絶版文庫書誌集成

角川文庫 【あ】

赤江 瀑 (あかえばく)
「上空の城」
 (じょうくうのしろ)


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*199頁
*発行 昭和61年
*カバー・村上昂

*カバー文
 夏。 ――
 眉彦は、信州の松本城で、はじめて世古螢子に出会った。彼女は、強い日射しの中に黒々とそびえたつ大天守を、一人放心したように眺めていた。そして、二人の愛がしだいに深まったある日。螢子は、窓も何もない、真っ暗な城を描いた自分の絵を見せながら、おびえた顔でいった。「この絵のお城は、決して架空のものなんかじゃない。この世のどこかに実在するわ」
  ―― 妖気漂う、オカルト・ロマン!

*解説頁・武蔵野次郎


赤江 瀑 (あかえばく)
「花酔い」
(はなよい)


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*281頁 / 発行 昭和61年
*カバー・村上昂

*カバー文
 京都郊外の修学院離宮つづき山のふもとに住む驍彦は教育大学の体育教官、古城町の靖二郎は配繕師。高台寺の料亭「一蝶」の女主人醍子、木屋町のクラブ「シャガ」のママ東子。四人は何かあると一緒に行動する仲好しだが、それぞれが母を異にするきょうだいである。醍子の悪相の印鑑を日本印章大社へお払いに行った帰り道、深草僧坊山の行者道の竹林に死体を見つける。
 その日以来、四人の生活に不可解な出来ごとが次々と起こる。
 賑やかに咲き乱れるジギタリスに花酔いしたかのように乱れる四人の微妙な関係が、京の四季の中で、愛の輪舞となって揺れうごく。
 京都を描く、赤江瀑の新境地。

*解説頁・尾崎秀樹


浅井 愼平 (あさいしんぺい)
「カメラはスポーツだ ― フットワークの写真術」


(画像拡大不可)

*204頁
*発行 昭和58年

*カバー文
ぼくはぼくの河をさがしている。 写真を撮りながらぼくの河をさがしているうちに、さまざまなことを知った。スポーツにしろ、芸にしろ、ひとつのことを、やり続けていくと、ある種の思想といったようなものが身につきはじめるのではないか。 ぼくはぼくの河をさがしつづけるだろう。この本は、あまりできのよくない写真家の兄貴が酒を飲みながら弟や妹にきかせている写真についてのたわごとだと思ってほしい。 そして、兄貴も、たまにはいいこともいうなあと思ってくれたら、うれしい。 浅井愼平

*解説頁・佐野寛


浅井 愼平 (あさいしんぺい)
「気分はビートルズ」 (きぶんはびーとるず)


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*220頁 / 発行 昭和58年
*カバー写真・浅井 愼平

*カバー文
 ついこのあいだのこととしか思えない。だがもう、アルバムの写真は、うすいセピアを帯びてしまった。 ― 1966年6月29日、浅井愼平は、彼にとって唯一の武器であるカメラで身をよろい、かれらを狙い、かれらを撃つべく待機していた。その後7月3日午前、かれらが羽田から飛び去っていくまで、彼はひたすらにかれらを撃ち続ける。
 「気分は……」というタイトルは、あるいはいささかの疲労のなかで、つぶやきとして若いカメラマンのくちびるにのぼってきたのでもあっただろう。以来、「気分は」というロキューションは、日本語のなかで新たな色合いを帯び、無数の言い替えとニュアンスのイミテーションをうむことになった。
 ‘60sのShimpei A.から‘80sのあなたへのささげもの ― 「気分はビートルズ」、文庫版で新登場!

*解説頁・川本三郎


アナトール・フランス (Anatole France) 岡野 馨訳 (おかのかおる)
「舞姫タイス」
(まいひめたいす)


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*215頁
*発行 昭和27年
*旧仮名旧字体
*カバー画像・「リバイバル・コレクション」版(平成元年8版)

*カバー文
博学フランスの名文は、聖者パフニュスと、踊子タイスの交渉を描きながら、古代アレキサンドリアの生活や、迫害を避けて砂漠をさすらうキリスト教徒の生活をいきいきと再生させている。


阿部 次郎 (あべじろう)
「三太郎の日記」 
(さんたろうのにっき)


*カバーデザイン・杉浦康平
(画像はクリックで拡大します) /

*349頁 / 発行 1979年

*カバー文
自己喪失と生きることへの疑問。
その人類永劫の苦悶をかかえ、なお高潔なる人格を求めてやまぬ、著者の若き日の苦悩と思索の記録。
一語の空語も一行の疎論もない、驚くべき真摯さと強靭な思索態度は、時代と主義・思想を越えて、若者の心をうたずにおかない青春の書。
初版本「三太郎の日記」を定本に、第一、および第一補遺を通読に容易な現代表記本文に、基本的な注釈を加え、永遠の名著を改めて世に贈る。

*目次
 文庫版凡例 / 自序 / 凡例 / 断片

三太郎の日記
 一 病者の歌 / 二 ヘルメノフの言葉 / 三 心の影 / 四 人生と抽象と / 五 さまざまのおもい / 六 夢想の家 / 七 山上の思索 / 八 生と死と / 九 三様の対立 / 十 蚊帳 / 十一 別れの時 / 十二 影の人 / 十三 三五郎の詩 / 十四 内面的道徳 / 十五 生存の疑惑 / 十六 個性、芸術、自然 / 十七 年少の諸友の前に / 十八 沈潜のこころ / 十九 人と天才と / 二十 自己を語る
人生と文芸
 一 描写の題材と描写の態度 / 二 内生活直写の文学 / 三 内生活直写の文学(再び) / 四 文壇の社会問題 / 五 作家と批評家 / 六 作者と批評家(重ねて) / 七 でたらめ
 解説 北住 敏夫 / 年譜 北住 敏夫


網本 尚子 (あみもとなおこ)
「謡曲・狂言 ビギナーズ・クラシックス日本の古典」
(ようきょく・きょうげん)
角川ソフィア文庫


*カバーデザイン・谷口広樹
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*314頁 / 発行 2010年

*カバー文
「高砂や、この浦舟に帆をあげて……」という有名な祝言のフレーズは謡曲「高砂」の一節。中世が生んだ伝統芸能、謡曲と狂言はどんな文学なのであろうか。謡曲の五番立から代表作の「高砂」「隅田川」「井筒」「敦盛」「鵺」を、狂言からは「末広かり」「千切木」「蟹山伏」を取り上げ、現代語訳で読む入門書。幽玄といわれる能と、コミカルな狂言を文学として味わい、演劇としての特徴をわかりやすく解説。

*目次
はじめに
〔謡曲〕
 □高砂 能 初番目物(脇能)
 □敦盛 能 二番目物(修羅物)
 □井筒 能 三番目物(鬘物)
 □隅田川 能 四番目物(雑物)
 □鵺 能 五番目物(切能)
〔狂言〕
 ◇末広かり
 ◇千切木
 ◇蟹山伏
コラム
 ★現代劇と能の違い
 ★能・狂言の歴史
 ★能・狂言の種類
 ★能に描かれる世界と狂言に描かれる世界
 ★世阿弥の名言
 ★間(あい)狂言
 ★能・狂言の演技
 ★狂言の登場人物
 ★能・狂言の流儀
 ★観客はどのように鑑賞すればよいか
付録 / 解説


荒俣 宏 (あらまたひろし)
「想像力の地球旅行 荒俣宏の博物学入門」
(そうぞうりょくのちきゅうりょこう)
角川ソフィア文庫


*装幀者・杉浦康平
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*462頁 / 発行 2004年

*カバー文
博物学は観察して目玉を楽しませる行為であり、記述する楽しみである。地球の上を実際に歩き、生きているモノを自分の目でみて確かめる。そこから、擬態や植物地理学、さらには進化論までもが啓示された。生物を分類したリンネ、変異や特異性に注目したビュフォンやジョフロワ、生物地理学を創始したフンボルト、機能による分類を達成させたキュヴィエ。そして死と繁殖の観念から歴史としての生物論に到達したエラズマス・ダーウィン ―― 。楽しみの学問から様々な知の体系が花ひらいたのである。荒俣宏が時空をまたにかけて案内する、博物学入門の決定版!

*目次
第一章 近代以前の博物学 ―― 寓意から占いまで
第二章 探検博物学のあけぼの
第三章 未知の大陸をもとめて
第四章 世界をかけめぐる探検家
第五章 博物学の熱中時代
第六章 地球観光旅行としての博物学
第七章 自然物の体系化
第八章 分類学の完成
第九章 夢の魚をめぐって
第十章 視覚の快楽、博物図鑑の楽しみ
 T 十八世紀の三大蝶譜 / U ジョン・グールドの世界 / V 怪異な鯨絵のゆくえ
第十一章 進化論の衝撃
第十二章 江戸の博物学
第十三章 海を渡った江戸の動物たち
第十四章 江戸の博物図鑑はどうしてできたか
第十五章 地下に眠る博物館の夢
第十六章 超人の夢 南方熊楠
 あとがき 博物学探求は〈険(おか)す〉ことにあり


有明 夏夫 (ありあけなつお)
「大浪花諸人往来 耳なし源蔵召捕記事」 
(だいなにわしょにんおうらい)


*カバー・沢田重隆
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*352頁 / 発行 昭和55年

*カバー文
 大阪朝日町東筋に住む源蔵親分は、旧幕中は十手取縄を扱い、御維新後は捕亡下頭として警察の末端に繋がっている。特異な容貌と度胸のよさを売物に浪花の街ではちょいとした顔で「海坊主の親分サン」といえば知らぬ者はいない。
 明治十年に勃発した西南の役でいまだ世情定まらぬ大阪で頻発する事件を迫って源蔵親分は今日も大奮闘。西郷はんのニセ写真が売られている話や東京の掏摸(チボ)が大挙して出稼ぎにくる噂などいつも頭を悩ますものばかりだが。
 豊富な資料を基に、俊英有明夏夫が明治開化期の生き生きとした世態、細やかな人情を描いた長編連作小説。第八十回直木賞受賞作。

*目次
西郷はんの写真 / 天神祭の夜 / 尻無川の黄金騒動 / 大浪花別嬪番付 / 鯛を探せ / 人間の皮を剥ぐ男 / 解説 武蔵野次郎


有明 夏夫 (ありあけなつお)
「狸はどこへ行った ― 大浪花諸人往来第2集」 (たぬきはどこへいった・だいなにわしょにんおうらい)


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*320頁 / 発行 1981年
*カバー・NHKドラマ化カバー

*カバー文
 「へぇ――たぬきを捜したげてほしいんだす」天神祭も終った七月末のある朝、曽根崎新地の名花・駒千根〈こまちね〉が持込んできた話に源蔵は目を白黒させた。
 聞けば堂島に、いつの頃から一匹の狸が棲みついたという。物珍しさに見物客が集まるようになり、その上その狸をネタに博奕〈ばくち〉が開かれていた。その狸が逃げた。―― 「このわしに、その狸を捜して歩けちゅうのか?」
 新聞投書家徳兵衛、厚木十等警部、イラチの安に加えて、あでやかな芸子〈ねこ〉駒千根が馴染みのメンバーに仲間入り。華やかな雰囲気の中で、御存知「海坊主の親方サン」が、文明開化の浪花の街を舞台に大活躍。直木賞受賞作に続く待望のシリーズ第二弾!

*解説頁・磯貝勝太郎


アルチュール ランボオ著・金子 光晴訳 (Arthur Rimbaud・かねこみつはる)
「イリュミナシオン ランボオ詩集」
(Les iIluminations)


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*291頁
*発行 1999年
*カバー・Photo SHUNICHI YAMAMOTO / amana images

*カバー文
20歳までに詩才のすべてを燃焼させ灼熱の砂漠へ消えていった早熟な天才詩人ランボオ。だれもひらいたことのない岩穴の宝庫をひらき、幻想的な感覚の世界を表現した彼の作品は、今なお光り輝き、年月を重ねるごとに新鮮な衝撃を与え続けている。本詩集には『イリュミナシオン』『酔っぱらいの舟』を含む代表作を網羅した。


安房 直子 (あわなおこ)
「きつねの窓」 
(きつねのまど)


*カバー装画・杉田 豊
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*269頁 / 発行 昭和50年

*カバー文
 ききょうの花の咲きみだれる野原で出会った白い小狐と若者の心あたたまるふれあいを、豊かにいろどられた、不思議に美しい空想の世界に創りあげた「きつねの窓」。人間実存のどうしようもない哀しみを描いた「鳥」。何とも愉快な小人の魔法で笑わせる「魔法をかけられた舌」、などメルヘンの楽しさを十分に満喫させ、読者をぐいぐいと夢と現実のハーモニーの中に引きずり込まずにはおかない短編の数々。
 独得のおもしろい着想と美しい詩想で、高まりつつあるファンタジーを求める声に答え得る有望な新人としてデビューした著者の清新なメルヘン10編を収録。

*目次
きつねの窓 / 北風のわすれたハンカチ / 小さいやさしい右手 / さんしょっ子 / 魔法をかけられた舌 / 緑のスキップ / 鳥 / もぐらのほった深い井戸 / 夕日の国 / だれも知らない時間
 解説 山室 静 / あとがき / カット 杉田 豊


安藤 鶴夫 (あんどうつるお)
「巷談本牧亭」
 (こうだんほんもくてい)


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*336頁
*発行 昭和44年
*カバー、挿絵・田代光

*カバー文
 上野広小路のとある横丁にかわいい幟を立てた「本牧亭」。講談を愛する少数の定連客と女主人の心意気とでようやく経営を支えられる寄席である。天涯孤独の老講釈師桃川燕雄、その古武士のような人柄と芸に惚れ、献身的同居生活を送る元車夫福松、古典芸能の深き理解者近亀先生など、それに係る様々な人物達の生きざまを、すたれゆく寄席芸と下町人情への限り無い哀惜をこめて描く珠玉作品。

*解説頁・槌田満文