絶版文庫書誌集成
大衆文学館
文庫コレクション
(講談社) 【か行】


海音寺 潮五郎 (かいおんじちょうごろう)
「鷲の歌 上下」 
(わしのうた)


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*上巻326頁・下巻332頁 / 発行 1995年

*カバー文
上巻
安政年間、琉球王国は日中両国に従属させられ、苦渋の中にあった。王朝高官は二派に分裂し、将来への確たる展望も見出せない。折しも、対外国貿易拠点としての利用を目論む薩摩藩主・島津斉彬(なりあきら)の圧力が、この島国を襲う。王朝の苦しみは、民衆の上にもさまざまな形で暗い影を落としはじめていた……。該博な知識と卓越した史観で、強大国の利害に翻弄される小国の悲哀と知識人の悩みを綴る歴史巨編。
下巻
琉球の苦衷を察した薩摩の新代官・市来四郎は、架空国家トカラを作り対外貿易に利用するが、琉球王朝内の薩摩憎しの声は押(おさ)えきれない。一方、薩摩藩内にも島津斉彬(なりあきら)の積極貿易をめぐる対立が顕在化していた。しかし、思いもかけぬ斉彬の急死が、状祝を一変させた。衝撃的な運命が市来や琉球の親薩摩派親方たちの上に降りかかる!史伝文学の巨匠が万感の想いをこめて描き上げた幕未琉球の悲劇。


海渡 英祐 (かいとえいすけ)
「伯林 ― 一八八八年 / 次郎長開化事件簿」
(べるりんせんはっぴゃくはちじゅうはちねん / じろちょうかいかじけんぼ)


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*573頁
*発行 1997年


*カバー文
明治21年冬の伯林。留学中の若き医学徒の森鴎外はドイツ娘との恋に煩悶の日々を送るが、古城でおきた伯爵殺害事件に遭遇、究明にのりだす。二重密室、背景に鉄血宰相ビスマルク ―― 乱歩賞受賞の名作と、明治になり、老境に入った清水の次郎長が新時代の青年と、持込まれる怪事の数々を解く傑作。


梶山 季之 (かじやまとしゆき)
「影の凶器」
(かげのきょうき)


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*318頁
*発行 1996年

*カバー文
女 ―― それは男を迷わせるだけではない。会社組織をも狂わせる凶器だ。籠絡した四人の美女を武器に、高度成長の波に乗る電機業界の舞台裏に暗躍する産業スパイ・片桐七郎。俺こそが影の凶器だ、と豪語する非情の男は、アメリカ仕込みの凄腕で、着々と成果を挙げていく……。精力的な取材とダイナミックなストーリー展開で、わが国に企業スパイ小説というすぐれて現代的なジャンルを拓いた著者の代表作。


香山滋 (かやましげる)
「海鰻荘奇談」
(かいまんそうきだん)


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*554頁 / 発行 1997年

*カバー文
人類学の素養に裏打ちされた魔境冒険ものの三部作「オラン・ペンデクの復讐」。生物学の知識に彩られた豪華絢爛たる「海鰻荘奇談」。古生物学、地質学の該博な教養に加えて、妖艶なエロチシズムが横溢する「怪異馬霊教」「ソロモンの桃」「蜥蜴の島」「エル・ドラドオ」など九篇を収録。一大ブームをまきおこした怪獣ゴジラの生みの親が、戦後間もなくの大衆文学界に衝撃を与えた、幻想、怪奇、秘境ものの傑作を網羅!

*目次
オラン・ペンデクの復讐
海鰻荘奇談
怪異馬霊教
白蛾
ソロモンの桃
蜥蜴の島
エル・ドラドオ
金鶏
月ぞ悪魔


川口 松太郎 (かわぐちまつたろう)
「しぐれ茶屋おりく」 (しぐれじゃやおりく)


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*409頁 / 発行 1997年

*カバー文
隅田川沿いの芦の湿原の中に建つ「しぐれ茶屋」。蛤(はまぐり)の茶漬けを求めて、伊藤博文をはじめ、政治家・実業家・芸人らが通ったという。実在のモデルの女将おりくは殊の外、芸人を可愛がった。円熟した筆使いにのせ、明治末期から大正にかけての庶民の哀歓を、このひとでなければといわれるほど、見事に織りなし、市井に花咲く人情の世界を流麗に綴る、川口文学の代表作。吉川英治文学賞受賞。

*解説頁・高橋千劔破(たかはしちはや)


川口 松太郎 (かわぐちまつたろう)
「人情馬鹿物語」
(にんじょうばかものがたり)


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*311頁 / 発行 1981年

*カバー文
憧れの女性に着せたい一心で華麗な振抽を精魂こめて縫い上げた刺繍職人、自分のため店の金を横領した若者の釈放に奔走する遊女、逢瀬(おうせ)の翌日は必ず負ける力士の出世を願って身を引く芸者……ここに描かれるのは、私利を顧みず人間の情に生きた悲しく優しい「人情馬鹿」たちだ。美しい風俗と江戸っ子気質(かたぎ)が色濃く残る大正期の東京下町を舞台に、人生の達人が共感と愛惜の想いをこめて綴った名作一二話。

*巻末頁
 エッセイ ― 宇神幸男
 解説 ― 磯貝勝太郎


木々 高太郎 (きぎたかたろう)
「光とその影 / 決闘」 (ひかりとそのかげ/けっとう)



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*586頁 / 発行 1997年

*カバー文
探偵小説芸術論を提唱して、探偵小説は、謎・論理的思索・謎の解決の3条件を具備しなければならず、その形式が完備しているほどすぐれた探偵小説であり、芸術小説である、と主張した著者の成果を示す長・短編の秀作を収録。長編『光とその影』は探偵役に外国人神父が登場、息詰まるようなサスペンスに溢れる。『決闘』『死固』等の9短編は、デビュー以来のおよその流れが分かるよう収録した。

*目次(収録作品)
光とその影 / 決闘 / 大浦天主堂 / 死の乳母 / 死固 / 債権 / 恋慕 / 青色鞏膜 / 冬の月光 / 眠れられぬ夜の思い


菊池 寛 (きくちかん)
「仇討小説全集」
(あだうちしょうせつぜんしゅう)


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*401頁 / 発行 1996年

*カバー文
人間の情念の微妙さを描き出す卓抜な技巧、弱者に対する深い思いやり ―― 菊池寛の特質は、仇討小説にもっとも鮮やかに表われている。九年目にめぐりあった仇の隧道開削の非願に心を動かされた青年武士がともに槌を振るう名作『恩讐の彼方に』、逆の側から忠臣蔵を見た『吉良上野の立場』、仇討の複雑な心理を直接間接に捉えた『仇討三態』など、収録した仇討ものの全短編は、まさに巨匠の独擅場!

*目次
恩讐の彼方に
仇討三態
吉良上野の立場
下郎元右衛門 ―― 敵討天下茶屋
仇討兄弟鑑
敵討順逆かまわず
返り討崇禅寺馬場
敵討二重奏 ―― 石井兄弟亀山譚
敵討愛慾行
堀部安兵衛
敵討母子連れ
仇討禁止令
仇討出世譚
ある敵打の話
 巻末エッセイ 吉川英明
 人と作品 尾崎秀樹


邦枝 完二 (くにえだかんじ)
「お伝地獄(上下)」
 (おでんじごく)


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*上312頁・下272頁 / 発行 1996年

*カバー文

女だてらに丁半勝負に興じるお伝の美貌の陰には、夫・浪之助への新妻の如き愛が息づいていた。時は明治初年、薬も加持祈祷も効のない夫の業病治療のため、彼女は利根川の村から東京の名医へと人力車を走らせる。前途に凄惨な運命が待ちうけているとも知らずに……。希代の毒婦として処刑されることになる高橋お伝の生涯と女心の振幅を、戯作的雰囲気と濃密なエロティシズムの中に描いた情緒派の代表作。


最愛の夫の癩治療のため、高橋お伝は名医ヘボン博士を頼って文明開化間もない横浜に移り住む。異国情緒と活気あふれる港街で、治療費捻出のために夜ごと男を求めるお伝。そして出合った運命の男。彼女は底知れぬ無間地獄の闇に、否応なく引きずりこまれていった…。お伝は悪女か、はたまた貞女か。美貌ゆえに人生を狂わされた一人の女の凄絶な宿命と真実の姿を追った、大衆文学史を飾る傑作長編。

*下巻巻末頁
 巻末エッセイ 加納一朗
 人と作品 縄田一男


国枝 史郎 (くにえだしろう)
「神州纐纈城」 (しんしゅうこうけつじょう)



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*425頁 / 発行 1995年

*カバー文
武田信玄の寵臣土屋庄三郎は夜桜見物の折りに老人から深紅の布を売りつけられる。これぞ纐纈布!古く中国で人血で染められたとされる妖しの布だ。この布が発する妖気に操られ、庄三郎がさまよう富士山麓には、奇面の城主が君臨する纐纈城や神秘的な宗教団が隠れ棲み、近づく者をあやかしの世界に誘い込む。怪異と妖美のロマンを秀麗な筆致で構築し、三島由紀夫をも感嘆させた伝奇文学の金字塔。

*巻末頁
 巻末エッセイ 半村良
 人と作品 末國善己

単行本

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六興出版
*286頁
*発行 1982年
*装画・小田冨弥

*紹介文
武田信玄の寵臣土屋庄三郎は夜桜見物の折りに老人から深紅の布を売りつけられる。これぞ纐纈布!古く中国で人血で染められたとされる妖しの布だ。この布が発する妖気に操られ、庄三郎がさまよう富士山麓には、奇面の城主が君臨する纐纈城や神秘的な宗教団が隠れ棲み、近づく者をあやかしの世界に誘い込む。怪異と妖美のロマンを秀麗な筆致で構築し、三島由紀夫をも感嘆させた伝奇文学の金字塔。


国枝 史郎 (くにえだしろう)
「蔦葛木曽棧」(上下巻) (つたかずらきそのかけはし)



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*上巻274頁・下巻365頁 / 発行 上巻1996年・下巻1997年

*カバー文
上巻
時は室町の末。木曽の領主・義明に愛妾として迎えられた遊女の鳰鳥(におどり)には、秘めた大望があった。イスパニアの司僧であった父を惨殺した義明への復讐である。兄の御嶽冠者もまた御嶽山中深く一党を率いて仇の隙をうかがっていた。兄妹の怨念が数多の妖士怪人を呼び集め、風雲まさに急を告げるとき、妖異壮大な物語の幕は開く! 無類の構想力、ロマンの錬金術師の三大伝奇小説第一作、いよいよ登場!

下巻
父の仇木曽義明の寵姫になりすまし、義明を翻弄する美女鳰鳥だが、俗界に失望して城外へ脱出する。そして彼女は人外の世界に迷いこみ、不思議な体験をする。一方、御獄冠者のもとには怪盗石川五右衛門、忍術の百地三太夫、霧隠才蔵、幻術師のオースチンなどが集結し、敵や盗賊相手に忍術妖術を開陳……。木曽、加賀の深山幽谷を舞台にし、千変万化の物語を豊かな空想力で構築した、鬼才の名作長編。

*下巻巻末頁
「講談雑誌」連載終了時における結末
 人と作品 末國善己


国枝 史郎 (くにえだしろう)
「八ケ岳の魔神」
(やつがたけのまじん)


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*380頁
*発行 1996年

*カバー文
秘峰八ケ嶽を舞台に、姫をめぐる兄と弟の愛の確執と惨酷な結末が、果てもなく続く一族の血塗られた歴史の発端だった。憎悪は憎悪を呼び、復讐は復讐を生む。山窩族と水狐族に分かれて争う末裔たちの呪詛と怨嗟の叫びは、時空を越え、いま大江戸の夜に凄然と谺する! 近代劇作の手法もとりこんだ卓抜な構想力と無類の空想力で妖美幻想の世界を拓き、国枝三大伝奇長編の一つと評される豊饒な成果。


群司 次郎正 (ぐんじじろまさ)
「侍ニッポン」
 (さむらいにっぽん)


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*271頁 / 発行 1997年

*カバー文
大老井伊直弼の落胤新納(にいろ)鶴千代。悪旗本から一条卿の姫を救ったことが発端となり、転変波乱の修羅の巷に引きこまれる。2人の美女に惑乱され、封建社会の枠にもはまれず、勤皇佐幕の波にも乗れず、幕末動乱の浮世をさすらうニヒルな侍の孤影 ― ―人を斬るのが侍ならば恋の未練がなぜ斬れぬ。阪東妻三郎主演、西条八十作詞、松平信博作曲の映画主題歌が津々浦々に流れ、一世を風靡した名作。

*巻末頁 人と作品 尾崎秀樹


五味康祐 (ごみこうすけ)
「スポーツマン一刀斎」
(すぽーつまんいっとうさい)


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*341頁
*発行 1995年

*カバー文
奈良の山中から武者修行の旅に出た若者が、なにげなくプロ野球場の打席に立った時から、大騒動は始まった。連続本塁打三十七本、目かくしでも打球はスタンドへ一直線! 巨人軍に入団、とてつもない強打を連発した男こそ、一刀流始祖・伊藤景久十七代目の末裔だった。そして一年後、故郷に引きこもった彼を口説くスカウトに、一刀斎は、あっと驚く条件を出した! 奇想とユーモア溢れる空前の快作。


今 東光 (こんとうこう)
「お吟さま」 (おぎんさま)



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*330頁 / 発行 1996年 / 第36回(昭和31年度下半期) 直木賞受賞

*カバー文
千利休の娘・お吟の胸には、堺の豪商・万代屋(もずや)宗安に嫁いだ後も、初恋のキリシタン大名・高山右近の俤(おもかげ)がひそかに生きつづけていた。やがて離婚したお吟の美貌は、最高権力者・秀吉の関心をひき、その軋轢(あつれき)が、お吟と利休を苛酷な運命の袋小路に引きずりこむ……。戦国の世を生きた薄幸の美女を描き直木賞を受けた名作に、平家滅亡に生涯を賭した僧の生きざまを綴る『弱法師(よろほうし)』を加えた本格歴史小説集。 第36回(昭和31年度下半期) 直木賞受賞

*巻末頁
 巻末エッセイ 瀬戸内寂聴
 人と作品 植村修介