絶版文庫書誌集成

新潮文庫 【つ】

つげ 義春 (つげよしはる)
「新版 つげ義春とぼく」
(しんぱんつげよしはるとぼく)


*カバー・つげ義春
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*264頁 / 発行 1992年

*カバー文
多忙な現代人が忘れてしまった根源的故郷への思慕を胸に、鄙びた温泉宿を訪ね歩く場末感覚に満ちた「颯爽旅日記」。日常生活の狭間に突如現れる異世界=夢の領域をシュールなイメージとともに採取した「夢日記」。自らの貧困生活を滑稽かつ痛切に綴った「断片的回想記」など、生と死の間で揺らめく人々の物哀しさを描き続けてきた孤高の漫画家、つげ義春の世界を一望する新版エッセイ集。

*目次
イラストレーション傑作集
颯爽旅日記
 東北の温泉めぐり / 太海 鴨川 大原 / 定義温泉 / 外房の大原 / ふたたび大原へ / 関東平野をゆく / 城崎温泉 / 会津 新潟 群馬
夢日記
断片的回想記
 断片的回想記 / 密航 / 犯罪・空腹・宗教 / 東北の湯治場にて / 自殺未遂 / 四倉の生 / 万引き
旅の絵本
 秋田県八森海岸 / 秋田県黒湯温泉 / 下北半島牛滝村 / 会津木賊温泉 / 会津西街道横川 / 会津岩瀬湯本温泉 / 長野県善光寺街道青柳宿 / 兵庫県室津港本陣 / 徳島県切幡寺参道 / 熊本県?(はげ)の湯 / 秋田県蒸ノ湯
桃源行 画・つげ義春 文・正津勉
 あとがき
 文庫版へのあとがき
 解説 伊集院静


辻 邦生 (つじくにお)
「銀杏散りやまず」
(いちょうちりやまず)


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*456頁
*発行 1995年
*カバー装画・山本容子(デザイン 坪内成晃)

*カバー文
すべてを棄てて文学に打ち込んできた自分の半生は、父が大切に思い慈しんできたものを黙殺するものであった ―― 。父の死から受けた哀切な心の痛みは、父、そして一族の歴史を辿る旅へと著者を駆り立てる。熱い想いに呼応するかのように次々と現れる関連古文書。資料を読み解きながら、想像豊かに祖先の喜怒哀楽を再現する。古代から現代へ、甲州を舞台に繰り広げられる歴史絵巻。

*解説頁・高橋英夫


辻 邦生 (つじくにお)
「廻廊にて」
 (かいろうにて)


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*227頁
*発行 昭和48年

*カバー文
異例の才能を持ちながらもうずもれていった亡命ロシア人の女流画家、マーシャの内的彷徨を描く著者の処女長編。少女期に出会った魅惑的な少女アンドレとの痛みを伴った甘美な愛を失い、結婚に破れ、つねに芸術の空しさを苦汁のようになめながら、生の意味、芸術の意味を模索しつづけたマーシャの悲痛な生涯を、清冽な筆致で描き、近代文学賞を受賞した感銘深い作品である。

*解説頁・清水徹


辻 邦生 (つじくにお)
「北の岬」 (きたのみさき)


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*240頁 / 発行 昭和49年

*カバー文
日本に二年の歳月を待ち焦がれる婚約者がいるにもかかわらず、パリからの帰途、修道女マリ・テレーズとの運命的な邂逅をした留学生“私”の内面を通して、永遠の光に照らされた至純の愛への覚醒を描く表題作。他に「ランデルスにて」「叢林の果て」など、晴朗な筆致で現代人の陥ち込んだ、この不確かな生、曖昧な生に、豊かな生命の息吹きを吹き込む珠玉の短編全5編を収録する。

*目次
ランデルスにて
北の岬
風塵
円形劇場から
叢林の果て
 解説 高橋英夫


辻 邦生 (つじくにお)
「サラマンカの手帖から」 (さらまんかのてちょうから)


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*289頁 / 発行 昭和50年

*カバー文
スペインの古い町サラマンカに、人生の安らぎを求めて旅する男女の心理を描いて静かな感動を呼ぶ表題作。死の床にあるランボウと彼を看取るその妹の独白をとおし、史実と想像力を総合させた手法で、放浪の詩人の生と死を浮彫りにした「献身」。流れゆく現実世界の奥に潜む人間の生の本質を追求したこれら短編小説7編は、著者自身の西欧体験の中から生れた作品群である。

*目次

ある告別
旅の終り
献身
洪水の終り

サラマンカの手帖から

*解説頁・菅野昭正


辻 邦生 (つじくにお)
「夏の砦」
 (なつのとりで)


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*412頁
*発行 1975年

*カバー文
織物工芸に打ち込み、一枚のタピスリに魅惑されてヨーロッパに留学した支倉冬子は、ある夏の日、北欧の孤島に、その地方の名家ギュルンデンクローネ男爵の末娘エルスとヨット旅行に出かけたまま突然消息を絶ってしまう――本書は、彼女の残した手記を克明にたどり、現代人の生と死と愛の不安を極限にまで掘り下げ、未来に開かれた生の充足をみごとに把握した清冽なロマンである。

*解説頁・竹西寛子


辻 邦生 (つじくにお)
「眞晝の海への旅」 
(まひるのうみへのたび)


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*469頁
*発行 昭和54年

*カバー文
海を愛する若者が生の歓びと浄福を求めて、ブリガンティン型帆船(大いなる眞晝=グローセル・ミッターク)号に乗り組んで船出する。無一物主義という哲学思想をもつベルナールを船長にして、フランソワ、ターナー、女性のファビアン、日本人の私などからなる11人のクルーは、南太平洋に入り、荒れ狂う颶風圏に突入する。暴風のさ中に恐るべき事件が発覚する……。詩とロマンの薫りが横溢する長編小説。

*解説頁・源 高根


辻 邦生 (つじくにお)
「見知らぬ町にて」 (みしらぬまちにて)


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*349頁 / 発行 昭和52年

*カバー文
見知らぬ町で疲れて霧のなかに佇み夢みる男と彼につき従う女性の清澄な雰囲気を描く表題作をはじめ、パリからマルセーユまでの汽車の旅とアルジェリア戦争のからむ錯綜した愛と死を描く『夜』、他に『風越峠にて』『秋の朝 光のなかで』など定められた運命の呪縛をはねのけて真に美的なものを求めて生きる様々な人間の愛の図を香り豊かな文章で浮彫りにする。全9編を収録。

*目次
見知らぬ町にて / ある晩年 / 夜 / 空の王座 / 影 / 橋 / 遠い園生 / 風越峠にて / 秋の朝 光のなかで / 解説 平岡篤頼


綱淵 謙錠 (つなぶちけんじょう)
「極 ― 白瀬中尉南極探検記」 (きょく しらせちゅういなんきょくたんけんき)


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*676頁 / 発行 1990年
*カバー写真・PPS通信社提供

*カバー文
20世紀初頭、人類の目は地球最後のフロンティア・南極大陸に注がれた。極地探検を夢見て40年、白瀬矗中尉はアムンゼン、スコットら世界の一流探検家たちに伍して、木片のような小船で島国日本を後にする ― 。国家意識の昂揚期・明治時代を背景に、未踏の地を目指す情熱のみに支えられた男たちの壮大なロマンと葛藤、そしてそれらすべてを押しつぶしてしまう自然の猛威を描く長編。

*目次
聖将 / 極地 / 反骨 / 北航 / 遭難 / 北涯 / 越冬 / 穴居 / 筆誅 / 南極 / 再会 / 解纜 / 極光 / 氷海 / 紛争 / 再航 / 上陸 / 雪原 / 帰国 / 余韻 / 解説 清原康正


坪内 祐三 (つぼうちゆうぞう)
「考える人」 (かんがえるひと)


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*320頁 / 発行 平成21年
*カバー装画・谷山彩子

*カバー文
考える――その一言で表されてしまう行為は、これほどまでに多様なものなのか。ある者にとっては「考える」=「見ること」であり、ある者にとって思考は「歩くこと」と密接に結びついていた。小林秀雄、福田恆存、武田百合子、幸田文、植草甚一ら16人の作家・評論家の著作とその背景を読み込み、それぞれ独特の思考の軌跡を追体験しようとする、実験的かつリスペクトに満ちた評論集。

*目次
小林秀雄 / 田中小実昌 / 中野重治 / 武田百合子 / 唐木順三 / 神谷美恵子 / 長谷川四郎 / 森有正 / 深代惇郎 / 幸田文 / 植草甚一 / 吉田健一 / 色川武大 / 吉行淳之介 / 須賀敦子 / 福田恆存 / あとがき / 年表 / 解説 南伸坊


坪内 祐三 (つぼうちゆうぞう)
「私の体を通り過ぎていった雑誌たち」 (わたしのからだをとおりすぎていったざっしたち)


*カバー装画・唐仁原教久
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*370頁 / 発行 2008年

*カバー文
古い雑誌を眺めれば、その頃の記憶が、時代の空気が、甦ってくる。小学生時代、夢中になったプロレス雑誌。中学ではじめて定期購読を経験した映画雑誌。高校ではロックに目覚め音楽雑誌を読みふけり、大学ではついにミニコミ誌でライターとしてデビュー。1960年代から80年代。雑誌が一番面白かったあの頃の全34誌を思い出と共に振り返る、資料としても貴重な極私的青春クロニクル。

*目次
小学校時代(一九六五 ― 一九七一) ―― 雑誌が私の学校だった
 初めて買った雑誌は『冒険王』と『少年画報』だ
 あの頃の『少年マガジン』は素晴らしい“総合雑誌”だった
 『別冊ゴング』の「ゆずってください」欄に名前が載った
 『ゴング』の「読者の誌上会見」を毎号熟読玩味した
 『漫画讀本』を知ったのはジョン・F・ケネディの暗殺の日だった気がする
 祖母が愛読していた週刊『TVガイド』
中学校時代(一九七一 ― 一九七四) ―― いよいよ雑誌にはまっていった
 『週刊ベースボール』でヤクルトアトムズのペピトーンの顔を知った
 『スクリーン』に載った幻の「荒野の七人」(第四作)の予告
 生まれて初めて定期購読したのは『キネマ旬報』だった
 日比谷の不思議な「三角洲」で見つけた二つの映画雑誌
 『平凡』より『明星』の方が垢抜けていたような気がする
 昼休みによく相撲をとった私は『相撲』を愛読した
高校時代(一九七四 ― 一九七七) ―― いわゆる「雑誌の時代」にリアルタイムでドキドキ
 出来たばかりのBIGBOXの古本市で買った『COM』のバックナンバー
 林静一が表紙デザイン担当だった『ガロ』が忘れられない
 高校一年生にはレベルが高過ぎた『宝島』を何度も眺めた
 ディランに目覚めて手にした日本版『ローリングストーン』
 『ニューミュージック・マガジン』の内田裕也の文章にガツンとやられた
 一見ミーハーな『ミュージック・ライフ』のインタビュー記事はロックしていた
 『週刊読売』の横尾忠則のアヴァンギャルドな表紙
 エロだけでなく読物も充実していた『週刊プレイボーイ』と『平凡パンチ』
 『月刊PLAYBOY』に日本版「ニュージャーナリズム」を感じた
予備校時代(一九七七 ― 一九七八) ―― いつのまにか読書家になっていた
 いかにして私は文春小僧となりしか
 実は『面白半分』を愛読していたわけではない
 時代の新しさに対応していた『本の雑誌』のアマチュアリズム
 『マスコミひょうろん』から『噂の眞相』へ
大学時代(一九七八 ― 一九八三) ―― チッと思いながらも実は新しいものも好きだった
 “たしかに冬樹社という時代があった”『50冊の本』
 『カイエ』『海』『ユリイカ』の三誌鼎立に何かが始まる予感があった
 一九七九年の『ハッピーエンド通信』
 『ブルータス』の読書特集号は読み応えがあった
 出版社のPR誌のことも忘れてはいけない
 現代版『洋洒天国』としての期待に応えた『サントリークォータリー』
 「新言文一致」時代のインタビュー誌『スタジオ・ボイス』が新鮮だった
 就職試験を受ける頃に創刊された『BOOKMAN』
 私は学生ミニコミ誌『マイルストーン』編集部にいた
あとがき / 解説 群ようこ


津村 節子 (つむらせつこ)
「白百合の崖 ― 山川登美子・歌と恋」 (しろゆりのきし)


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*274頁
*発行 昭和61年
*カバー・福井時子

*カバー文
明治12年、福井県に生まれた山川登美子は与謝野鉄寛主宰の「明星」に参加、与謝野晶子と共に名花二輪と謳われる。登美子はその才能と美貌を“君が才をあまりに妬まし”と晶子に詠ませながら、鉄寛への恋も、歌もあきらめ、親の定めた縁談に従う。―鉄寛・晶子の強烈な個性の陰でひっそりと散っていった登美子のあまりにも短い人生。同郷の歌人への深い共感と、愛惜をこめて綴る評伝小説。

*解説頁・奥野健男