絶版文庫書誌集成

吉川英治文庫 (旧版) 11〜20

11 「金忠輔・一領具足組」 (こんちゅうすけ・いちりょうぐそくぐみ)


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*336頁
*発行 昭和51年
*カバー装画・秋野卓美

*カバー文
 姓はコン、名はチュウスケ、名前からして型破りの武士。身分は六十万石の仙台藩にあっては軽輩も軽輩の四十石扶持。だが腕も立てば、口も立つの快男児。まず林子平の江戸送りで、(アイツ、なかなかやるワイ)と殿を唸らせ、「お道、これまで」と怒鳴って一藩を爆笑させた人物。奇行の多いくせに、女には意外にモテ、いささか脱線のきらいも……。天衣無縫の行動が敵をつくり、幾度か刃影に身をさらす。豪快奔放、その人の如き快作。


12「さけぶ雷鳥」 (さけぶらいちょう)


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*335頁
*発行 昭和51年
*カバー装画・秋野卓美

*カバー文
 元はといえば、ただの下町娘が柳沢吉保の養女になって将軍綱吉の寵者(おもいもの) ― おちゃらさまは手のつけられぬ我儘もの。そのおちゃらさま注文を見事はねつけた名人鍔師光親。しかし、おちゃらさまの青い焔の復讐心は恐ろしい。光親の絶品という雷鳥の鍔 ― これが本編の眼目である。そして高野山から持ち出された、真言性慾経の行方を追う圭之助と仮名江(かなえ)。婦人雑誌では伝奇小説はうけぬというタブーに挑戦し、大評判となった伝奇長編。

*巻末頁 「さけぶ雷鳥」茶話 松本昭



13 江戸城心中



14 かんかん虫は唄う・色は匂えど



15 牢獄の花嫁


16 「春秋編笠ぶし・菊一文字」 (しゅんじゅうあみがさぶし きくいちもんじ)


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*266頁
*発行 昭和60年
*カバー装画・三井永一 カバー装丁・辻村益朗

*カバー文
「松山新助はなんの因果か、余りにも美貌に生れついた」で始まる「春秋編笠ぶし」は著者初期の代表的中編である。戦国の世にあって、美貌と美声の持ち主だけでは出世の材料にならない。いつまでも鎚組の末輩である彼が、二重の敵を持った。一人はお夏をめぐる恋敵柘植半之丞、一人は宿敵加藤家の家中の者。朝鮮出陣で、プツリと糸の切れた彼の影法師こそ本編の眼目である。他に幕末の志士の火華の生涯を描く「菊一文字」を収める。

*解説頁 武蔵野次郎


17 「檜山兄弟」 (全三巻) (ひやまきょうだい)


*カバー装画・玉井ヒロテル
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*(一)283頁・(二)338頁 / 発行 昭和51年

*カバー文
(一)
「剣難女難」から「鳴門秘帖」、さらに「貝殻一平」と一作ごとに、著者は新境地を切り拓いていった。「年を隔てて書いたものが、みな他人の作品のようだと評されることを、私はむしろ自分の反省の効果としている」と著者は書いている。 ― 型にはまるな、型から出よ、著者は自己を鞭うちつつ、大作「檜山兄弟」(昭和六年)に向かった。題材は幕末の激動期、必死に家名の挽回を図ろうとする檜山兄弟に時代の嵐(倒幕・黒船騒ぎ)は容赦なく吹きつける。
(二)
 舞台は三四郎の故郷、糸魚川の奥の檜山に移る ― 。二億何万両といわれた銭屋の巨財も加賀前田藩に没収され、わずかに残るは檜山十万坪と謎の星雲丸だけ。その檜山も今は糸魚川藩兵の調練に荒され、兄弟を悲憤の涙につつむ。いや、そればかりか兄弟の生命さえ最大の危機をむかえた。 ― 越後の西の果ては親不知。一里の海岸は不断に風浪狂い、旅人は浪の引きどきを測って岩穴から岩穴へ走るという。北陸第一の難所に闘う兄弟は?


18 「隠密七生記」 (おんみつしちしょうき)


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*275頁
*発行 1985年
*カバー装画・玉井ヒロテル

*カバー文
八代将軍吉宗と尾張の太守宗春との確執は史上隠れもない事実であるが、原因は将軍職の争奪にあったことは明白である。敗れた宗春は事ごとに吉宗に反抗した。だが、吉宗には宗春を咎めだて出来ない弱味があった。「文昭院御遺言」を宗春が所持しているからである。この秘文を奪いに、吉宗直属の隠密が何人くり出されたことか。彼らは二度と江戸へは戻らなかった。今ここに、最後の隠密ともいうべき甲賀才助が鯱の城に送りこまれる。

*解説頁 「隠密七生記」をよんだころ 伊藤桂一


19「紅騎兵」(二) (こうきへい)


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*281頁
*発行 昭和52年
*カバー装画・玉井ヒロテル

*カバー文
 前編で登場しなかった紅騎兵は、春の霞たなびく富士の裾に忽然と出現する。蹄の音も軽やかに近衛の紅騎兵と名乗って ― 。だが、官軍の厳重な警戒網におちた謎の騎手(のりて)は? ともあれ、二百数十年の休火山が一時に火を噴いた幕末。鳴動に喘ぐ人々の顔は ― あくまで恋に生き恋に死なんとする操、重なる敗走に貴公子の面影も失せた造酒(みき)、官軍ながら卑劣冷酷な数馬と闊達な同士譲(ゆずる)、淫奔な江戸女お咲など走馬燈の如く展開する幕末絵図。

*巻末頁 「紅騎兵」茶話 松本昭
*全二冊


20 「燃える富士」 (もえるふじ)


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438頁
*発行 昭和50年
*カバー装画・玉井ヒロテル

*カバー文
 豊臣か徳川か――日本中が真っ二つに割れて争ったことが、二百六十年後にまた起ってしまった。勤王か佐幕か――幕末、日本中は嵐のように狂った。風速千尋は、そのヒロインである。彼女は数奇な星の下に生れ、勤王と佐幕の間に身を漂泊(さすら)う。しかも彼女は百万両の黄金伝説の持ち主。貪欲な眼と眼が彼女を追う。――この長編は「日の出」の創刊号より連載、完結に先立って阪妻が映画化し、颯爽たる“不二木襄馬”が観衆の前を走った。

*巻末頁 「燃える富士」茶話 ―― 昭和七年、四十歳の吉川英次 松本昭