絶版文庫書誌集成

吉川英治文庫 (旧版) 31〜40

32
「遊戯菩薩・飢えたる彰義隊」 (ゆうぎぼさつ・うえたるしょうぎたい)


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*287頁
*発行 1977年
*カバー装画・村上豊

*カバー文
江戸幕府が開府してから百五十年、宝暦の世ともなると地盤のゆるみが到る所で露呈した。飢餓、風水害、大火、それらが民心を揺すり、希望を打砕く、藤沢の遊行寺で施粥〈せがゆ〉が行われた朝、そこに来た若い男女。 ―― この二人が本篇の主人公である。男は破戒僧、女はそれ者、手を取りあった駆落ち者である。だが女が多情な媚を売ったことから人生の歯車は逆回転する、とめどもなく激しく……。世相の屈曲を大いに風刺した著者中期の佳篇。

*巻末頁・「遊戯菩薩」「飢えたる彰義隊」茶話 松本明


34
「自雷也小僧」 (全二冊) (じらいやこぞう)


*カバー装画・堂昌一
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*(一)276頁・(二)264頁 / 発行 昭和51年

*カバー文
(一)
田滑意次は江戸時代の第一番の金権政治家である。出世を願う大名・旗本、利権を狙う政商が彼の邸に雲集し、彼らが持参する賄賂は広間の外まで溢れたという。しかし、わが世を謳歌するのは田沼とその徒党のみで、民衆は狂った政治の重圧に喘ぎ、斃れ、「田沼時代」を呪っていた。このとき、巷の一角から忽然と現れた自雷也〈じらいや〉に民衆は拍手をおくった。変幻自在な活躍の彼こそ田沼を懲らしめうる侠盗だ。痛快な諷刺を含んだ伝奇巨編!
(二)
老中・田沼意次は賄賂の好きな政治家で、謹呈京人形と書いた箱をあけると、生きた美人が飛出したという逸話がある。本編のお総はそうした運命を辿るべきところを自雷也に救われたが、相手は天下の老中、今後の安全の保証はない。ここに奇怪なのは霧の五郎兵衛、田沼の懐中〈ふところ〉に収って、ますます跳梁する。だが、時の権力に抗するもの、自雷也だけではない。天の声は随所に炸裂する。構想、描写ともに出色と菊池寛氏を唸らせた長編。

*解説頁(二巻の巻末に収録) 「自雷也小僧」の周辺・萱原宏一


36
「善魔鬘」(全二巻) (ぜんまかつら)


*カバー装画・堂昌一
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*(一)271頁・(二)273頁 / 発行 昭和51年

*カバー文
(一)
 江戸でも有数の油問屋「佐賀甚」のひとり娘として、蝶よ花よと育てられたあやめ。だが、すること為すこと、女だてらの小太刀の稽古、水馬の調練……。近所の人を呆れさせるが、これには彼女の生い立ちの秘密があったのである。一身の秘密だけではない、柳営の秘事ともいうべきことが隠されている。そして凶賊「耳」と怪人「雷(いかづち)」の龍攘虎摶の死闘こそ、本篇の眼目である。 ― 著者が伝奇作家としての本領を存分に発揮した黄金篇。
(二)
 二十年の昔、幼少の将軍が井戸へ墜ちるという事件があったが、その責めを一身に負って、幽囚の人となった松平七郎麿。だが事件の底流は今も謎を秘めて渦巻き、雷の不可解な行動、耳の右京の悪辣さ、菖蒲之助の苦難、すべてこれを物語るものである。本書を読んだ、ある文芸評論家は「名人芸の綱渡り小説」と評した。息もつかせね危急の連続、深まる謎の行方に、思わず引きこまれる緊張感! 最も脂の乗りきった時代の著者の伝奇大作。

*(二)巻末頁 「善魔鬘」茶話 ― 二・二六事件と吉川英治 ― 松本昭


37
「愛獄の父母」 (あいごくのふぼ)


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*265頁
*発行 昭和51年
*カバー装画・玉井ヒロテル

*カバー文
 川瀬にめぐる水車――で名高い淀の城、稲葉家六万石は今、お家騒動に揺れていた。当主・丹後守のあとを継ぐべき和子が行方不明になったから――悪家老・大道寺一派は錦の御旗を奪われたように狼狽。だが、これこそ孤中の臣、京僧小一郎の苦肉の策だった。古びたよろい櫃の底に眠る嬰児(やや)……。ここから忠臣対奸臣の知恵の限り、腕の限りの争闘が始まる。美剣士、槍の達人、破戒僧、小町娘、毒婦など、入り乱れての興趣つきぬ伝奇長編。

*解説頁 「愛獄の父母」茶話 ― 吉川英治の恋愛観 松本昭


39
「悲願三代塔」 (ひがんさんだいとう)


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*371頁
*発行 昭和51年
*カバー装画・三井永一

*カバー文
 ここに描かれる塔とは ― 紀州勢州の国境果無山(はてなしやま)の奥は五箇ノ庄という。領主も手をつけえぬ深秘境で、南北朝以来葛木(かつらぎ)家の支配するところ。その中心に聳え立つ多宝塔は、葛木家君臨の象徴であった。だが一夜、所領の横奪を狙う園城寺一族に塔は焼かれ、神文を奪われた。悲願の塔再建は、可憐なお乃婦(のぶ)様の肩にかかった。だが園城寺一家の暴虐はいよいよつのり、紀伊、藤堂の二大藩にまで波瀾はひろがる。絢爛たる著者中期の伝奇雄編。

*巻末頁 「悲願三代塔」茶話 松本昭


40
「江戸長恨歌」 (えどちょうこんか)


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*257頁
*発行 昭和52年
*カバー装画・山本武夫

*カバー文
 一介の能役者から四千石の旗本の聟(むこ)に ― しかも楚々たる武家娘に朝夕かしずかれる身分。賛四郎は三国一の幸福者だった。彼に与えられた比翼の笛、娘に与えられた連理の笛。二人が共に笛を合調(あわ)せていれば何事もなかったが、賛四郎の持合せた悪才が事態を思わぬ方向に導く。彼の仮面にふり廻される二人の美女と善良な兄、そして父。ここに人生の深淵がある。伝奇的な戦慄、世話もの風の紅涙が巧みに溶けあった著者中期の佳篇である。

*巻末頁 「江戸長恨歌」茶話 ― 執筆の周辺 松本昭