絶版文庫書誌集成

角川文庫 【せ】

石 弘之・石 紀美子 (せきひろゆき・せききみこ)
「鉄条網の世界史」
(てつじょうもうのせかいし)
角川ソフィア文庫


*カバーデザイン・國枝達也
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*304頁 / 発行 2019年

*カバー文
農作物を家畜などから守ることを目的に約160年前に発明された鉄条網は、いつしか人と人とを隔てる強力な暴力兵器へと変貌を遂げた。先住民が押し込められた居留地、アウシュヴィッツ強制収容所、アメリカ ─ メキシコの国境 ── 著者は世界中から資料を掘り起こし、現地取材を重ね、人間の外敵排除の心理がこのシンプルな道具とともに顕在化し、爆発的に膨張したことを明らかにする。鉄条網を通して見る、もう一つの近現代史。

*目次
 まえがき
第一章 西部開拓の主役
 カンザス州の「鉄条網博物館」 / 切実な柵の不足 / 万能フェンスの登場 / 広がる鉄条網 / 大量の移住者の流入 / 入植者が必要とした柵 / 牛の大軍がやってきた / 押し寄せる農民 / 牧場主と入植者の戦い / 激しくなる土地の囲い込み / 職を失うカウボーイ / その後の鉄条網
第二章 土壌破壊と黄塵
 加速する西部開拓 / 土地にかかる重圧 / 鉄条網が変えた生態系 / 開拓進む大平原 / 土壌破壊の米国史 / 大型農業機械の導入 / 大砂塵の襲来 / 大平原の破綻 / 荒廃の代償 / 破綻の原因 / 放牧規制がはじまる / そして、いま
第三章 塹壕戦の主役
 戦場に出現した鉄条網 / 戦争を変えた機関銃 / 近代戦の先駆け / 日本軍が手を焼いた鉄条網 / 第一次世界大戦勃発 / 塹壕戦のはじまり / 鉄条網の登場 / 変った戦闘 / 西部戦線異常なし / 戦場のクリスマス / 対鉄条網対策 / 戦車の発明 / 史上最大の総力戦 / 日本への導入 / 第二次世界大戦への序章 / 鉄条網と現代戦
第四章 「人種の罪」と憎悪のフェンス
 強制収容所の歴史 / 南アフリカの植民地化 / ダイヤモンド・ラッシュ / 近代戦となった南アフリカ戦争 / 各収容所の劣悪な環境 / 各地に広がる強制収容所 / スペイン内戦の悲劇 / ナチスの強制収容所 / ホロコーストと犠牲者 / 強制収容所の第一号 / 勢いづく収容所 / アウシュヴィッツの殺人工場 / 生存者が苦しむ後遺症 / 収容所の拡充 / 鉄条網の内側 / 収容所の内側 / 収容所の現在 / 人間の資源化 / 旧ソ連の強制収容所 / 繰り返される強制収容所 / 日系強制収容所 / 逆境でも花を愛でた日系 / カナダの日系排斥 / 「人種の罪」に泣かされた人々
第五章 民族対立が生んだ強制収容所
 南アのアパルトヘイト政策 / 高まる国際世論 / 活動家の迫害 / タウンシップの形成 / アパルトヘイトその後 / 集団墓地になった五輪会場 / 「民族浄化」と集団強姦 / サラエボの花 / 戦争犯罪人の追求 / 視覚世界を「欺いた」映像 / 沸騰する国際世論 / 戦争と情報戦 / 最後の逃亡戦犯を拘束
第六章 国境を分断する鉄条網
 ベルリンの東西分断 / 恒久化する壁 / 東から西への脱出 / 壁の思い出 / ヨルダン川西岸の壁 / 分離壁への反対運動 / 米メキシコ国境 ── 貧困層から脱出 / フェンスの構造 / 世界最大の麻薬密輸ルート / 最大の少数民族 / 中国・北朝鮮の国境の壁 / 新たな万里の長城 / その他の国境線 / 国境の歴史
第七章 追いつめられる先住民
 希望のない未来 / 大平原を分断した鉄条網 / チェロキー族の悲劇 / 奪われる生活資源 / 文明と野生の衝突 / 遅きに失した先住民保護 / グアラニー族の悲劇 / 土地を奪われる先住民 / 殺害される先住民 / 死に急ぐ若者たち / アフリカの植民地支配 / 労働と環境の搾取 / 反植民地闘争と強制収容所 / 残忍な拷問 / 一五〇〇マイルの脱出 / 先住民の抹殺 / ウサギ防除フェンス
第八章 よみがえった自然
 鉄条網は自然を呼び戻す / 朝鮮半島の軍事境界線 / よみがえる自然 / 復活がめざましい大型動物 / 緊張緩和が生み出す自然破壊 / チェルノブイリ原発三〇キロ圏 / 野生の天国に / 再導入された希少動物 / 動物たちの将来 / 汚染の影響 / 科学者の反目 / そして、福島原発事故…… / 野生動物への影響
 あとがき / 参考文献


雪花 山人 (せっかさんじん)
「大石内蔵之助 ― 立川文庫傑作選」
(おおいしくらのすけ ― たつかわぶんこけっさくせん)
角川ソフィア文庫


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*267頁
*発行 平成14年
*カバー・芹澤泰偉

*カバー文
赤穂浪士を率いた大石内蔵之助。その大石が天下に名を揚げた山鹿素行の護送、備中松山の城受け取りにはじまり、吉良邸討ち入りまでの艱難辛苦が美文で綴られる。祇園一力での遊興、神崎与五郎の股くぐり、大高源五と俳人其角とのかかわり、南部坂雪の別れなど、「忠臣蔵」の名場面を随所にちりばめ、時代小説の王道を示す。

*解説頁・立川文庫の思い出 出久根達郎


雪花 山人 (せっかさんじん)
「猿飛佐助 ― 立川文庫傑作選」
(さるとびさすけ たつかわぶんこけっさくせん)
角川ソフィア文庫



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*267頁
*発行 平成15年
*カバーデザイン・芹澤泰偉 / カバーイラスト・鴇田清美

*カバー文
信州鳥居峠で戸沢白雲斎について忍術修行をした猿飛佐助は、真田幸村に見出される。三好清海入道とともに諸国探索に赴く途上、由利鎌之助・霧隠才蔵を味方にする。石川五右衛門との術比べ、天下の豪傑たちとの交友など、忍者佐助の縦横無尽の活躍は大正期に忍術ブームを巻き起こした。真田十勇士と忍者を世に送り出した記念碑的一冊。 解説:縄田一男


瀬戸内 晴美 (せとうちはるみ)
「黄金の鋲」
(おうごんのびょう)


*カバー・横尾忠則
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*283頁 / 発行 昭和47年

*カバー文
 夫の教え子との恋愛、子を捨てての出奔、妻子ある男との情事、年下の恋人の裏切り……。心の飢餓を埋めるべく重ねた男たちとの血みどろの情事の果てに、ヒロイン牧子がすがり得る唯一のもの、それは文学の殿堂に打ち込む黄金の鋲〈びょう〉であった。著者自らの数奇な生活体験をふまえて綴られた連作小説集。

*目次
帰らぬ人
盗む
妬心
地獄ばやし
黄金の鋲
 解説 上田三四二


瀬戸内 晴美 (せとうちはるみ)
「鬼の栖」
 (おにのすみか)


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*252頁
*発行 昭和46年
*カバー装画・横尾忠則

*カバー文
 本郷菊坂の菊富士ホテルは、大正の頃さまざまな芸術家、学者の宿として知られた。宇野浩二、竹久夢二、三木清…それら芸術・学問の鬼に憑かれた人々の棲むホテルは、いわば〈鬼の栖〉であった。その一室に燃え上がる国文学者の愛妾萩原ゆりと一大学生の不倫の恋。残された三冊のノートから、恋の鬼に憑かれた男女を浮彫りにする。

*解説頁・唐十郎


瀬戸内 晴美 (せとうちはるみ)
「恋川」 
(こいかわ)


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*560頁 / 発行 昭和50年
*カバー・横尾忠則

*カバー文
「わては女たらしやおまえんで。へえ、いっぺんも女をたらしたろ思うて、誘惑したことおまへん。こりもせず、次から次に、女を好きになってしもうて、気がついた時は、女に夢中で惚れぬいている。……どの女も、女はみな浄瑠璃の中からぬけだしてきたようないとしい心を持っております。」― 文楽人形の女を遣って華麗な芸を示し、人間国宝となった二代目桐竹紋十郎は、泉州堺に生まれ、明治の末、九歳で名人吉田文五郎に弟子入りした。以来、厳しい芸道修行のかたわら、色の苦労を芸のこやしとした彼が、生涯を通して愛した、様々な女たち。浄瑠璃の世界そのままの、その恋の激しさと苦しさ。……艶麗な筆致で奔放な紋十郎の一生と女たちの恋の妄執を綴る、著者会心作。

*解説頁・戸板康二


瀬戸内 晴美 (せとうちはるみ)
「田村俊子 ― この女の一生」
 (たむらとしこ)


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*377頁
*発行 昭和39年
*カバー・横尾忠則

*カバー文
一葉、晶子に次ぐ明治の女流作家であり、末期の新浪漫主義時代を代表する作家になる素質を持ちながら、自らを葬り去った田村俊子の伝記小説。作家であると同時に、“女”であることのために、自らを滅ぼしていく不運の生涯をドラマティックに描いたもの。著者が女流文学賞を受けて作家としての位置を得た作品。

*解説頁・瀬沼茂樹