絶版文庫書誌集成

角川文庫 【や】

野花散人 (やかさんじん)
「太閤と曽呂利 ― 立川文庫傑作選」
(たいこうとそろり ― たつかわぶんこけっさくせん)
角川ソフィア文庫



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*266頁
*発行 平成15年
*カバーデザイン・芦澤泰偉 / カバーイラスト・石居麻耶

*カバー文
狂歌の名手・曾呂利新左衛門。堺の鞘師から身を起こし、太閤・豊臣秀吉の御伽役として仕えた新左衛門が、時の権力者秀吉を口先だけで遣り込める、当意即妙の受け答え、抱腹絶倒の頓知の連続。大きい狂歌・小さい狂歌・力のある狂歌は世上に名高く、正月の吉夢とされる富士山・鷹・茄子、三者それぞれの主張は圧巻である。

*解説頁・旭堂小南陵


野花 散人 (やかさんじん)
「宮本武蔵 ― 立川文庫傑作選」
 (みやもとむさし たつかわぶんこけっさくせん)
角川ソフィア文庫


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*277頁
*発行 平成14年
*カバー・芹澤泰偉

*カバー文
剣豪宮本武蔵の生涯。江戸の石川群東斎巌流の許で修行し、二刀流を編み出した武蔵は、小倉藩剣術指南役の父が、佐々木岸柳に闇討ちされたことを聞く。仇討ちのため諸国に佐々木岸柳を探し尋ねる途中、数々の仕合に勝ちを収め、武名を高める。そして遂に豊前島での決闘となる。剣豪小説の原点。

*解説頁・津本陽


薬師丸ひろ子 / 撮影・小島由紀夫 (やくしまるひろこ / こじまゆきお)
「薬師丸ひろ子フォトメモワール Part1 1978-1980」
(やくしまるひろこふぉとめもわーる)


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*246頁 / 発行 昭和59年

*カバー文
ひたむきな思いを感じさせる 黒い瞳
僕たちは本当の“日本の少女”に出会った

ここに14歳の薬師丸博子がいる
  そこに15歳の薬師丸ひろ子がいる

'78年デビュー作「野性の証明」から'80年正月映画「戦国自衛隊」までの435日間を克明に捉えたシンデレラ・ギャル・薬師丸ひろ子の鮮烈な青春ドキュメント写真集。キュートなスタジオ写真、初々しいCF撮影スナップ、TVドラマ、海外特写、そして真率なるモノロオグ等々、精いっぱいに生きる少女のすべてを完璧に描いた白眉のアンソロジー。待望のオールカラー文庫版。これまで未発表・未収録の写真を多数収めました。


安岡 章太郎 (やすおかしょうたろう)
「アメリカ それから」



*カバー写真・著者撮影
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*238頁 / 発行 昭和50年

*カバー文
 アメリカという巨人を理解することは、一旅行者にとって群盲の象を撫でるに等しいことなのだろうか。著者はそう嘆じながらも、8年ぶりに訪れたアメリカの変貌にひどく驚かされる。
 大都市の荒廃、黒人のエネルギーの充満、知人たちの市民生活の変化…。著者の鋭敏な皮膚感覚と作家らしい観察眼を通して、さりげない叙述のうちに、アメリカ社会のシリアスな諸問題の核心が捉えられ、語られる。
 本書は、1968年夏の、黒人運動と反戦運動を内包するアメリカの表情をつたえる、名著「アメリカ感情旅行」に対応する形で書かれたユニークな紀行。 (旧題『アメリカ夏象冬記』)

*目次
 ブロードウェイ・午前二時〜四時
 GOHONZON is only a white paper
 わがアルト・ハイデルベルヒ
   

 メキシコ ― アメリカに近すぎる国
 ロバの呼び声
 不思議な町
   

 懐かしのミシシッピー
 敗北したことは忘れよう
 あとがき
 解説 野口武彦
  写真 著者撮影

親本

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「アメリカ夏象冬記」
中公新書
*237頁
*発行 昭和44年

*帯文
黒人運動と反戦運動を内包する今日のアメリカの表情を描く

八年ぶりにアメリカを旅した著者は、黒人たちのエネルギーの充満と、大都市の荒廃とに驚いた。アメリカという国は大きいそして掴みがたい国である。変ったと感じるだけであってアメリカそのものは変っていないのかもしれないのだ。知人の上にもまた大きな変化があった。なかには徴兵拒否のため国外追放された青年もいる。黒人運動と反戦運動を内包した一九六八年夏のアメリカを市民生活の上に鋭くとらえる。


安岡 章太郎 (やすおかしょうたろう)
「ガラスの靴」
 (がらすのくつ)


*カバー装画・鴨居羊子
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*300頁 / 発行 昭和49年

*カバー文
 猟銃店の夜警のアルバイト学生である「僕」と、米軍軍医の家のメイドとして働く少女のような娘悦子との恋愛。独得の童話的雰囲気と清潔さ、郷愁を感じさせる処女作「ガラスの靴」。芥川賞受賞作「悪い仲間」「陰気な愉しみ」。
 本書は、“青春の落第生”を扱ったもの、軍隊の体験、敗戦後のアメリカ占領下の生活、秀作「海辺の光景」につながる私小説の系譜に属するもの、から17編を収録。著者の文学的感性の原型が見事に示された初期の珠玉作品集。

*目次
ガラスの靴 / 愛玩 / 夢みる女 / ジングルベル / ハウス・ガード / 音楽の授業 / 蛾 / 陰気な愉しみ / 剣舞 / 故郷 / 体温計 / サアカスの馬 / 青髭 / 王様の耳 / 吟遊詩人 / 家庭 / 悪い仲間
 解説 吉行淳之介
 新版解説 饗庭孝男


安岡 章太郎 (やすおかしょうたろう)
「良友・悪友」
 (りょうゆう・あくゆう)


*カバー装画・山藤章二
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*232頁 / 発行 昭和53年

*カバー文
 これは、無類に面白い交友記であり、思わず笑いを誘いこまれずにはいられないユーモア・エッセイである。
 主として“第三の新人”と呼ばれる作家たちとの“古き良き時代”の交友が、軽快洒脱に描かれている。
 登場人物の素顔の面白さがあり、著者自身の相手に対する敬意と愛情が、ときに微妙な隠し味のような諷刺や嫉妬の感情とともに、自然に語られる。
 そこに著者の人間味があり、対象の描写に際しての、若干の誇張の部分に具眼の評家の眼が、省略の部分に寡作な小説家の技法が、光っている。
 著者自身を含めての魅力ある作家たちを語った、楽しい名著である。

*目次
二代目たち 三浦朱門と石浜恒夫
柴田錬三郎についてのスコン的観察
「ウソ」の殉教者遠藤周作
吉行淳之介と自動車の関係
近藤啓太郎の風雅なる才能
三番センター庄野潤三君
金を想うごとく友を想う 邱永漢
練馬大王 梅崎春生の死
なるほど奇妙な小島信夫の「なるほど」
開口一番 開高健
昔の仲間
 あとがき
 解説 清水信 / イラスト 山藤章二


柳田 国男 (やなぎだくにお)
「妹の力」 
(いもうとのちから)




平成元年刊「リバイバルコレクション」版
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*282頁
*発行 昭和32年
*カバー・林勉

*カバー文
かつて女性が、より「けだかく」「さかしく」信仰の主要な担当者であった時代、霊の力をみとめられていた時代の神秘を、広範な民俗学の方法によって解明する。女性の清明な「たましい」と「ちから」の回復でもある。「玉依彦の問題」「玉依姫考」「雷神信仰変遷」「人柱と松浦佐用媛」「小野於通」など。

*目次
 序
妹の力
玉依彦の問題
玉依姫考
雷神信仰変遷
日を招く話
松王健児の物語
人柱と松浦佐用媛
老女化石譚
念仏水由来
うつぼ舟の話
小野於通
稗田阿礼
注釈
解説 五来重
年譜


柳田 国男 (やなぎだくにお)
「海南小記」 (かいなんしょうき)


*カバー装画・林勉


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*272頁 / 発行 昭和31年

*カバー文
著者は日本民俗学の開拓者であると共に、学界の最高権威であった。大正九年、九州東海岸から沖縄の島々の果てまで探訪の足をのばした。この時の南の島々に残る有形無形の民俗の把握こそが、古い日本を解明する歴史的なカギとなった。美しい紀行文の底にきらめく学問的意義の重大さに驚かされる名著。

*目次
 自序
海南小記
 一 からいも地帯 / 二 稲門の二夜 / 三 海ゆかば / 四 ひじりの家 / 五 水煙る川のほとり / 六 地の島 / 七 佐多へ行く路 / 八 いれずみの南北 / 九 三太郎坂 / 一〇 今何時ですか / 一一 阿室の女夫松 / 一二 国頭の土 / 一三 遠く来る神 / 一四 山原船 / 一五 猪垣の此方 / 一六 旧城の花 / 一七 豆腐の話 / 一八 七度の解放 / 一九 小さな誤解 / 二〇 久高の屁 / 二一 干瀬の人生 / 二二 島布と粟 / 二三 蘆苅と龍神 / 二四 はかり石 / 二五 赤蜂鬼虎 / 二六 宮良橋 / 二七 二色人 / 二八 亀恩を知る / 二九 南波照間
与那国の女たち
南の島の清水
炭焼小五郎が事
阿遅摩佐の島
 付記
 注釈
 解説 牧田茂
 年譜


柳田 国男 (やなぎだくにお)
「こども風土記」 
(こどもふどき)


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*118頁
*発行 昭和35年
*カバー・林勉

*カバー文
“母といた日の悦楽は、老いたる私にさえよみがえってくる”と感慨する幼年の日々。哀しいまでのやさしさをこめて、すたれつつある児童遊戯とその周辺とを語る本書は、“発見の小箱”というにふさわしく、なにげない日常の諸相の中から幾多の問題意識と解明の手段とをさぐりだす柳田民俗学独自の方法を知るための平易な入門書ともなっている。見すごされがちな小さい世界に大切な文化の歴史を探る好著。

*解説頁・丸山久子


柳田 国男 (やなぎだくにお)
「女性と民間伝承」 (じょせいとみんかんでんしょう)


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*190頁 / 発行 昭和41年
*カバー・林勉

*カバー文
 平安中期の情熱的女流歌人和泉式部は、不思議に多くの伝説につつまれている。著者は和泉式部にまつわる伝承の層序にメスを入れ、そこにかつて顧みられなかった大切な日本人の歴史が潜んでいることを発見する。本書は、日本の民間伝承にはじめて学問の光をあてた点において画期的であるばかりでなく、知られざる日本の重要問題を内蔵している点において、柳田民俗学の一大鉱脈にたとえることができよう。読者は、本書のいたるところに柳田学の原鉱を見出すに違いない。

*解説頁・角川源義


柳田 国男 (やなぎだくにお)
「小さき者の声」
 (ちいさきもののこえ)


*カバー・林勉


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*144頁 / 発行 昭和35年

*カバー文
曇りのない子供の目にうつる大人の生活を、彼らは独特の判断をもって自分たちの世界に再現しようとする。古い遊戯やわらべ歌。日常なにげなく使っている言葉や、形式だけ残っている子供の行事が、遠い祖先の生活・思想を解明する鍵となる。本書は児童の言葉や遊戯を民俗学的にとりあげ、その果たしている役割について論証する。

*目次
 旧版序
童児と昔
神に代わりて来たる
お杉たれの子
小さき者の声
 はじめに / 月よみ / あなとうと / ののさま / 神を拝む詞 / 南無に改まる前 / ありがたさ / なに事 / 単語製作者 / 遊戯起源
シンガラ考
 はしがき / 甲斐の方言 / 方言圏のこと / 方言と民謡 / 古語の命脈 / 遊戯と踊り / 小児語借用
肩車考
こどもと言葉

 解説 石原綏代
 索引


柳田 国男 (やなぎだくにお)
「日本の祭」
 (にほんのまつり)


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*216頁
*発行 昭和31年
*カバー・林勉

*カバー文
神祭の研究は、民俗学における重大なテーマの一つである。と同時に、村々里々の祭は、今でも私たち日本人の限りない郷愁の、詩の源泉でもある。神祭のはじめからその変遷の姿。すべてが日本人の生活から、きりはなすことのできない夢であり道徳であり生活そのものだったのだ。生きた歴史の書である。

*解説頁・大藤 時彦


柳田 国男 (やなぎだくにお)
「火の昔」 
(ひのむかし)


*カバー・林勉
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*200頁 / 発行 昭和38年

*カバー文
「他人おそろし、やみ夜はこわい、親と月夜はいつもよい」こう子守歌に歌われたように、暗闇はいつの時代もおそろしいものでした。暗黒の世界、それは魔の物の活躍する世界だったのです。そのため、昔から夜を明るくする工夫がいろいろと行なわれてきました。燭台やちょうちんや、そして人々を暖たく包んだいろりの火など。この本は、その他火にまつわる事々や風習を、民衆に深い愛情と共感を寄せた著者が、その民俗学の知識を注いで書いた、平易で楽しい火の文化史であるといえます。

*目次
はしがき / やみと月夜 / ちょうちんの形 / ろうそくの変遷 / たいまつの起こり / 盆の火 / 燈籠とろうそく / 家の燈火 / 油とあんどん / 燈心と燈明皿 / 油屋の発生 / ランプと石油 / 松のヒデ / 松燈蓋(まつとうがい) / 屋外の燈火 / 火の番と火事 / 火をたいせつにする人 / 火を作る法 / ほくちおよびたきつけ / いおうつけ木と火吹竹 / 民の煙 / しばと割木 / ホダと埋火 / 火を留める / 炉ばたの作法 / 下座と木じり / 火をたく楽しみ / 火正月 / 炉のかぎのいろいろ / かぎから鉄輪へ / おかまとへつい / 庭かまどの変遷 / こんろになるまで / 漁樵問答 / わらとわら灰 / 木炭時代 / ふろとこんろ / 町の燃料 / 燃料の将来 / 火の文化 / 解説 石原綏代 / 索引


柳田 国男 (やなぎだくにお)
「毎日の言葉」 (まいにちのことば)


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*154頁 / 発行 昭和39年
*カバー装画・林勉

*カバー文
「ありがとう」「すみません」「なるほど」など、何げなく口にしている日常語の一つ一つに、それぞれの発生理由と長い歴史とがある。著者の博識はそれらを綿密に考証し、分かりやすく説きあかしてくれる。
「毎日の言葉」のほか、「買物言葉」「あいさつの言葉」など同じく身の回りの言葉を深く考察した言語生活の指針書。

*解説頁・鎌田久子


柳田 国男 (やなぎだくにお)
「昔話と文学」 (むかしばなしとぶんがく)


*旧版カバー
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*カバー・林勉
*282頁 / 発行 昭和31年

*カバー文
「桃太郎の誕生」に次いで世におくられた昔話研究のめざましい労作。その宗教的起源、社会的背景を明らかにすることによって、われわれ日本人の民族性の深所にふれる。「竹取翁」「花咲爺」「かちかち山」「藁しべ長者と蜂」「うつぼ舟の王女」「蛤女房・魚女房」「笛吹き聟」「笑われ聟」「はてなし話」

*解説頁・大藤時彦


柳田 国男 (やなぎだくにお)
「木綿以前の事」
(もめんいぜんのこと)


*カバー・林勉
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*325頁 / 発行 昭和30年

*カバー文
 木綿の出現は、日本の民衆生活史にとって一大画期であった。麻のごわごわした感触と違って、木綿のふくよかな肌ざわ
りは人々の生活感覚を大きく変化させた ―― 。著者は俳諧歌仙を女性史料として活用しつつ、そこにさまざまな意外なる
知識を発見する。古くから女性が主としてたずさわってきた衣食住の問題をとりあげて、庶民のよろこびや悲しみのひだを
しみじみと語るユニークな生活史読本。

*目次
木綿以前の事 / 何を着ていたか / 昔風と当世風 / 働く人の着物 / 国民服の問題 / 団子と昔話 / 餅と臼と擂鉢 / 家の光 / 囲炉俚談 / 火吹竹のことなど / 女と煙草 / 酒の飲みようの変遷 / 凡人文芸 / 古宇利島の物語 / 遊行女婦のこと / 寡婦と農業 / 山伏と島流し / 生活の俳諧 / 女性史学
 注釈 / 解説 和歌森太郎 / 年譜


柳田 国男 (やなぎだくにお)
「桃太郎の誕生」 (ももたろうのたんじょう)


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*384頁
*発行 昭和26年
*カバー・林勉

*カバー文
 昔々、爺と婆とがあった。爺は山へ木をきりに、婆は川へ洗濯に……。誰もが一度は胸ときめかせながらきいたこの"小さ子"物語の背後には、日本民族固有の信仰が秘められ、知られざる日本の謎がかくされている。民族の心の奥ふかくに昔話発生の拠りどころを探り、昔話の構造・分布・系統などをはじめて科学的にとりあげた歴史的名著、読者の知的興奮をそそる日本文化探検の書である。


柳田 国男 (やなぎだくにお)
「野草雑記・野鳥雑記」 (やそうざっき・やちょうざっき)


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*268頁 / 発行 昭和37年
*カバー・林勉

*カバー文
日本に民俗学という学問の分野を開いた著者は、人間生活に対すると同じ目をもって野鳥や野草と対座する。野の草にも鳥にも、人間生活と接触しながら営んできた彼らの長い歴史があった。彼らに寄せる人間の願いや祈りや恐れは、その呼称にもさまざまな俗称・方言を生み出している。著者は深い愛情をもってそれらの実態と由来を説き、野への限りない郷愁を誘う。

*解説頁・丸山久子


柳田 国男 (やなぎだくにお)
「雪国の春」 (ゆきぐにのはる)


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*212頁
*発行 昭和31年
*カバー・林勉

*カバー文
これは南国的な「海南小記」とならんで、日本の北の果ての、きびしい風土に打ちこまれた最初の鍬である。雪国の素朴な詩情と善意。とりわけ、何気なく語られながら伝承文学の本質を喝破した「東北文学の研究」が白眉である。悲劇の人、義経にまつわる話だけにことにあわれ深い。

*解説・岡見正雄 / 注釈・年譜付き


山口 瞳 (やまぐちひとみ)
「善の研究」 (ぜんのけんきゅう)


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*396頁 / 発行 昭和48年
*カバー・柳原良平

*カバー文
「世の中に悪い女なんていやしない」
「……」
「女ってのは、全部、悪い奴なんだよ」
「同じことじゃないか」
「そうじゃない、ぜんぜん違うよ。女ってのは、そもそも悪人なんだよ」 ―
 酒場の女性に捧げられ、そして裏切られる、男の哀しい真心。男と女の心理の綾を肌理細かにとらえながら、人間の善意のほろにがさを、しみじみとしたペーソスのうちに描く佳篇。

*解説頁・虫明亜呂無


山口 瞳 (やまぐちひとみ)
「むにゃむにゃ童子」 (むにゃむにゃどうじ)


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*258頁 / 発行 昭和54年
*カバー・柳原良平

*カバー文
  ― 私の女房は機嫌のわるいときに歌を歌う。もっと機嫌のわるいときは、くちのなかで「むにゃむにゃ童子」と唱える。これが、いちばん辛い。
 「パパが悪いんだからね」女房が言う。私のすすめで、女房は二度の堕胎をし、生まれることのなかった子供に、私の知らない戒名をつけていた。
 平穏な日々によみがえる、むかしの苦しい思い出。現在と過去の交錯のうちに、日常心理の微妙な明暗を鮮やかにとらえ、明るさの底に生きることの苦渋と哀しみをにじませた、秀作九篇。

*目次
むにゃむにゃ童子 / ある時 / 反対 / 身延(みのぶ) / 仲人記(ちゅうにんき) / この町 / 貧乏遺伝説 / 野球 / 自画像 / 解説 宮野澄


山口 瞳 (やまぐちひとみ)
「わが町」 
(わがまち)


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*274頁 / 発行 昭和52年
*カバー・柳原良平

*カバー文
 駅から南に向って一直線に広い通りがある。この道は大通りとよばれている。両側が桜並木になっている。
 大通りに面した商店は、自分の店の前の歩道と大通りの間の土地に草花を植えている。
 町の中心に、こういう大通りがあるから町全体が公園のようになっている。
 都心を離れた、静かな学園都市、住宅地として知られ、今は団地も増えつつある、わが町。 ―
 タクシー運転手の森本、アオヤギ、居酒屋の主人甚さん、酒場のマダム照子、そして、〈戦後疲れ〉の会社員河居など、土地に住む人々とのさまざまな交遊を、町の四季や変遷の中に鮮やかに浮き彫りにしながら、生きることのすべては〈仮の姿〉とする、深い想いをにじませる名作。

*解説頁・沼田陽一
*「わが町」=東京都国立市


山田 風太郎 (やまだふうたろう)
「軍艦忍法帖」
 (ぐんかんにんぽうちょう)


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*381頁 / 発行 1986年
*カバー・佐伯俊男

*カバー文
 得体の知れぬ幻法、妖術と見えた。乗鞍丞馬(のりくらじょうま)と名乗った飛騨の浪人は、将軍上覧の御前試合で、すでに六人を倒していた。素手で真剣を砕き、頚骨を叩き折るという凄まじさ…。
 だが七人目に立った旗本、宗像主水正(むなかたもんどのしょう)の剣が、丞馬の片腕を肘から叩き切った。幻術は破れたのである。丞馬は知っていた。それは主水正の背後に見た一人の女の面影のせいであることを。飛騨の幻法は女を恋したときにやぶれる。やがて主水正の妻となる女、お美也に、丞馬は一目で恋したのだった…。
 時は擾乱の幕末。秘めたる恋に生命を賭け、飛騨幻法を駆使して愛する女を護りぬいた最後の忍者の凄絶な一生を描く。

*「飛騨忍法帖」改題。


山田 風太郎 (やまだふうたろう)
「忍法鞘飛脚」 
(にんぽうさやびきゃく)


*カバー・佐伯俊男
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*376頁 / 発行 1981年

*カバー文
 私はインテリ忍者だ。忍法など信じないし、全然知らない。本業は医者である。にもかかわらず、忍者と自称するのは、迷惑なことに私が忍者の一族に籍を置く人間だからだ。
 ある日、一族の長老に呼ばれた私は、とんでもない命令を受けた。公儀隠密として志摩まで行けというのだ。忍者の掟は厳しい。いやいや私は命令に従った。だが、私の不吉な予感は当たり、私は眼と耳と舌と四股を失う羽目になったのである……。
 忍者とは名ばかりの男が辿る皮肉な運命をコミカルに描いた傑作忍法帖。

*目次
忍法鞘飛脚 / つばくろ試合 / 濡れ仏試合 / 伊賀の散歩者 / 天明の隠密 / 春夢兵 / 忍法枝垂七十郎 / 忍者死籤(しにくじ) / 解説 中島河太郎



山田 風太郎 (やまだふうたろう)
「魔群の通過」 
(まぐんのつうか)


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*338頁
*発行 昭和56年
*カバー装画・沢田重隆

*紹介文
幕末に起きた天狗党の悲劇の顛末を、全編一人称の語りで描いた著者入魂の力作長編。


山田 風太郎 (やまだふうたろう)
「明治十手架」(下)
 (めいじじゅってか)


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*371頁 / 発行 1991年
*カバー・天野喜孝

*カバー文
 星霜移り明治16年。ガス燈けぶる銀座の片隅で絵草紙屋を営む傍ら、出獄人保護所の善行に身を投じるか弱き乙女ふたり。有象無象の荒くれ共からこの秀麗な姉妹を守るため、十字架にも見て取れる十手一本首にさげ、戦う快男児・原胤昭。だが、運命の時は来た。二度と渡るまいと心に誓った牢獄島に、胤昭が囚人として渡ることになろうとは……。鬼畜の如き極悪人が、残された姉妹を目指す。鳴呼、願わくば清きふたりに神仏の加護賜らんことを!
 虚実混沌、揺れ動く近代日本漿明期を舞台に展開する奇想天外の物語。日本免囚保護の父と謳われる原胤昭の生涯を綴る伝奇小説の金字塔。

*解説頁・山村正夫


山本 健吉 (やまもとけんきち)
「いのちとかたち 日本美の源を探る」
角川文庫ソフィア


*カバー・加山又造「七夕屏風」、部分
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*471頁 / 発行 1997年

*カバー文
日本人の自然観・芸術観・死生観を総合的にとらえた本格評論。本書は、日本を訪問した故アンドレ・マルローが感嘆した那智の滝と藤原隆信筆「平重盛像」への考察から始まり、日本の絵に影のないことに着目、そこから「たましひ」「やまとたましひ」をめぐる論究が展開する。上代から近代に至る日本文学をはじめ、花・茶・能などの伝統芸術を題材として日本美の淵源に分け入り、「いのち」と「かたち」のありかを見定めようとする著者畢生の長編評論。野間文芸賞受賞作。

*目次
序章 那智滝私考
第一章 二つの肖像画
第二章 「影」と「たましひ」と
第三章 後白河院をめぐって
第四章 画竜点晴
第五章 和魂漢才
第六章 源氏物語「少女(おとめ)」の巻箋
第七章 魂の女教育者たち
第八章 人と神との間
第九章 辞林遡
第十章 生きる力の根源
第十一章 「いろごのみ」再考
第十二章 「諸向(もろむ)き心」と「直向(ひたむ)き心」
第十三章 二つの後宮サロン
第十四章 栄枯盛衰
第十五章 「いみじき心ばせ」
第十六章 歌枕の誕生
第十七章 囁くような告げごと
第十八章 遥かなみちのく 遠い歌枕
第十九章 花の美学
第二十章 茶の思想
第二十一章 世阿弥の能における
第二十二章 死・老・狂・修羅
第二十三章 鏡の間と鏡板の意味
終章 造化と自然と
 あとがき / 解説 高階秀爾


山本 健吉 (やまもとけんきち)
「現代俳句」 
(げんだいはいく)


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*434頁
*発行 昭和39年
*カバー・名物裂 間道

*カバー文
現代俳句の出発点たる子規・虚子にまでさかのぼり、昭和俳句の連峰をなす主要作家42人の500句に及ぶ作品を展望する。切字や季語、滑稽や挨拶という、俳句がもつ根本的な性格に、現代という今日的問題を捉えた日本独自の短詩型文学の核心に迫って、綿密な考察と斬新な鑑賞、格調ある批判を展開する。


山本 茂実 (やまもとしげみ)
「塩の道・米の道」 (しおのみち・こめのみち)


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*316頁
*発行 昭和53年
*カバーデザイン・玉井ヒロテル / 写真・榑沼光長

*カバー文
ただ歩いていると、何の変哲もないように見える“道”。だがそこには、時代とともにその道を歩んだ人々の、哀歓の歴史が秘められている。 ― 囚人たちが血を流し、生命を失ってつくり上げた「網走街道」、産業の道であり、また人々の欲望の道であった「塩の道」「米の道」、夜這いの行われたという国見峠の道…。 本書は、北はノサップから南は九州までの、十九の道に秘められた人々の生活を、情趣豊かに綴るルポルタージュ文学の名作である。またここには、日本のノンフィクション史に輝く『あゝ野麦峠』の原型も収められている。

*解説頁・原田伴彦


山本 茂実 (やまもとしげみ)
「続 あゝ野麦峠」
(ぞくああのむぎとうげ)


*カバーデザイン・村上光延
 カバーイラスト・大槻紀子
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*332頁 / 発行 昭和57年

*カバー文
戦後ノンフィクション屈指の名作『あゝ野麦峠』が世に出て以来、著者の手元にはさらに膨大な資料が集められた。
”あゝ飛騨が見える……”とつぶやいて、晩秋の野麦峠に散っていった哀しい工女みねの兄のその後は? 女工哀史ばかりではなく、男工哀史もあった事実…。野麦峠を越えた悲惨な工女たちは、飛騨地方の工女ばかりでなかったこと……。
これは、新たに発見されたエピソードや資料をもとに、明治政府の下で強力に進められていた富国強兵政策の中で押し潰されていった、若き工女や村人たちの姿を浮き彫りにする感動のドラマである。

*目次
 まえがき
◆ 「ああ飛騨が見える」その後
 第一話 おみね地蔵由来記 / 第二話 越中おわらと野麦峠 / 第三話 オトメ餅の哀歌
◆ 飛騨の糸ひきさ
 第四話 美女峠宇野茶屋のこと / 第五話 山中紙の利賀水無 / 第六話 石室に咲いた冬の花 / 第七話 美女峠の英雄 / 第八話 旦那様と百円工女
◆ 飢餓街道
 第九話 ワラビ粉の村 / 第一〇話 生活の道・野麦街道 / 第一一話 お助け茶屋・鬼婆さの謎 / 第一二話 野麦越えの花嫁さん
◆ 湖畔の哀歌
 第一三話 「逃げた工女」 / 第一四話 長い戦闘と関東大震災 / 第一五話 繭倉にすすり泣く幽霊 / 第一六話 男工哀史 / 第一七話 ペーパー詐欺の裏側
◆ 野麦街道で拾った話・証言
 第一八話 商人(あきんど)たちの語る野麦物語 / 第一九話 野麦峠・飛騨側と信州側 / 第二〇話 中央線の開通と野麦峠 / 第二一話 野麦峠の挽歌 ── ある女の回想から
◆ 余聞・工女惨敗せり
 第二二話 争議団誕生 / 第二三話 嵐の後も寒かった / 第二四話 湖畔に生まれた極楽の殿堂
解説 小田切秀雄


山本 茂実 (やまもとしげみ)
「飛騨の哀歌 高山祭」 (ひだのあいか たかやままつり)


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*340頁 / 発行 昭和56年
*カバーレイアウト・玉井ヒロテル / カバー写真・上條勝弘

*カバー文
 飛騨の山ふところに抱かれて、小京都とも呼ばれる優雅な街、高山。この町では昔から、春秋二回、日本三大祭りの一つとも呼ばれる“高山祭”が催される。
 その日、古い家並のならぶ街角には、原色に塗りこめられ飾りたてられた「屋台」と呼ばれる祭車が十数台曳き出され、古式豊かで絢爛豪華な祭絵巻が繰り広げられるのである。
 しかし……飛騨地方の貧しさに過ぎる華美な祭 ― この祭に凝集する人々の、すさまじいまでのエネルギーは、いったいどこから来るのか?
 名作『あゝ野麦峠』『喜作新道』の著者が、世に知られる“高山祭”を描き、それを支えてきた民衆の旺盛な生の活力を浮き彫りにするノンフィクションの名作。

*解説頁・北原進


山本 茂実 (やまもとしげみ)
「松本連隊の最後」
 (まつもとれんたいのさいご)


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*384頁
*発行 1978年
*カバー・玉井ヒロテル

*カバー文
 太平洋戦争末期、日本の戦局は刻々と悪化しつつあった。この祖国の危急存亡のとき、新しく再組織された松本百五十連隊は軍靴の音を響かせて深夜の営門を後にした。
 だが、詳しい行先を知らずに戦意に燃える兵士たちを待ち受けていたのは敵の銃弾ばかりではなかった。魚雷による輸送船の沈没、強度の栄養失調、そして難病……多くの兵士たちが次々と倒れていった。
 これは、生き残りの兵士たちに徹底取材し、克明にして膨大なメモによってまとめられた無名兵士たちの哀史である。そして戦争とは何かを生々しく伝える戦記ノンフィクションの傑作である。

*解説頁・藤原彰(一橋大学教授)


山本 常朝著 奈良本 辰也訳編 (やまもとつねとも/ならもとたつや)
「葉隠」
 (はがくれ)


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*306頁
*発行 1973年
*カバー・下村吉之介

*カバー文
 「武士道といふは、死ぬ事と見付けり」の一句ゆえに、ときに礼讚され、ときに嫌悪されながら、なお厳として日本人の中に生きつづける「葉隠」、その永遠の魅力とはいったい何であろうか。本書は「葉隠」の精髄を、現代語訳によって再構成し、種々雑多な、その思想内容を初めて体系づけた画期的な試みの結晶である。非合理的なものへの憧憬の中に、深い人生の叡知を宿した一言一句は、そのまま今日的意味をもって、多くの示唆を放っている。