事に生かされている。

二巻
 この小説には雑誌連載中、「日本呉越軍記」という副題があった。豊臣・徳川は古〈いにしえ〉の呉越の如く不倶載天の仇敵。徳川の世を覆すべく臥薪嘗胆の辛苦を重ねる豊臣党である。さてこの小説の主人公は ― 仙台糺〈ただす〉である。豊臣方にあった日は騎龍将軍と謳われ、徳川方に寝返っては残党狩りの先登に立つ謎の人物。謎といえば怪人蜘蛛の陣羽織。正体を明かさず、神出鬼没。果たして糺の変身か? 疑いは疑いを孕み、いよいよ佳境に入ってゆく。