絶版文庫書誌集成

富士見書房・時代小説文庫 【な】


中里 介山 (なかざとかいざん)
「大菩薩峠」全20巻
(だいぼさつとうげ)


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*未完作品 / 発行 1981年

*目録文(カッコ内は解説頁執筆者)
甲源一刀流の巻
甲州大菩薩峠の頂で、老巡礼を一刀の下に切り捨てる「音無しの構え」の机龍之助。天下無双の刃は魔剣と化し、悪縁の女房お浜をも殺す。龍之助を兄の敵と狙う宇津木兵馬、老巡礼の孫娘お松、お松を助ける怪盗七兵衛を軸に物語は展開する。時代小説の巨峰中里介山が、生々流転の人間の運命を描く未完の大長編小説! (尾崎秀樹)
龍神の巻
大和路をさまよう龍之助は、お浜と生写しのお豊に会い、安らぎの一時を過す。それも束の間、再び剣を手に天誅組に加入し失明して、紀州龍神温泉に落ち延びる。龍之助のため遊女となったお豊は、間の山のお君に遺書と身代金を託し自害……。お君の幼馴染みの宇治山田の米友は、神医道庵先生に救われ九死に一生を得る。 (桑原武夫)
女子と小人の巻
甲州路に虚無僧姿の龍之助を負う兵馬は、思いもかけぬ無実の科で牢内へ……。甲府勝手に回された悪旗本神尾主膳は、弱輩の駒井能登守の勤番支配赴任に心楽しまず、様々な奸計をめぐらす。お角敷率いる女軽業でわく甲府市内に、夜な夜な生血を求めて魔剣を振う龍之助の姿があった! (武蔵野次郎)
如法闇夜の巻
駒井の寵愛を受けるお君を妬む甲州有野村の馬大尽の娘お銀様は、あわや主膳の毒牙にかかるところを龍之助に救われる。己の醜怪な容貌を呪うお銀様と無明の剣士龍之助はいつしか結ばれるが、二人がたどり着いた家は、あろうことか龍之助が自ら手にかけた女房お浜の生家だった! またしても辻斬りに走る龍之助……。 (松本健一)
道庵と鰡八の巻
下谷長者町の名医道庵先生は、隣に成金・鰡八大尽の妾宅が建った腹いせに、嫌がらせをして手錠三十日の刑を受ける。主膳の謀略で失脚した駒井は、王子滝の川で西洋式火薬製造研究に没頭する。一方、大洪水で笛吹川に流された龍之助は猛犬ムクに助けられ、お銀様と共に主膳と淫婦お絹のひそむ染井の化け物屋敷へ……。 (福田善之)
小名路の巻
本所弥勒寺長屋で米友の世話を受けながらも、龍之助の辻斬りはやまず、両国ではお角が清澄山の奇童茂太郎の珍芸で大当りをとる。兵馬は月夜の武蔵野でふとすれ違った天蓋姿の龍之助から尺八の痛打を受け、もろくも小指を砕かれた! 武州高尾山に眼疾を養う龍之助は蛇滝に打たれること百日。眼にかすかな光が……。 (奥野健男)
無明の巻
龍之助は甲州上野原の月見寺に身を寄せ、寺の娘お雪に慕われる。女色に溺れる兵馬も月見寺にたどり着くが……。房州洲崎で船の建造に専念する駒井は相愛のお君の訃報に接し、聾唖の中国少年金推の手引でキリスト教研究を志す。お雪に伴われ信州白骨の湯を目指す龍之助は、塩尻峠で梟雄仏頂寺らと凄絶な死闘を! (秋山駿)
他生の巻
白骨の湯にお雪の世話で養生に努める龍之助はしばしの安息を貪る。月見寺でお銀様から龍之助の消息を聞いた兵馬は白骨に向かうが、お銀様は兵馬を龍之助に会わせまいと図る。武州沢井の龍之助道場では、与八とお松が龍之助と駒井の子を育てつつ寺子屋を……。道庵は米友と中仙道を行き、駒井は豪傑田山白雲を知る。 (白井佳夫)
流転の巻
道庵は米友を供に旅を続けるうち、松本城下で偽市川海老蔵一座を相手に大活躍を演じる。怪盗七兵衛は江戸城御金蔵破りに忍び込むが、七兵衛の前に現れたのは意外や薩摩の侍たち……。お銀様は兵馬に愛想づかしを言って別れ、遭難しているおしゃべり坊主弁信を助けて、有野村の自分の家へ連れ帰る。 (島尾敏雄)
めいろの巻
房州洲崎の駒井と白雲のもとに、一夜奇妙な西洋人マドロスが闖入して大騒ぎ、沢井に与八が建てた地蔵堂に不吉な絵馬が七兵衛によって奉納され、与八の身の上話を聞く七兵衛の心はなぜか動揺する。故郷に戻ったお銀様の本宅は焼け、焼死した父伊太夫の後妻とその子の菩提を弔うべく、弁信は懸命に読経供養するが……。 (足立巻一)
十一 鈴慕の巻
冬の白骨の湯に玲瓏と冴え渡る龍之助の尺八の音。その『鈴慕』に誘われるがごとく兵馬も一度は客となるが、相まみえることなく去る。賑わう炉辺閑話のうちに、お雪の心は次第に曇る。駒井は蒸気機関入手のため沈没船を引き揚げ、白雲は水郷へと足を延ばす。道庵は豊太閤の生地尾張中村で供養式をしようと怪気炎。 (いいだもも)
十二 畜生谷の巻
白骨に不穏の気を感じたお雪は龍之助を白川郷に導こうとするが、飛騨高山で兵馬と相近づいた時、突然の大火に巻き込まれる。お角は甲州にお銀様を訪ね、旅へ連れ出すと、図らずも鳴海で米友に出会わす。房州駒井のもとにお松の使いで七兵衛が現れ、折からマドロスが村人のリンチに遭うところを一肌脱ごうと言う……。 (永井泰宇)
十三 流勿来の巻
房州洲崎では蒸気船建造が進み、マドロスを救出した七兵衛の勧めで、駒井はお松とわが子登を呼び寄せる。しかし与八は日本霊場一周の志固く、龍之助の子郁太郎を連れ西へ旅立つ。飛騨高山では龍之助が血を求めてさまよい歩き、醜く変った容貌の主膳は退廃生活のうちにも、柄になく書道に親しむ。 (大島渚)
十四 不破の関の巻
好色な飛騨代官にさらわれたお雪の救出に向かった龍之助は、代官の首をはね、その妾お蘭を連れ一路南へ逃避行。与八はお銀様の父伊太夫の下で働くうち、その無欲は人柄を見込まれ、郁太郎共々養子話が持ち上がる。竣工なった駒井の船は勇躍石巻を目指し、白雲を待つ七兵衛は青葉城を前に、忍び込みの欲求に抗しがたい。 (佐藤忠男)
十五 白雲の巻
関ヶ原に龍之助の殺人剣が舞い、『鈴慕』の音は人々を夢幻境に誘う。龍之助に再会したお銀様はその地に理想王国建設を考え、道庵は関ヶ原模擬戦に興じる大茶番を。駒井の船は仙台月の浦湾に漂着し、マドロスと兵部の娘が出奔。七兵衛は仙台藩の秘宝を盗むが、藩命を受けた仏兵助の手で囚われの身に。 (折原脩三)
十六 胆吹の巻
江州胆吹山麓にお銀様の理想王国建設が進み、米友は開墾に、お雪は勘定方に従事する。そのうち弁信もやって来るが、お雪は果てしなく修羅の巷にさまよう龍之助の幻怪に怯える。甲州の伊太夫の家では、与八が木喰上人の再来と敬われ、芸妓福松と共に白山詣に出た兵馬は、奇しくも小鳥峠で仏頂寺らの自決を目撃する。 (西尾忠久)
十七 恐山の巻
留守を与八に委ね伊太夫は西国へと旅に出るが、がんりきの百蔵に脇差を奪われる。その脇差の買取りをお銀様に迫るや龍之助の剣が一閃、百蔵の指が宙に飛ぶ、白雲は出奔したマドロスと兵部の娘を見つけ、道連れとなった居合の達人柳田平治に船へ届けさせる。囚われの身の七兵衛も奇策を弄し、まんまと逃亡に成功。 (竹盛天雄)
十八 農奴の巻
米友が捕えられ、農奴逃散の見せしめに斬首されるという。お角らは救出運動に走る。無名丸は白雲を迎えて急遽船出し、七兵衛は仏兵助の必死の追跡を受ける。一夜龍之助と湖上に出たお雪は狂乱して死を迫り龍之助の手が首に……。王国建設はお銀様の意の如く進まず、道庵の無軌道と弁信のおしゃべりは相も変らず。 (志茂田景樹)
十九 京の夢おう坂の夢の巻
伊太夫とお角の乗る大船に龍之助とお雪が引き揚げられ、やがてお雪は手当てを受けた健斎に伴われて田辺に行く。肝吹王国に百姓一揆勢が押しかけるという。軍師晴嵐居士は手勢を率いて多量の米俵と銭を運び、麓の一揆勢の前に積み上げる……。新選組と御陵衛士が斬り合う京の町に、斎藤一に伴われた龍之助が現れる。 (横尾忠則)
二十 椰子林の巻
兵馬は福松を福井城下に残し、京の町をさまよう龍之助を追う。南進する無名丸は無人島を発見し、ここに新世界を作るため開墾を始める。胆吹王国は崩壊するが、お銀様は美術品の収集に意欲を燃やす。有野村の与八は村人らに食糧の増産を説く。多彩な人物の行動は、激しい時代の動きの中に茫々として果てしもない……。 (伊藤和也)


南條 範夫 (なんじょうのりお)
「暁の群像 ― 豪商岩崎弥太郎の生涯(上下)」
 (あかつきのぐんぞう)




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*上353頁・下447頁
*発行 平成元年
*カバー装画・大島哲以

*カバー文

 三菱財閥の創始者 ―― 岩崎弥太郎は土佐藩下士層の出身のいごっそうである。
 幕末変革期、土佐勤王党に加わらず、父の汚名をそそごうと役人を誹謗し、投獄される。牢の中で知り合った瀬左衛門に処世の術や算用の法を教わり、世の中に生きていくには信念のみではだめで、権力に真正面からむかうのではなく、これを利用する方が得と知る。
 時代の波にうまく乗り、土佐藩の経済的実務にたずさわるうちに、動乱と戦火の中政商としての地位を固めていく岩崎弥太郎! その若き日の生涯を維新で活躍する少壮の士達と共に描いた長篇歴史ロマン!


 旧土佐藩と手を切り、土佐商会から三菱商会へと大きく飛躍した岩崎弥太郎はこれまで以上にワンマンとなった。権力の中枢にくいいるためあらゆる饗応政策をとり、明治新政府の保護の元、次々とライバル社や外国資本との制海権などの勝利を手にして行く。
 後藤象二郎、伊藤博文、大隈重信、大久保利通、西郷隆盛等 ―― 黎明期日本の群像をワイドな眼でとらえ、岩崎弥太郎が経済界の覇者となっていく有様を雄大に描いた著者の代表的傑作長篇!

*解説頁(下巻収録)・尾崎秀樹


南條 範夫 (なんじょうのりお)
「古城物語」
 (こじょうものがたり)


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*307頁 / 発行 平成二年
*カバー装画・大島哲以 / カバーデザイン・熊谷博人


*カバー文
「正清殿、おれは怖ろしい事を聞いた。殿は天守築営の秘密が洩れるのを怖れておられる。このまま、ここにいては殿に殺されるぞ」 ― それは多くの築城家の上に落ちた運命だ。松永弾正の命をうけ多聞城と志貴山城の天守閣を築いた中村正清は脱走し、信長に拾われ安土城を完成する。しかし又もや正清は鬼門櫓に幽閉された……!
 あらゆる術策を以て築城家の不当な運命と闘い、生命と名を後世に遺した中村正清の稀有な一生を描いた「安土城の鬼門櫓」他、城に秘められた人間の野望、残酷さ、怨念を描いた傑作短篇集。

*目次
安土城の鬼門櫓 / 大坂城の天守閣 / 春日山城の多聞堂 / 名古屋城のお土居下 / 稲葉山城の一の門 / 熊本城の空井戸 / 姫路城の切腹丸 / 彦根城の廊下橋 / 鹿児島城の蘇鉄 / 解説 鈴木亨


南條 範夫 (なんじょうのりお)
「戦国残酷物語」
(せんごくざんこくものがたり)


*カバー装画・大島哲以
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*322頁 / 発行 1988年

*目録文
飛騨国の貝森城主長屋左衛門尉宗綱は鍋山豊前守利景の急襲をうけ滅びた。その子宗之は利景に十年がかりで復讐の後、片眼を焼き指をつぶし鼻や耳をけずり片足を折って重労働に従わせた。戦国を舞台に環境次第で、残酷無比になれる人間の業と生きざまを簡潔な文体で見事に描出した作品集。

*目次
復讐鬼
ハナノキ秘史
裁きの石牢
草鞋の墓碑
第三の陰武者
雷神谷の鬼丸
 解説 尾崎秀樹


南條 範夫 (なんじょうのりお)
「続・古城物語」
 (ぞくこじょうものがたり)


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*255頁 / 発行 1990年
*カバー装画・大島哲以 / カバーデザイン・熊谷博人

*カバー文
 七尾城の本丸と二の丸に馬場がある。何故こんな山頂にあるのか? 又、平子谷に臨む断崖の上にある西の丸の一角の巨大な石は何を意味するのか? 七尾城六代城主畠山義続は無能文弱で、好色、残忍な性格の持ち主であった。
 畠山一族の叛逆、陰謀、虐殺にまみれた陰惨な末期と上杉謙信による滅亡を描いた「七尾城の桜の馬場」他、封建社会における人間集団のもつ残酷さを描いた7篇を収録。

*目次
七尾城の桜の馬場 / 福井城の鼠牢 / 金沢城の百間堀 / 松山城の石垣 / 江戸城の大奥 / 人吉城の巡見使 / 宇都宮城の間道 / 亀洞城の廃絶


南條 範夫 (なんじょうのりお)
「鉄砲商人」
(てっぽうしょうにん)


*カバー装画・大島哲以
(画像拡大不可)

*302頁
*発行 1991年

*目録文
永禄十一年、織田信長は堺の町に矢銭を課した。堺の会合衆はこれを拒絶し、浪人隊を傭い入れ織田の攻めに備えた。鍛治職で鉄砲商人の徳左衛門は偵察にきた信長の使者・藤吉郎に堺の会合衆を名乗り、裏で話をつけた。戦国時代を陰であやつった鉄砲商人のすさまじい才智と欲を描いた表題作他、各種商人の活躍を描いく。

*収録内容
抛銀商人 / 鉄砲商人 / 人買商人 / 材木商人 / 堕胎商人 / 御用商人 / 士族商人 / 呉服商人 / 解説 山田智彦


南條 範夫 (なんじょうのりお)
「武士道残酷物語」
 (ぶしどうざんこくものがたり)


*カバー装画・大島哲以
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* 246頁 / 発行 1988年

*カバー文
「何れの方か存じねど、主命なれば是非もなし、お恨みあるなよ」というなり修蔵は暗闇に座っている女二人を斬った。己れの妻と娘とも知らずに……。
 主君の安高は残虐な笑いを浮かべ修蔵に褒美をとらせた。信州矢崎の小大名・堀氏に仕えた飯倉家は切腹、殉死で家禄を守り、男色、性器切断、娘の妾奉公などあらゆる屈辱や嗜虐に耐え続けたのである。
 武士道社会におけるマゾとサドを内包した主君と家来の主従関係をえぐり出した傑作作品集!表題作他5篇を収録。「戦国残酷物語」に続く残酷シリーズ第2弾!

*収録作品
時姫の微笑
梟首
天守閣の久秀
憎悪の生涯 大久保石見守長安
名君無用
被虐の系譜 武士道残酷物語


南條 範夫 (なんじょうのりお)
「わが恋せし淀君」 
(わがこいせしよどぎみ)


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*267頁
*発行 1989年
*カバー装画・大島哲以

*カバー文
 雑誌の編集者・誠之助は仕事で大坂城に来ていた。長い間、あこがれを抱き続けた淀君の取材のためである。石垣にもたれ、豊かな黒髪の下に絶望と瞋恚に瞳をひからせた妖しく白い顔の淀君が火に逐われる姿を夢想している時、突然石がぐらりと動き、誠之助はいつか、慶長19年にタイムスリップして……。
 豊富な資料に基づき、大坂冬・夏の陣に揺れ動く淀君と淀君に魅惑されている家臣達の有様を描いた面白・傑作時代読み物!

*解説頁・星新一