絶版文庫書誌集成

吉川英治文庫 (旧版) 71〜83

71
「川柳・詩歌集」 (せんりゅう・しいかしゅう)


(画像はクリックで拡大します)

*267頁
*発行 昭和52年
*カバー装画・玉井ヒロテル

*カバー文
「剣難女難」から「私本太平記」まで、著者の文学生活は長い。しかも、それ以前に雉子郎時代があった。幼少から生活の苦労を味わって、若年ながら粋も甘いも噛み分けた雉子郎の川柳には、他人の追従をゆるさない人間観察の鋭さと情愛がある。江戸文学の伝統をうけた情緒も加えて、吉川文学の基礎は、早くもここに胚胎していた。雉子郎以来の川柳・詩歌を集成した本書はまさに待望の一巻であり、汲めどもつきぬ名井の味わいがある。


72
「書簡集」 (しょかんしゅう)


*カバー装画・佐多芳郎
(画像はクリックで拡大します)

*350頁
*発行 昭和52年

*カバー文
 本書には新進作家として目覚しい活躍を始めた大正十五年から「私本太平記」完成後、療養中の昭和三十七年までの主なる書簡を収めた。日記を書くこと稀であった著者は、他方、筆まめに知友宛に書簡を残した。これを年代順に編集すると、四十年間の日記に匹敵する重さを感じさせる。戦前・戦後、昭和の激動が著者の一字一字に読みとれる。そして一貫した著者の真摯な姿勢、創作の秘密といったものが窺われ、貴重な記録となっている。

*目次
書簡集
補遺
 書簡集注
 人名索引


74
「ひよどり草紙」 (ひよどりぞうし)


(画像はクリックで拡大します)

*335頁
*発行 昭和56年
*カバー装画・玉井ヒロテル

*カバー文
「神州天馬侠」が全国の少年を熱狂させた第一等の作品ならば「ひよどり草紙」は全国の少女を魅了した第一等の作品で、いわば双璧である。――世にも稀な紅ひよどりの行方を尋ねもとめる耀之介と早苗。二人は幼なじみだが、今は親の生命をかけて争う仲。時は慶長十八年、江戸・大坂に風雲ただならぬ頃。凛々しく優雅に、強い児童愛をこめて書かれた作品であるが、大人も惹きつける魔力をもっている。山口画伯の華麗な絵も添えた。

*挿し絵=山口将吉郎(4点収録)


75
「龍虎八天狗」(全二冊) (りゅうこはちてんぐ)


*カバー装画・鈴木義治
(画像はクリックで拡大します)

*(一)434頁・(二)396頁 / 発行 昭和51年

*カバー文
(一)
 大正の末から昭和の初めにかけて“少年倶楽部”に連載された「神州天馬侠」は月をおって評判になり、他誌の垂涎の的となった。わけて“少年倶楽部”の対抗誌“少年世界”は雑誌の興廃をかけて、この作家の獲得に乗りだした。しかし、容易に承諾は得られず、編集者は暗澹たる気持で帰社する日がつづいた。だが、作者の側からすれば「天馬侠」に比肩する大作には充分な時間を必要とした。かくて「龍虎八天狗」は練りに練って登場した。
(二)
 天下をとるために絶対必要な「扶桑掌握図」三巻。水虎の巻は火龍の巻を必要とし、二巻は鳳凰の巻を得ねば、天下を掌握するを得ず、秀吉の他界後は三巻離れ離れになり、豊臣家の前途を憂えた智将・真田幸村はわが子大助とその姉に秘軸探索の旅を命じる。目指すは、魔の手をひろげる駿府城の家康。だが敵方の?阿弥の虫術、来喬太郎の忍法、鉄牛舎の怪術に悩まさる八天狗は苦難の旅の連続。「天馬侠」に勝るとも劣らぬ傑作長編。

*解説頁(二巻収録)・「龍虎八天狗」の思い出 南部亘国


76
「月笛日笛」 (全二巻) (つきぶえひぶえ)


*カバー装画・玉井ヒロテル
(画像はクリックで拡大します)

*(一)266頁・(二)267頁 / 発行 昭和52年

*カバー文
(一)「ひよどり草紙」で少年少女を熱狂させた著者は、前作以上の意気ごみで「月笛日笛」の執筆にかかった。「ひよどり草紙」が完璧な作品だけに著者は並々ならぬ苦慮をしたようである。「月笛日笛」と題名は決っても、一字も書けない日がつづいた。――しかし、戦国の矢たけび、天覧の競べ馬、紅衣の騎士、水色の騎士、月毛の駒、めぐり合えぬ月笛と日笛の持ち主……と著者の構想は天馬を駆けるようにふくらみ、堂々二年連続の大傑作となった。

(二) 不倶戴天の仇、鬼怒川蕭白――春実にとっては父の仇、お雪にとっては主の仇。菊太郎にとっては兄の仇、しかも加茂の競べ馬ではぜひとも雪辱を期さねばならぬ悪人。だが不思議と蕭白は、天の加護をえている如く菊太郎の必死の追撃をかわし、春実は逆にお千賀と共に淀の川波に消えようとしている。――ここで舞台は一転、堺の町で大評判の見世物、かぐや姫と月小夜の登場。物語はどう展開するか、今宵も月笛は日笛を呼んでいる。

*さしえ 山口将吉郎


77
「魔海の音楽師・風神門」 (まかいのおんがくし・ふうじんもん)


(画像はクリックで拡大します)

*322頁 / 発行 昭和42年
*カバー装画・堂昌一

*カバー文
 これは兄の仇を討ち、主家の急を救おうとする少年武士・恩知賛之丞(おんちさんのじょう)の物語である。当時、主君の上杉謙信は川中島で武田信玄と戦い、敵の鉄砲に悩まされていた。わが軍にも鉄砲を ― と焦ってはいたが、たとい鉄砲を手に入れても、日本海を船で運ばねばならぬ。そこは魔海と呼ばれ、胡蝶賊がわがもの顔に振舞っていた。賛之丞が二人の仲間と汚名をこうむりながらも、賊退治に決死の働きをする「魔海の音楽師」。他に「風神門」を収める。

*解説頁 「魔海の音楽師」と「風神門」 南部亘国
*さしえ 山口将吉郎


78
「胡蝶陣」 (こちょうじん)


(画像はクリックで拡大します)

*289頁 / 発行 昭和52年
*カバー装画・鈴木義治
*さしえ 山口将吉郎

*カバー文
「神州天馬侠」を愛読した人は、咲耶子の胡蝶の陣に魅惑されたに違いない。彼女の横笛の一閃一閃に野武士が変幻自在の陣法をみせたことを ― 。本書「胡蝶陣」で、お小夜が率いる踊り子たちが蝶の如くに舞い、織田のつわものを襲う光景は、これに劣らない。物語の発端は美濃の稲葉山落城の日、いや、それよりも以前、桶狭間に今川義元が討たれた日に始まる。数奇な運命の鳥羽太郎、伊奈葉、お小夜をめぐる戦国の秘史は華麗に展開する。

*解説頁・「『胡蝶陣』茶話」松本昭


79
「左近右近」 (さこんうこん)


(画像はクリックで拡大します)

*421頁 / 発行 昭和51年
*カバー装画・鈴木義治

*カバー文
 兄の左近が十三、弟が十一。信州の戸隠山の山すそで、熊か鷹の子のように元気に育った兄弟。その二人が父の志を継いで、京へ出る。父は幕府と争って憤死した人。いま、京は朝廷方、幕府方が衝突を繰り返し、政情騒然。だが、少年である兄弟に何ができよう。兄は古本屋の丁稚、弟は豆腐屋の小僧。同じころ、幼なじみの笹枝、百も出京してきて、維新の嵐に巻込まれる。「少女倶楽部」に連載され、前作「月笛日笛」以上の喝采を博した。

*さしえ 山口将吉郎
*解説頁 “左近右近”のころ 渡辺福次郎


80
「朝顔夕顔」 (あさがおゆうがお)


(画像はクリックで拡大します)

*276頁 / 発行 昭和52年
*カバー装丁・辻村益朗

*カバー文
朝顔夕顔とは ―― 今は亡き太閤が万一の用意に百万両の埋蔵金の在りかを記しおいた一対の扇子である。それを大切に預かる飛鳥大内記。 ―― 折から大坂夏の陣。出陣の大内記に秘宝朝顔を届ける役目の娘小弓。不運にも父と会わぬうち、敵の若武者石川隼人と鉢合わせしてしまった。 ―― ここから朝顔夕顔の運命は、翼あるごとく狂い出すのである。恐ろしい野武士、さらに幻術師、小弓と姉の千波の行く末に何があるか。白熱の少女小説。

*さしえ・山口将吉郎


81
「やまどり文庫・母恋鳥」 (やまどりぶんこ・ははこいどり)


(画像はクリックで拡大します)

*421頁 / 発行 昭和52年
*カバー装画・堂昌一

*カバー文
 金沢文庫はわが国で初めての本格的な図書館で蔵書も数万冊を誇りましたが、北条氏が滅んだ後は散逸をまぬかれません。江戸時代になって老中・白河楽翁は学問好き、この文庫に古今和歌集の下の巻(山鳥の巻)があるはず、即刻差し出すようにとの厳命です。お文庫奉行はあわてました。少し前に古文書の整理をやった、その中にあったらしいのです。それからが大騒動ですが、悪人を相手に最も活躍するのは十六になる環(たまき)という少女です。

*さしえ・山口将吉郎


82
「天兵童子」〈全二冊〉 (てんぺいどうじ)


(画像はクリックで拡大します)

*第一巻276頁・第二巻273頁 / 発行 昭和52年
*カバー装画(「天兵童子」初版カバーより)とさしえ・伊藤彦造

*カバー文
第一巻
 少年倶楽部の黄金時代、最人気作家は時代のもので吉川英治、現代もので佐藤紅緑、軍事冒険もので山中峯太郎だった。しかも吉川英治は書かないほうでも横綱級。 ― 少年たちを熱狂させた「天馬侠」以後、長い沈黙に入ってしまった。編集部がせがんだ末、やっと手に入れたのが少年詩。これだけで読者が渇をいやすわけがはない。さらに交渉また交渉で、待望久しい原稿を手に入れたのが「天兵童子」である。十年の空白を埋める名編だった。
第二巻
 麻の如く乱れた戦国時代 ― おれこそ、日本を平和な国に築くんだ、と天ケ島から流れ着いた天兵。折から中国では、織田軍と毛利軍が天下を分ける攻防を展開していた。天兵の大好きな銅八爺さんと千尋は毛利方。天兵の気持は決った。 ― ところが天兵に大敵が現れた。石川車之助という不良少年。忍術の天才で多くの手下を持つ。天兵は蛇のように執拗な車之助の一味に追われる。逃げても隠れても隠れても ― 。天兵には大危難が迫っている!

*第二巻巻末頁・「天兵童子」茶話 松本昭
*さしえ・伊藤彦造


83
「讃母祭」全二巻 (さんぼさい)


(画像はクリックで拡大します)

*一巻251頁・二巻225頁 / 発行 昭和52年
*カバー装画・堂昌一
*一巻カバー文
 著者は随筆集「窓辺雑草」の中でこう述懐している ―― ほんとうに忘れられない「愛」は母の「愛」だと思う。母の愛だけは、特に思い出そうとしなくても、何かの生活にふれる度にフッと思い出す、と。著者の傑作として評判の「忘れ残りの記」は数々の母の思い出を美しく端的に描いている。本書は小説のかたちをとった母への讃歌である。時代を大正末期から昭和初期におき、暴風雨に顫(わなな)く白菊に著者は祈りをささぐ。感動的な愛の長編小説。


84
「井伊大老」 (いいたいろう)


(画像はクリックで拡大します)

*297頁 / 発行 昭和52年
*カバー装画・玉井ヒロテル

*カバー文
 井伊直弼とふところ刀の長野主膳。この二人が"疾風怒濤"の日本のある時代を動かしたことは間違いない。だが、それを溯る十年前は埋れ木の世捨人と漂泊の貧書生、身を寄せ合って世を慨いていた。それが蛟龍〈こうりゅう〉の雲を得たように、幕政の第一線に躍り出て、開府以来の難問題「開国」を一刀両断に処理した。囂囂〈ごうごう〉たる非難! 安政の大獄、桜田事変は起るべくして起きた。彗星の如く光芒を放つ人、直弼の一生は、巨匠の熱筆に躍動している。