絶版文庫書誌集成

吉川英治文庫 (旧版) 51〜62

55
「江の島物語 ― 初期作品集」 (えのしまものがたり)


*カバー装画・佐多芳郎
 カバー装丁・辻村益朗
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*272頁 / 発行 昭和52年

*カバー文
 この書には、著者の文学揺籃時代の作品を収める。早熟だった著者は、十歳の頃にはいっぱしの投稿マニアで、立派な実績を持っていた。そうした成果が「江の島物語」(講談倶楽部一等入選)に結びつく。華麗なる文章、一波万波を呼ぶ構想の妙はすでに芽生えていた。つづいて「馬に狐を乗せ物語」「でこぼこ花瓶」が各ジャンルで一等入選の栄冠。著者の多彩な才能はようやく一点に集中し、文学的開眼をした。著者の記念すべき青春の作品である。

*目次
江の島物語
でこぼこ花瓶
馬に狐を乗せ物語
金座大秘録
侠艶火焔車
因果針全伝
 あとがき(編集部)


56
「剣魔侠菩薩 ― 続・初期作品集」 (けんまきょうぼさつ)


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*279頁
*発行 1977年
*カバー装画・玉村ヒロテル

*カバー文
 人生の転機は、いつやって来るか分らない。著者は関東大震災で路頭に投げ出されてしまった。勤めていた新聞社は焼け、再建のメドはたたない。しかし、震災の強烈な衝撃をはずみとして、著者は文筆一本の道を選んだ。喰えるか喰えないか、前途に不安はあったが、三十一歳の若さは都塵を避け、信濃の温泉に籠らせた。半歳の精進、「剣魔侠菩薩」は、その成果である。その称讃は「剣難女難」へとつづき、さらに「鳴門秘帖」へと結実する。

*解説頁・松本昭


57
「剣侠百花鳥 (短編集一)」 (けんきょうひゃっかちょう)


*カバー装画・佐多芳郎
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*274頁 / 発行 昭和51年

*カバー文
 著者の代表作といえば、「宮本武蔵」「新・平家物語」などをあげよう。いずれも大河小説ともいうべき大長編である。しかし、著者が短編小説の妙手であったことも、多くの人の知るところである。ここに全短編六十六本を八巻に収録する。第一巻は最も初期のもので、「剣侠百花鳥」「蜘蛛売り紅太郎」「邯鄲片手双紙」は著者の天を駆ける奔放な空想力を駆使した快作。また、「醤油仏」「八寒道中」は著者の新人ばなれした力量をみせる佳作である。

*目次
剣侠百花鳥
蜘蛛売り紅太郎
邯鄲片手双紙
増長天王
醤油仏
八寒道中
野槌の百
怪談山茶花講
梅しの杖

 あとがき(編集部)

  
「梅し」(バイシ)=頼山陽の母の名 シ=「風」に「思」(環境依存文字)


58
「治郎吉格子 (短編集二)」 (じろきちごうし)


*カバー装画・佐多芳郎
 カバー装丁・辻村益朗
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*347頁 / 発行 昭和51年

*カバー文
 江戸を荒らしまわった揚句、上方に高飛びしてほとぼりの冷めるのを待っていた鼠小僧。ムズムズしてきた例の手ぐせと持ち前の義侠心が女のことから暴発した「次郎吉格子」。また「葉がくれ月」は鼠が浪人に片棒かつがせ、二条城に忍びこむ話。「銀河まつり」は瞬間の赤光に、恋の遺恨がからみあった煙火合戦、信濃路に著者が聞いた故老の話である。「函館病院」は明治二年、官幕両軍、最後の激戦地・函館に浮び、消える人間群像を描く珠玉編。

*目次
銀河まつり
どてら役人
勤王田舎噺
次郎吉格子
葉がくれ月
明治秋風吟
函館病院
戦国後家
 あとがき(編集部)


59
「退屈兵学者(短編集 三)」 (たいくつへいがくしゃ)


*カバー装画・佐多芳朗
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*366頁 / 発行 昭和51年

*カバー文
 なまじ腕が立つため武士の道から外れた清水一角。上杉の家老千坂兵部への恩義で、買って出た吉良の付人。吉良の側からみた忠臣蔵「無宿人国記」。天明の飢饉に食っていられるのは泥棒と役人だけ。太く短い道を選んで義賊、東海道を荒らし廻った天明五人男。その筆頭、雲霧の数奇な人生を描く「雲霧閻魔帳」。甲州帯那(おびな)の山に、幕府の大金が埋蔵されているという記録に踊る「退屈兵学者」など、当時、大衆文壇の驍将としての活躍を示す佳編集。

*目次
花街三和尚
無宿人国記
田崎草雲とその子
恩讐三羽雁
筑後川
雲霧閻魔帳
退屈兵学者
 あとがき(*編集部)


60
「野火の兄弟 短編集(四)」 (のびのきょうだい)


*カバー装画・佐多芳郎
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*358頁 / 発行 昭和51年

*カバー文
 寛政の改革で敏腕を振った松平定信も、退隠して白河楽翁。市談亭の団欒〈まどい〉に、市井の茶飲み話を好んで聞いたという。名づけて「黄昏の少将辻話」。人情の機微に触れた江戸奇談。「玉堂琴士」は武士としてよりも人間として生き、筆墨と琴を愛し、不義の娘に涙をそそぐ浦上玉堂の真摯な姿を描く。「野火の兄弟」は不遇の名君、尾張宗春と宿命の兄弟、平四郎・藤太を交錯させ、さわやかに武士の世界を描く。著者の転換期を色どる珠玉短編集。

*目次
下頭橋由来
蝎を飼う女たち
玉堂琴士

べんがら炬燵
黄昏の少将辻話
野火の兄弟
慶応の朝
 あとがき(編集部)