絶版文庫書誌集成

吉川英治文庫 (旧版) 61〜70

61
「篝火の女 短編集(五)」 (かがりびのおんな)


*カバー装画・佐多芳郎
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*357頁 / 発行 昭和51年

*カバー文
 男は上杉謙信の家臣、女は北条家の禄をうける身。戦乱の世に杜鵑〈とけん〉の横笛で結ばれた二人が、両国の交戦により棘の恋の道を歩む、戦国の恋歌「篝火〈かがりび〉の女」。年に一度、お筆の家に牡丹薪を貰いうけに来る騎馬の若侍。その凛々しさが、お筆の心を揺さぶる。若侍は何もの? 意外な進展が待つ「牡丹焚火」。関ケ原合戦の前夜、西軍の首脳・石田三成と大谷刑部の去来する心事を精緻に描く「大谷刑部」など、緩急自在の作風を示す八編を収める。

*目次
石を耕す男
みじか夜峠
篝火の女
御鷹
大谷刑部
魚紋
恋易者
牡丹焚火
 あとがき(編集部)


62
「吉野太夫 短編集(六)」 (よしのだゆう)


*カバー装画・佐多芳郎
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*365頁 / 発行 昭和51年

*カバー文
 国内六十余州はおろか、唐にまで美貌を謳われた扇屋の吉野。その吉野が独力で鷹ヶ峰の総門の寄進を思い立ったが、思いのほかの出費に工事は七分の建てかけで中断。そうなると、高まった人気は逆に嘲笑、陰口となってハネ返ってくる。――あと千両。もはや、吉野独りでは工面も覚束ない。抱え主、言い寄る客の思惑など、華やかな臙脂の女王は、初めて人生の苦悩と対決する。名作「吉野太夫」ほか八編、著者中期の傑作を網羅する。

*目次
朝顔更紗
鍋島甲斐守
悲願の旗

吉野太夫
死んだ千鳥
春の雁
旗岡巡査
合戦小屋炉話
 あとがき(編集部)


63
「松風みやげ 短編集(七)」 (まつかぜみやげ)


*カバー装画・佐多芳郎
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*396頁 / 発行 昭和51年

*カバー文
 江戸でも指折りの富豪、津の国屋も大名への貸倒れ、御用金の召上げ、加えて主の藤兵衛の大尽遊びに、金蔵には千両箱一つすらないだろうと江戸雀の評判。依然、目の覚めぬ藤兵衛に彼の金にタカった連中は……。人情の世界が交錯する「松風みやげ」。甲府城の城宝・歌仙本が突如紛失した。係の海野甚三郎は責任を負って切腹。介錯人に選ばれたのは高安。恋の葛藤に火花を散らしていた両人である。白熱の「夏虫行燈」など九編を収録。

*目次
城乗り一番
鼻かみ浪人
松風みやげ
皿山小唄
さむらい行儀
夕顔の門
恋祭
夏虫行燈
歩く春風
風雲一寒土
 あとがき(編集部)


64
「柳生月影抄(短編集八)」 (やぎゅうつきかげしょう)


*カバー装丁・辻村益朗
 カバー装画・佐多芳郎
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*357頁 / 発行 昭和51年

*カバー文
 柳生流は無刀を兵法の極意とする。しかし宗家・但馬守は現実において大目付の職権をもって諸大名を糾弾し、彼らの怨嗟を一身に浴びていた。家にあっては四人の子息の父。だが、その放蕩柔弱を慨(なげ)く師父でもあった。剣聖の波瀾の心中を描く「柳生月影抄」。乱世、針売り時代の太閤を知り、また日の出の勢いの明智光秀に仕えたという柾木孫平治の手記に基づく「茶漬三略」から戦後の「袴だれ保輔」まで短編小説の絶巓をきわめる七編を収む。

*目次
山浦清麿
東雄ざくら
柳生月影抄
茶漬三略
悲母観音
人間山水図巻
袴だれ保輔
 あとがき(編集部)


65
「戯曲 新・平家物語」 (ぎきょくしんへいけものがたり)


*カバー装画・佐多芳朗
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*271頁 / 発行 昭和52年

*カバー文
 代表作「新・平家物語」を前進座が上演するに際し、示された脚本が意に満たず、著者みずから書き改めたのが「戯曲 新・平家物語」である。上演の日は迫り、蒼惶のうちの執筆であったが、異常な緊迫感は二幕十四場の舞台に効果を盛り上げた。「あづち・わらんべ」は絢爛たる東をどりの脚本。「め くら笛」はラジオ小説として評判を呼んだ作品。「春雨郵便」は著者の珍しい現代小説の筆頭である。本書は、吉川文庫中最も異彩を放つ一巻である。

*目次
戯曲 新・平家物語
あづち・わらんべ
め くら笛
ナンキン墓の夢
春雨郵便
 あとがき(*編集部)


66
「忘れ残りの記」 (わすれのこりのき)


*装画・大賀正 / 装丁・辻村益朗
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*294頁 / 発行 昭和50年

*カバー文
 厳父の家業失敗により、著者は十一歳で実社会に抛りだされた。以来、印刻店の小僧をはじめとし、印刷工、給仕、土工、小間物の行商、港の船具工など著者は幾多の職業を経験し、浮世の辛酸をなめつくした。本書は、その波瀾に富んだ少年期をみずから回想した貴重な記録である。幼いながら一家の大黒柱としての自覚、また逆境に芽生える思慕の情、隆盛期の横浜が少年の著者に投げた強い色彩 ― 吉川文学を創った鍵は、ここにある。

*目次
忘れ残りの記
 解説(尾崎秀樹)
 自筆年譜


70
「折々の記」 (おりおりのき)


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*302頁 / 発行 1977年

*カバー文
「折々の記」は著者の戦後を代表する随筆集である。その大半は大作「新・平家物語」の執筆の余暇に書かれたものである。作家としては円熟の極に達し、人生の年輪は風霜のうちに加わり、ことに源平の興亡に比する今次大戦の経験は、著者の観照をいよいよ深めた。収めるところ、歴史小説論、人物史談、小説楽屋話、交友記、青春追想、世相談など、吉川文学の水源と言えよう。その水、こんこんと湧き、掬えば滋味あり。精選珠玉の随筆である。