絶版文庫書誌集成

角川文庫 【な】

内藤 誠 (ないとうまこと)
「映画百年の事件簿」
 (えいがひゃくねんのじけんぼ)


(画像はクリックで拡大します)

*245頁 / 発行 1995年
*カバー画像・リュミエールのシネマトグラフ ポスター Auzolle 1896

*カバー文
一八九五(明治二十八)年、今から百年前、フランスのリュミエール兄弟が映画〈シネマトグラフ〉を発明した。映画は、20世紀の娯楽と文化の世界をまたたくまに席捲した。スクリーン上にあらゆる冒険が、愛が、青春が描き出され、悲劇喜劇が演じられた。創成期の制作者たちの実験的精神と同時代の芸術家たち。舞台は日本へ、上海へ、釜山へと移る。日本映画界きっての博識をうたわれる監督・内藤誠が、映画百年の舞台裏を逍遙し、その事件簿を軽妙に綴る。

*目次
第一章 リュミエール兄弟と『明治の日本』
第二章 遺欧使節とナダール写真館
第三章 メリエスと『月世界旅行』
第四章 海の星(ひとで)の余光
第五章 上海のジャズと映画、そして魯迅
第六章 ラヴィ・ド・ボエーム
第七章 背影(おもかげ)・父の「問題」
第八章 『海游録』と『釜山港に帰れ』
第九章 お濠端にてウェイリーを想う
第十章 戦後映画少年のみたサローヤン
第十一章 ジャームッシュ、その唐突な旅立ち
第十二章 コーエン兄弟、その映画的奇譚の魅力
 あとがき
 解説 大島渚


直木 三十五 (なおきさんじゅうご)
「南国太平記」 上下
 (なんごくたいへいき)




(画像はクリックで拡大します)


*上巻552頁・下巻620頁
*発行 昭和54年
*カバー装画・玉井ヒロテル

*カバー文
上巻
 明治の夜明けも近い幕末、薩摩藩主島津斉興(なりおき)の世子斉彬(なりあきら)と、わが子久光を藩主の座につけたいと願う斉興の愛妾お由羅の方との間に激しい抗争が繰り広げられた。
 斉彬の江戸屋敷では、斉彬の子寛之助が原因不明の熱にうなされ、その小さな命も風前の灯であった。思えば澄姫、邦姫の二人の子供も原因不明の熱で命を落としたのだった。今しも、南のくに薩摩の山中では、お由羅の方の命を受けた兵道家牧仲太郎が、呪術調伏によって斉彬派に呪をかけようとしていた……。
 島津斉彬、久光、お由羅の方、そして財政に長けた家老調所笑左衛門をはじめとする史上の人物と架空の人物を巧みに絡ませて、薩摩のお家騒動を描く、直木三十五の代表作。

下巻
 斉彬の三人の子供のあいつぐ変死。異国との密貿易が幕府に露見し、その責任をとったお由羅一派の家老調所の死。相次ぐ事件によって、斉彬派とお由羅の方一党との対立は益々深刻化した。
 お由羅派の兵道家牧仲太郎は、凄惨な呪法争いでその師、玄白斉を斃し、斉彬をも呪殺しようとする。一方、斉彬を助け藩の刷新を行おうとする軽輩の益満休之助らは、その陰謀を打ち砕こうと牧と対決するが……。
 歴史が大きく動き始めた幕末、薩摩藩の「お由羅騒動」を生き生きしたタッチで描く、直木三十五の代表作。 解説頁・武蔵野次郎


中 勘助 (なかかんすけ)
「母の死」
 (ははのし)


*カバー・池口史子 果ての町・祭(部分)
(画像はクリックで拡大します)

*225頁 / 発行 昭和31年

*カバー文
 死にゆく母を見まもる日々、私は悪いことでもするように、そっとひとつ母の額にくちづけた。そしてある日、母はかすかに「あした……」とつぶやく。透明な悲しみに満ちた表題作「母の死」
 年の離れた少女妙子との純粋無垢な愛の交流を、淡々と描く「郊外その二」など八篇を収録。
 漱石が絶賛し、戦前・戦後を通じて読みつがれてきたロングセラー「銀の匙」の作家中勘助の珠玉作品集。

*目次
郊外 その一
裾野
孟宗の蔭
郊外 その二
ゆめ
雁の話
母の死
小品
 秋草 / 小箱 / 折紙 / あしべ踊

 解説 伊藤信吉


中上 健次・角川 春樹 (なかがみけんじ・かどかわはるき)
「俳句の時代 ― 遠野・熊野・吉野聖地巡礼」
 (はいくのじだい)


(画像はクリックで拡大します)

*262頁 / 発行 平成4年

*カバー文
 それぞれの立場から、現代文学史に衝撃的な登場を果たし、その後、常に時代の最も尖鋭な位置で活動を続ける二人が、三つの〈聖地〉を巡りながら語り合った異色の対談集。おのおのの土地の神話、伝承、祭りにじかに触れつつ土俗の闇に挑み、闇を照らす炎として俳句を選んで交された白熱の対話は、〈言葉〉の力を再構築して、いま文学の行方を示す!

*目次
遠野 ― キーワードは〈芙蓉〉
熊野 ― 闇からのヴァイブレーション
吉野 ― 桜の花のバリヤー
 巻末作家論 磯田光一


中上 健次 (なかがみけんじ)
「火の文学」 (ひのぶんがく)


(画像はクリックで拡大します)

*186頁 / 発行 平成4年

*カバー文
 漆黒の闇。その闇を切り裂く灼熱の炎。荒ぶる魂を鎮める清澄な水… 生と死、聖と賎がせめぎ合う熊野を舞台に、大地のヴァイブレーションに身をゆだね、万物照応の煌きのなかに滅びる男の凄絶な物語 ― 初のオリジナル・シナリオ「火まつり」に重ね、故郷新宮の夜祭りの松明に照らされて語る、中上健次のわが青春、わが文学。祝祭空間の再現とともに、新しい表現の可能性を志向する、鮮烈な魅力に満ちた一書。

*目次
T ドキュメント 火の文学
U オリジナル・シナリオ 火まつり
 ノート


中島 河太郎編 (なかじまかわたろう)
「新青年傑作選集4 怪奇編 ひとりで夜読むな」
 (しんせいねんけっさくせんしゅう)


*カバー・玉井ヒロテル
(画像はクリックで拡大します)

*348頁 / 発行 昭和52年

*カバー文
 この〈「新青年」傑作選集T〜X〉は、大正から昭和にかけて時代の最先端にあった風俗小説雑誌「新青年」に掲載した作品から、傑作五十篇を選び、全五巻に編集しました。
 読者の方々には、第T巻から第V巻の推理編で、当時の名探偵たちの粋な推理を味わっていただきます。そして第W巻の怪奇編では読者をゾッとさせる妖気の世界に誘い、第X巻のユーモア・幻想・冒険編で奇想天外な世界に遊んでいただけるよう配慮してあります。
 永遠に古くなることのない傑作ばかりを集めたファッショナブルなこの〈「新青年」傑作選〉で、あなたは時のたつのも忘れてしまうでしょう。

*目次
ヤトラカン・サミ博士の椅子 ― 牧逸馬
死屍を食う男 ― 葉山嘉樹
紅毛傾城 ― 小栗虫太郎
可哀想な姉 ― 渡辺温
鉄鎚 ― 夢野久作
痴人の復讐 ― 小酒井不木
柘榴病 ― 瀬下耽
告げ口心臓 ― 米田三星
聖悪魔 ― 渡辺啓助
本牧のヴィナス ― 妹尾アキ夫
エル・ベチョオ ― 星田三平
マトモッソ渓谷 ― 橘外男
芋虫 ― 江戸川乱歩
 解説・ロマン派の作家たち ― 中島河太郎
 付録・作家をつくる話 ― 水谷準


中島 河太郎編 (なかじまかわたろう)
「新青年傑作選集5 ユーモア・幻想・冒険編 おお、痛快無比!!」 (しんせいねんけっさくせんしゅう)

*353頁 / 発行 昭和52年

*目録文
夢声・ハチロー・足穂・周五郎・十蘭等の珠玉を、河太郎が選び読者を魅惑の世界に誘う



仲宗根 政善 (なかそねせいぜん)
「ひめゆりの塔をめぐる人々の手記」 (ひめゆりのとうをめぐるひとびとのしゅき)


(画像はクリックで拡大します)

*356頁
*発行 昭和57年
*カバー写真・東宝提供

*カバー文
 太平洋戦争の末期、日本国土で唯一戦場となった沖縄では、住民をまき込んで二十数万の犠牲者を出した。中でも悲惨をきわめたのは、従軍看護婦として戦争に参加したひめゆり学徒たちの最後であった。
 16歳から20歳までの若い彼女たちの悲劇は年月とともに、伝説化され、誤り伝えられようとしている。
 引率教師であった著者が、奇蹟的に生き残った生徒たちの手記を集め、自らの体験と照応させて綴った本書は、精霊への鎮魂歌であると同時に、永遠に読み継がれるべき戦争の実録である。


永田 守弘 (ながたもりひろ)
「官能小説の奥義」
(かんのうしょうせつのおうぎ)
角川ソフィア文庫


*カバーデザイン・大武尚貴
(画像はクリックで拡大します)

*208頁 / 発行 2016年

*カバー文
読者の性欲を刺激し、淫心をかき立ててきた官能小説。単純な行為をいかに濃密に淫靡に、いやらしく描くか ── 。先人たちは苦労して、読者の妄想を逞しくさせる官能用語を編み出した。「花弁」「小鳥の嘴」「マグロの赤身」「熱帯」……女性器の斬新な描写からは、表現へのフロンティア精神が感じられる。官能小説の文体確立までの歴史を追いつつ、独自の表現を磨き、鎬を削ってきた作家たちの豊潤で奥深い日本語の世界に迫る。

*目次
 はじめに
序章 官能小説の文体の歴史
 猥褻裁判 / チャタレイ夫人の恋人 / 四畳半襖の下張 / 団鬼六の『花と蛇』 / 川上宗薫の構造表現 / 豊田行二の登場 / 館淳一のデビュー / 女性征服系から癒し系へ / 女流作家の系譜
第一章 性器描写の工夫
 女性器表現の種類 / 複雑な形状
 植物派 花にたとえる / 果実にたとえる
 魚介派 伝統的な表現 / 海産物
 動物派 昆虫や鳥の嘴
 陸地派 母なる大地の裂け目
 直接派 部分的な効果
 肉表現 前後に付ける言葉 / 男性器表現の種類 / 「棒」派と「茎」派
 肉表現 なぜ太くて硬くなければいけないか
第二章 性交描写の方法
 前戯編 舌戯の多様化 / フェラチオ表現 / クンニリングス表現
 性交編 五つの分類 / 恋愛系 / 癒し系 / 嬲り系 / 凌辱系 / 絶倫系
 エクスタシー編 絶頂語表現 / 悲鳴表現
 オノマトペ表現 四種類の音 / 舐め音 / 粘液音 / 挿入音 / 射精音
第三章 フェティシズムの分類
 乳房フェチ 巨乳表現 / 美乳表現
 腋窩フェチ 敏感な性感帯
 尻フェチ お尻派の種類 / お尻表現 / 後背位へ
 アナルフェチ 膣とは異なる快感
 太腿フェチ 性交より素股プレイ
 脚フェチ パンストの肌触り
 足指フェチ 舐めフェチの極致
 下着フェチ 付着した粘液の匂い
第四章 ストーリー展開の技術
 男女の組み合わせをどうするか / ストーリーの重要性
 近親相姦もの わずか五人の登場人物
 女教師もの 性教育と匂いフェチ
 女性遍歴もの 女性作家が描いた男性像
 SMもの 複雑な人間関係とアクチュアルなテーマ
第五章 官能小説の書き方十か条
 第一条 官能小説は性欲をかきたてるだけのものではない
 第二条 好きな作家を見つけよ
 第三条 まず短編を書いてみる
 第四条 官能シーンを早く出せ
 第五条 自分がしたくても出来ないことを書く
 第六条 三人以上の人物を登場させよ
 第七条 恥ずかしいと思うな
 第八条 オノマトペをうまく使う
 第九条 性の優しさ、哀しさ、切なさを知っておく
 第十条 書いている途中でオナニーをするな
あとがき / 文庫版のあとがき


中野 好夫 (なかのよしお)
「文学の常識」
 (ぶんがくのじょうしき)


*カバー・栃折久美子
(画像はクリックで拡大します)

*160頁 / 発行 昭和36年

*カバー文
文学というものは、わかりきったようで、なかなかわかりにくいものである。このわかりにくい文学を理解する上で、これだけは考えておかねばならないという問題をひとつ、ひとつとりあげる。豊富な実例を自由に引用して、若い人たちにも納得できるように、やさしく解明する文学入門への手引き。

*目次
 はしがき
文学の多様性 ― 定義の困難について
文学の三つの条件
文学を成り立たせるもの ― 真実の追究
文学における模写と表現 ― 芸術の発生と発展
文学の基盤としての「人間」への興味(一)
文学の基盤としての「人間」への興味(二)
文学と道徳 ― アリストテレスのカタルシス論
近代小説の起源と発達 ― 近代リアリズムについて
付録 どんな文学作品を読むべきか
 解説 佐伯彰一


夏目 鏡子 (なつめきょうこ)・松岡 譲筆録 (まつおかゆずる)
「漱石の思い出」
 (そうせきのおもいで)


(画像はクリックで拡大します)

*431頁 / 発行 1966年
*カバー・栃折久美子

*カバー文
 見合いから死別まで漱石と生涯をともにした鏡子夫人が、故人への限りなき愛情をこめてその思い出を語った本書は、夫人でなければのぞき観ることのできなかった人間漱石の秘密を明るみにさらしつつ、漱石の赤裸々な姿を浮彫りにするが、また漱石研究に欠くことの出来ない文献としても古典的価値を持っている。

*巻末頁
 漱石年譜
 編録者の言葉 松岡譲
 解説 夏目伸六

奈良本 辰也編 (ならもとたつや)
「日本の私塾」
 (にほんのしじゅく)


(画像はクリックで拡大します)

*243頁 / 発行 昭和49年

*カバー文
 直接的にしろ間接的にしろ、人間を解明し人間に寄与することが、学問の使命であり、究極の目的であった。だが、技術革新と情報化の波に激動する現代において、その様相は一変しつつある。時代が促進する非人間化現象は、人間不在の教育・研究体制を生み出し、学問本来の意味すら喪失させてしまった。
 本書は、日本の近代を開く原動力となった近世の私塾に学問・教育の原点を求め、私塾の性格と教育構造を明らかにしつつ、人間性に満ちたその学問精神を、新しい息吹きをもって現代に蘇らせようと試みた奈良本史学の結晶である。

*目次
 はじめに  奈良本辰也
松下村塾 ― 吉田松陰   奈良本辰也
藤樹書院 ― 中江藤樹   楢林忠男
古義堂 ― 伊藤仁斎   楢林忠男
廉塾(黄葉夕陽村舎) ― 菅茶山   高野澄
咸宜園 ― 広瀬淡窓   高野澄
鈴の星 ― 本居宣長   楢林忠男
改心楼 ― 大原幽学   高野澄
韮山塾 ― 江川英龍   高野澄
鳴瀧塾 ― シーボルト   駒敏郎
適塾 ― 緒方洪庵   駒敏郎
懐徳堂 ― 中井甃庵   師岡佑行
 所在地一覧


南條 範夫 (なんじょうのりお)
「あやつり組由来記」
 (あやつりぐみゆらいき)


*カバー・梅田英俊
(画像はクリックで拡大します)

*252頁 / 発行 昭和53年

*カバー文
 「あたし、呉服屋さんが好き!」
運命の女と心に決めたお喜和のこの一言に、安次郎は自分の将来を賭けた。
 抜群の計算能力から“鬼算盤”の異名を持つ安次郎は、愛する女のため江戸でも有数の呉服商越後屋に入店した。だが、そこで彼は、一芸に秀でただけでは決して出世できないことを身にしみて感じた。巧みな話術を身につける一方、贈り物の効果的な使い方なども覚えた。やがて、彼の実力を発揮する絶好の機会がやってきた。江戸の豪商組合に、幕府から膨大な御用金が命ぜられたのである……。
 表題作他、著者の代表的短編を収録!

*目次
あやつり組由来記
乞食会社と泥棒会社
閨房禁令
戦国外方滅方党(そとぼうめっぽうとう)
天保瘋癲(フーテン)族
 解説 武蔵野次郎


南條 範夫 (なんじょうのりお)
「生きている義親」 
(いきているよしちか)


*カバー・梅田英俊
(画像はクリックで拡大します)


*270頁 / 発行 昭和54年

*カバー文
 康和〈こうわ〉四年、反骨の武将源義親〈よしちか〉は、部下の不始末から逆徒の汚名を着せられ、隠岐〈おき〉に流された。流刑地で悶々の日々を送る彼の心の中で、朝廷に絶対服従という父八幡太郎義家〈はちまんたろうよしいえ〉の姿勢に不満が募っていった。そして雌伏五年、父の死を契機に出雲で反逆の狼煙〈のろし〉を上げた。
 だが白河院の命で追討に赴いた平正盛〈たいらのまさもり〉の軍勢に敗れ、彼は首をはねられた。正盛によって京に持ち帰られた義親の首級に異変が起きたのは、白河院の御前でである。突然、首がカッと両眼を開き、「義親見参」と大声で叫んだのだ!
 五たび死んだと言われる一代の反逆児の生死の謎を推理する傑作長編。

*解説頁 武蔵野次郎


南條 範夫 (なんじょうのりお)
「宝石泥棒G・オハラ」
 (ほうせきどろぼうじいおはら)


*カバー・梅田英俊
(画像はクリックで拡大します)


*352頁 / 発行 昭和54年

*カバー文
 俺の名はジョージ・オハラ、世界を股にかけて荒らし廻る名うての宝石泥棒だ。狙った獲物は外したことがない。盗みのテクニックにかけては、どれをとっても一流だが、中でもスリの技術は誰にも負けはしない……。
 絢爛たる大広間に入った俺は、そこに目的の女を見つけてほくそえんだ。見事なプロポーションもさる事ながら、その指にきらめく豪華なサファイアが俺の狙いだ。12カラットは優にある。安くみても6万ドルはするだろう。俺は気どった上品な足どりで女に近づいていった。その時、邪魔が入った。一人の伊達男が女と同席したのである。
 快男子G・オハラの痛快な活躍をスリリングに描く連作ピカレスクロマン。

*解説頁・中島河太郎