絶版文庫書誌集成

角川文庫 【み】

ミカ・ワルタリ著 (Mika Waltari) 飯島 淳秀訳 (いいじまよしひで)
「エジプト人〈上中下巻〉」
 (The Egyptian)

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*上巻274頁・中巻319頁・下巻260頁 / 発行 昭和35年
*カバー画像・平成元年発行「リバイバル・コレクション」版カバー

*カバー文
人々を魅了してやまない
古代エジプトを舞台に、
紀元前一四世紀の怪奇、愛欲、
冒険等がユーモアのなかに
絵巻物のように展開する。
作者の比類なき空想力が生んだ
稀代の冒険小説。


三島 由紀夫 (みしまゆきお)
「純白の夜」
 (じゅんぱくのよる)


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*166頁
*発行 昭和31年
*カバー・川上成夫

*カバー文
 著者のはじめての連載小説として昭和24年に発表されたこの作品は、あまり注目されていないようであるが、フランスの心理小説の伝統をついだものとして、その卓抜な頭脳の生んだ知的な小説であり、代表作の一つとも言えよう。戦後文壇の逸材たる三島の才気はおどり、天才作家レイモン・ラディゲを思わせる。

*解説頁・蘆原英了


水上 勉 (みなかみつとむ)
「うつぼの筐舟」
 (うつぼのはこぶね)


*カバー装画・栃折久美子
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*204頁 / 発行 昭和37年

*カバー文
 昭和三十X年十月半ばの夕刻、佐渡宿根木部落の少年糸吉は、丸木舟で海へ出、ある岩蔭の水面に異様なものを発見した。長さ三メートル以上もある、細長い黒褐色の木箱だった。浜に集まった大人たちの手で、その蓋は開かれたが、中には、口もとに薄桃色の紅をさした、美しい女の死体があった……。
 古来から裏日本に伝わる〈うつぼ舟〉の悲しい風習を作品世界に見事に活かして、薄幸な男女の運命を浮彫りにした珠玉の表題作など、直木賞受賞直前の名作五篇を収録。

*目次
うつぼの筐舟


おえん
案山子
 解説 奥野健男


水上 勉 (みずかみつとむ)
「湖の琴」 
(うみのこと)


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*428頁
*発行 昭和43年
*カバー・斎藤真一

*カバー文
 琵琶湖北岸の山中に、静かに水を湛えた余呉の湖――若狭生まれの栂尾さくは、そのほとりの西山部落に繭の糸取り女として働いた。そして同郷の男衆宇吉を知り、互いの将来を約したが、宇吉出征後、京の長唄師匠桐屋紋左衛門に見染められたことから運命は狂う。著者一流の暗鬱な抒情と、流麗な筆致で、薄幸な女の命を描く評判作。

*解説頁・尾崎秀樹(おざきほつき)


水上 勉 (みなかみつとむ)
「銀の川」
 (ぎんのかわ)


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*234頁
*発行 昭和56年
*カバー・斎藤真一

*カバー文
 秩父の景勝地、荒川上流にある長瀞の下流玉淀で、ある秋の朝、一つの変死体が発見された。
 前日の夕方、崖っぷちの旅館に投宿した、井田美保子と名乗る30歳すぎの女性で、熊谷市議会議員堂島の後妻、短歌をたしなむ美貌の持主であった。
 さらに捜査の進展につれて、美保子の秘められた過去が明らかにされてゆく。貞淑な風姿の裏に隠された、奔放な男性遍歴。一方、豚肉業界の黒い霧がしだいにクローズアップされてくる。
 錯綜するどす黒い人間関係と、妖しい女の欲望に彩られた、著者初期の長編名作ミステリー。

*解説頁・祖田浩一


水上 勉 (みなかみつとむ)
「死の流域」 (しのりゅういき)


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*262頁
*発行 昭和43年
*カバー・栃折久美子

*カバー文
 9月のある夜、北九州筑豊の炭坑に陥没事故が突発、50余名の坑夫が生き埋めとなった。その混乱のさ中、町外れの土手に男の他殺死体が発見された。男はカナリヤの鳥籠を抱え、右手に2本の指を欠く。男の身元は? 欠けた指の謎は?…開始された捜査は、徐々に生き埋め事故との意外な関係を明かして行く。迫真の社会派推理小説。

*解説頁・奥野健男


水上 勉 (みなかみつとむ)
「男色・好色」
 (だんじき・こうしょく)


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*316頁 / 発行 昭和49年
*カバー装画・栃折久美子

*カバー文
 私は、雅美を九州博多のバーで知った。その店でシェーカーをふる彼は、女よりも美しい、雪のようになめらかな肌と澄んだ瞳を持っていた。その美しさに魅かれた私は、ゲイバーに勤めを変えた彼と馴染み、その生いたちを知った。山陰に生まれ、幼くして両親と死別、寺に預けられて少年時をすごしたという、淋しい境遇は、私自身の過去を想い出させた。
 雅美の躯の冷えが温められるものなら、私の冷えた躯でそうしてやりたい、私は心にそう思った……。
 一ゲイボーイの薄幸の生を見つめて、人間の生きる哀しさを浮彫りにした名作「男色」。ほかに、官能作家の人間性を鋭くえぐる「好色」一編を加える。

*解説頁・川嶋至


水上勉 (みずかみつとむ)
「棺の花・那智滝情死考」
 
(ひつぎのはな・なちのたきじょうしこう)


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*356頁
*発行 昭和44年
*カバー装画・栃折久美子

*カバー文
30を過ぎて手に入れた新婚の夢も束の間、谷本仙子の遺体は棺のなかで白い菊の花に埋もれていた…。煤煙に汚れた灰色の空の下、鈍色に光る荒川放水路のほとりの小さな製版工場に起こった悲劇 ― 青酸加里による殺人事件の陰に、幸薄い女の運命を浮彫りにした中篇「棺の花」と、投身心中にまつわる悲話を哀切に綴る「那智滝情死考」を併載。

*解説頁・奥野健男


水上 勉 (みずかみつとむ)
「兵卒の鬣*」 (へいそつのたてがみ)


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*220頁 / 発行 1981年
*カバー・斎藤真一

*カバー文
 妻が妊娠中の安田万吉の許へ来た一銭五厘の召集令状 ― それはつきつめれば、国のために命をよこせということであり、逃亡すれば本人は服役、家族まで国賊扱いされる代物だった。
 軍隊のなかでも最低の特務兵(輜重輸卒=しちょうゆそつ)として、輓馬・駄馬の調練に明け暮れる主人公の悲惨な毎日を、凄じいばかりの記憶力と克明な描写によって再現する。
 本書は、著者自身の体験を対象として書かれた。第七回吉川英治文学賞受賞の戦争文学の名作である。

*解説頁・結城昌治

*本書の題名で使われている「鬣(たてがみ)」が表示できません。正しくはカバー画像で確認して下さい。


水上 勉 (みなかみつとむ)
「弥陀の舞」
(みだのまい)


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*462頁
*発行 昭和47年
*カバー・斎藤真一

*カバー文
 越前の山合いの村に育ったくみは、15の冬、紙漉きの名人弥平の下で働く。大柄で色白の、早熟な体つきは仕事場の男衆の眼を惹き、牛太、宇佐の2人と結ばれたが、その熱い抱擁の中に浮ぶのは、尼の身で父無し子の自分を生んだ、行方知れずの母の面影だった。…明治の世に生きる一紙漉きの女の一生を、流麗な筆致で描く名作。

*解説頁・村松定孝


三宅 泰雄 (みやけやすお)
「空気の発見」
 (くうきのはっけん)


*カバー・栃折久美子
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*142頁 / 発行 昭和37年

*カバー文
 科学教育は記憶を重ずるつめ込み主義ではなく、科学の発展してきた論理を生徒に理解させることに重点を置かねばならない。と説く著者が、空気についての疑問に対してわかり易く、多角的に説き明かすと同時に、その本体をつかむまでに長い苦労があった事を、エピソードに充ちた平易な文章で物語る。

*目次
第一部
 1 目に見えないもの / 2 空気にも重さがある / 3 私たちをつつむ大気 ― その重さ / 4 ガス(気体)という考えと、その名のおこり / 5 気体の体積は圧力で変わる / 6 マグデブルダでの実験 / 7 もえることの意味 / 8 元素の考え / 9 大きなまちがい ― フロギストン(燃素)の説 / 10 「固まる空気」 ― 二酸化炭素(炭酸ガス)の発見 / 11 「毒のある空気」 ― 窒素の発見 / 12 「フロギストンのない発見」 ― 酸素の発見 / 13 酸素のもう一人の発見者 ― シェーレ / 14 化学の父、ラヴォアジェ / 15 人ぎらいのキャヴェンディッシュ / 16 物質の目方は失われない / 17 物質のもとになるもの ― 元素 / 18 化合物とはないか / 19 空気は化合物でしょうか / 20 倍数の法則 / 21 原子説の誕生 / 22 ゲーリュサックと気球 / 23 気体のぼうちょう係数はひとしい / 24 気体反応の法則 / 25 アヴォガドロの分子説

第二部
 1 アルゴンの発見 / 2 なまけもののアルゴン / 3 太陽の物質 ― ヘリウム / 4 ヘリウムと放射性元素 / 5 オゾン ― におう気体 / 6 オゾンと紫外線 / 7 二酸化炭素(炭酸ガス) ― 生命のもと / 8 有機化合物とはなにか / 9 青い炭火 / 10 大気のまざりもの / 11 空気にも色がある / 12 空気は液体にすることができる / 13 気圧は高さで変わる / 14 空気の組成が変わる高さ / 15 大気のあたたかさ

むすび / あとがき


宮沢 賢治 (みやざわけんじ)
「イーハトーボ農学校の春」
 (いーはとーぼのうがっこうのはる)
角川文庫クラシックス



*カバーイラスト・飯野和好
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*205頁 / 発行 平成8年

*カバー文
― 青ぞらいっぱい鳴っているあのりんとした太陽マジックの歌をお聴きなさい ― 。
訪れた春の暖かい陽射しのなかで、歓びにあふれ、農作業を謳歌する農学生たちを描く表題作をはじめ、賢治の農学校教師時代の生活や、農学生時代の思い出から生まれた作品を集める。「さいかち淵」「種山ケ原」「谷」などのいわゆる〈村童スケッチ〉も含め、故郷の岩手県、農村・農業への深い愛慕に満ちた作品ばかりである。

*目次
或る農学生の日誌 / 台川 / イーハトーボ農学校の春 / イギリス海岸 / 耕耘部の時計 / みじかい木ぺん / 種山ケ原 / 十月の末 / 谷 / 二人の役人 / 鳥をとるやなぎ / さいかち淵
 注釈 大塚常樹 / 解説 板谷栄城 / 年譜 中村稔


宮沢 賢治 (みやざわけんじ)
「インドラの網」
(いんどらのあみ)


*カバーイラスト・飯野和好
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*281頁 / 発行 1996年

*カバー文
ツェラという高原を歩いているうちに、ふと“天の空間”に滑り込んでしまい、天人、蒼い孔雀、天界の太陽などあらゆる美の極致を目にする主人公を描く表題作「インドラの網」をはじめ、夢と神秘にあふれた幻想的作品を集める。
雁の童子 学者アラムハラドの見た着物 など“西域異聞”と呼ばれる作品も含め、賢治の持っていた〈心象宙宇〉の途方もない大きさと透明度をあますところなく伝え、賢治世界の真骨頂ともいえる童話集である。

*目次
インドラの網 / 雁の童子 / 学者アラムハラドの見た着物 / 三人兄弟の医者と北守将軍(韻文形) / 竜と詩人 / チュウリップの幻術 / さるのこしかけ / 楢ノ木大学士の野宿 / 風野又三郎 / 注釈 大塚常樹 / 解説 栗谷川虹 / 年譜 中村稔


宮沢 賢治 (みやざわけんじ)
「蛙のゴム靴」
 (かえるのごむぐつ)


*カバー装画・藤城清治
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*308頁 / 発行 1984年

*カバー文
寒冷地の農村でゴム長靴を大流行させた商業主義を戯画化した「蛙のゴム靴」。
 ウィスキー店で酔わされて散々な目にあった雨蛙一団の話「カイロ団長」。
 利己的、無知、厚顔なねずみたちの物語「ツェねずみ」「クンねずみ」他愛すべき小品十二篇を収める。
 人間社会の矛盾を風刺する痛快さと生きものたちへのあたたかい眼差しにあふれたファンタスティックな作品集。

*注釈、解説頁・堀尾青史
*主要参考文献、年譜・奥田弘
*影絵・藤城清治


宮沢 賢治 (みやざわけんじ)
「まなづるとダアリヤ」



*カバーイラスト・飯野和好
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*247頁 / 発行 平成8年

*カバー文
傲慢なダリヤ。女々しいねずみ。ウイスキーに酔っぱらうあまがえるたち。話好きのフクロウ。染物屋をするとんび。きつねの小学校。勇気をふるって旅立つ、いちょうの子どもたち…。賢治の心象世界において、いきいきとした魂を与えられた動物たち、植物たちを主人公とする童話を集める。賢治自身が「花鳥童話・動物寓話」と呼び、あまたの童話のなかでもとりわけユーモアと風刺にあふれる作品集である。

*目次
蜘蛛となめくじと狸 / めくらぶどうと虹 / 「ツェ」ねずみ / 鳥箱先生とフゥねずみ / クンねずみ / けだもの運動会 / カイロ団長 / 寓話 洞熊学校を卒業した三人 / 畑のへり / 蛙のゴム靴 / 林の底 / 黒ぶどう / 月夜のけだもの / いちょうの実 / まなづるとダアリヤ / ひのきとひなげし / 茨海小学校
 注釈 大塚常樹 / 解説 ますむらひろし / 年譜 中村稔


宮本 百合子 (みやもとゆりこ)
「貧しき人々の群 ― 他二篇」 
(まずしきひとびとのむれ)


*カバー・飯村龍治
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*252頁 / 発行 昭和28年

*帯文
私共と彼らとは生きる為につくられた人間として何の差があるか!この十七歳の少女の誠実な目は日本農村の典型的悲劇を鋭く描く。

*目次
貧しき人々の群
禰宣様宮田
加護
 作者の言葉 宮本百合子
 解説 津田孝
  宮本百合子 ― 人と作品
  収録作品について
 同時代人の批評(伊藤野枝)
 主要参考文献
 年譜


宮脇 俊三 (みやわきしゅんぞう)
「時刻表昭和史」
(じこくひょうしょうわし)


*カバー・古川タク
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*258頁 / 発行 昭和62年

*カバー文
 小学1年生、2銭の切符を買って同級生と、初めて子供同士で乗った山手線。和数字の時刻表でたしかめた特急「燕」「富士」「櫻」。丹那トンネル、関門トンネルの開通 ―― 。昭和という年号とともに生を享けた著者は、まさに「時代」の歩みとともに「体験」を重ねていくが、やがて「鉄道は兵器」となり、汽車の運転は間引かれ、「時刻表」さえが入手できない世の中になっていく。
 発表と同時に各紙誌で絶賛された、世評高い、「時刻表」青春の記!

*目次
第1章 山手線 ―― 昭和8年
第2章 特急「燕」「富士」「櫻」 ―― 昭和9年
第3章 急行5列車下関行 ―― 昭和10年
第4章 不定期231列車横浜港行 ―― 昭和12年
第5章 急行701列車新潟行 ―― 昭和12年
第6章 御殿場線907列車 ―― 昭和14年
第7章 急行601列車信越本線経由大阪行 ―― 昭和16年
第8章 急行1列車稚内桟橋行 ―― 昭和17年
第9章 第1種急行1列車博多行 ―― 昭和19年
第10章 上越線701列車 ―― 昭和19年
第11章 809列車熱海行 ―― 昭和20年
第12章 上越線723列車 ―― 昭和20年
第13章 米坂線109列車 ―― 昭和20年
 略年表
 参考図書
 あとがき
 解説 奥野健男