絶版文庫書誌集成

吉川英治文庫 (旧版) 21〜30

21
「お千代傘」 (おちよがさ)


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*322頁
*発行 昭和51年
*カバー装画・堂昌一

*カバー文
 「お千代傘」は密偵政治の全盛だった井伊大老の安政の大獄のころ――幾多の熱血児は笑って血の獄へ下っていった。彼らは生死の境にも恋をし、貧苦と戦い、子をなし、そして妻子と悲しく別れた。彼らのなかに婉然と出没したお千代という女性を書こうと思う。彼女は妖婦か、女諜者か、スリか。或は芍薬に剣を抱かせたような革命家か。私は彼女を連れて紙上にまみえましょう。どうか、彼女自身について糾してください。 (作者の言葉・要約)

*解説頁 「お千代傘」解説・武蔵野次郎


22
「あるぷす大将」 (あるぷすたいしょう)


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*304頁
*発行 昭和50年

*カバー文
 「日の出」は昭和初期を飾る代表的な雑誌で、強力な小説陣が呼びものであったが、百万の雑誌「キング」に対抗するためには超秘密兵器(?)が必要であった。浜帆一の「あるぷす大将」はまさにこれに応えた企画。穂高の山麓から都会に下りた於兎少年の天衣無縫の行動、清新軽快な描写。有力新人現る、と文壇雀は騒然となったが、覆面をとれば押しも押されもせぬ大家の吉川英治。アッと驚いた世間。だが浜帆一は、二度と登場しなかった。


23
「女人曼陀羅」(全二巻) (にょにんまんだら)


*カバー装画・堂昌一
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*(一)360頁・(二)350頁 / 発行 昭和52年

*カバー文
(一)
 この小説のたて糸は勤王・佐幕の抗争である。とりわけ、太守井伊をめぐる動勢。だが横糸は、絢爛たる金糸。雪葉という絶世の美女の流浪の旅路を描く。 ― 月食の夜、月を鏡にうつせば未来の良人の影がうつると。悲しくも、雪葉の見たものは乱れた雲ばかりであった。父の独断で進めた祝言。そこから悲劇は起り、女の哀しい巡礼が始まる。 ― 昭和八年、東京・大阪の朝日新聞に起稿。書出しの見事さは、新聞小説の典型といわれる。
(二)
 朱い杯 ― それは身ひとつで流浪する雪葉にかけがえのない宝であったが、朱杯〈さかずき〉 ― と善七はいう。だが死ぬほど憎かった男が、なぜか今は慕わしい。同時に、その男 ― 大次郎は善七を父の敵としているのだ。右か左か、愛憎の岐路に踏み迷う雪葉である。さて後編、俄に逞しい活動を開始するのは、井伊直弼のふところ刀 ― 長野主膳。天性の冴えた剃刀にものいわせて、結末に一波瀾呼びそうだ。

*解説頁・「女人曼陀羅」茶話 後醍院良正(第二巻に収録)


24
「恋山彦」 (こいやまびこ)


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*396頁
*発行 昭和51年
*カバー装画・堂昌一 カバー装丁・辻村益朗

*カバー文
 お品は三絃の名手で明眸。なぜか恋人もない。いや、一つあった。古近江の一棹がそれ。一芸をきわめぬうちは江戸にも帰らじ、恋もすまじ、と誓った。しかし行きついた所は、源平時代そのままの伝奇の国だった。そして平家武者と江戸武士の間の暴風的な血戦! 無論、お品を渦中の人として。だが彼女はあくまで妖麗なワキ役で、本篇の主人公はいかなる時代小説にも登場したことのない性格と威風をもった大善魔の巨人である。(作者の言葉・要約)

*巻末頁 「恋山彦」茶話 松本昭


25
「修羅時鳥」 (しゅらほととぎす)


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*355頁
*発行 昭和51年
*カバー装画・堂昌一

*カバー文
 月をかすめて飛ぶ一羽の時鳥〈ほととぎす〉の夜空を劈〈つんざ〉く叫び――一枚の桃山櫛の装飾は全篇の象徴でもある。そして、この櫛の持ち主こそ銀家〈しろがねけ〉五十万両の相続人。名前は荘太郎というが、事情あって行方知れず――。銀家四十八土蔵〈くら〉の乗っとりを企んだのが門兵衛、阿波次郎の小悪党。さらに二人の上をゆく悪党、戸狩弾十郎。一方、幻の荘太郎と櫛を求めて彷徨う奥女中の衣江。かなわぬ恋に悶々のお梶の活躍など、世話もの風の興趣を盛った長編伝奇。 


26
「きつね雨・彩情記」 (きつねあめ・さいじょうき)


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*328頁
*発行 昭和52年
*カバー装画・玉井ヒロテル

*カバー文
 奢侈に鳴る田沼時代の次に登場した白河楽翁は締めつけ政治。ワリを喰ったのが緑林の盗児たちである。楽翁のお眼鑑(めがね)に叶った町奉行石川土佐守が、従来のお目こぼし取締りに枕を高くして眠っていた彼等に手きびしく臨んだ。稲葉小僧をはじめ多くのスリが数珠つなぎに町から消えた。盗人にも三分の理がある。 ― 土佐守には一泡も二泡もふかせてやれ。彼等は蟷螂の斧をふるった。本書には中期の傑作「きつね雨」と「彩情記」を収める。

*巻末頁 「きつね雨」「彩情記」茶話 松本昭


27
「松のや露八」 (まつのやつゆはち)


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*309頁
*発行 昭和51年
*カバー装画・辻村益朗

*カバー文
「松のや露八」(昭和九年)は、著者の曲り角の作品といわれる。いつまでも、「鳴門秘帖」の周辺にいることを著者は好まなかった。「松のや露八」は、その壁を突破しようとした作品である。 ― 免許皆伝の祝い酒から転落の道を止めどもなく辿る一ツ橋家の土肥庄次郎。だが武士を捨てるどころではない、徳川の屋台骨が潰れる時勢になった。負け犬のフツフツたる感情が全篇をつつむ。 ― 著者の苦闘は実った。これは吉川文学の礎石でもある。

*解説頁・駒田信二


30
「青空士官・夜の司令官」 (あおぞらしかん・よるのしれいかん)


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*405頁
*発行 昭和51年
*カバー装画・鈴木義治

*カバー文
 高木富吉 ― 快活な青年だが、一本気。喧嘩ッ早い。上司と衝突もしばしば。希望に満ちた上京であったが、最初から職場で大波瀾。で ― 折角の電信技手(オペレーター)のウデをもちながら、ペットの伝書鳩に情熱を燃やすことになる。新聞社の屋上には伝書鳩が舞い、それが新聞社のシンボルでもあった頃の風と光のロマン「青空士官」は、著者の異色作である。また併載の「夜の司令官」も、日華事変勃発当時の現地の鼓動を伝える異色作である。

*巻末頁・「青空士官・夜の司令官」茶話 松本昭