絶版文庫書誌集成

新潮文庫 【や】

安岡 章太郎 (やすおかしょうたろう)
「鏡川」
(かがみがわ)


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*211頁 / 発行 2004年
*カバー装画・別役春田 / カバー装丁・田村義也

*カバー文
私の胸中にはいくつかの川が流れている。幼き日に見た真間川、蕪村の愛した淀川、そして母の実家の前を流れる鏡川だ ── 。明治維新から大正、昭和初期までを逞しくも慎ましく生きた、自らの祖先。故郷・高知に息づいた人々の暮らしを追憶の筆致で描く。脱藩した母方血族、親族間の確執を恋慕、母が語ったある漢詩人の漂泊……。近代という奔流を、幼き日の情景に重ね合わせた抒情溢れる物語。

*解説頁・坂上弘


安岡 章太郎 (やすおかしょうたろう)
「夕陽の河岸」
 (ゆうひのかわぎし)


*カバー装丁・田村義也
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*177頁 / 発行 平成6年

*カバー文
入隊直前の夜道で出くわしたシェパード、騎兵の突撃演習中の非業の死をとげた友、火葬を怖れ嫌って故郷・土佐の墓所に土葬されている伯父。歳月のかなたから《影法》のようにふとたち現れる、あの懐かしき者たちの姿……。「伯父の墓地」(第18回川端康成文学賞受賞)他、死と生のあわいにたたずみ、人生の《黄昏》の景観を濃淡あざやかな筆致で描きあげ、透徹の境地を伝える珠玉の10篇。

*目次
伯父の墓地
虫の声
朝の散歩

春のホタル
夕陽の河岸
小品集
 あとがき
 解説 秋山駿


山川 方夫 (やまかわまさお)
「愛のごとく」
 (あいのごとく)


*カバー・藤松博
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*282頁 / 発行 昭和49年

*カバー文
覚めた愛を呪文のように意識下にとどめながら、人妻との隠微な性に馴染んでゆく男のアイロニカルな心理を刻んだ表題作。他に、死ととなり合った終戦前後に青春を共有した少年たちのニヒルな心情を捉えた『煙突』など、若くして逝った著者の遺稿ともいえる作品群、全6編を収録する。現実を過小にも過大にも評価しないその優しさは、不毛の現代を覆い包んでしまいそうである。

*目次
煙突
猫の死と
街のなかの二人
愛のごとく
最初の秋
展望台のある島
 解説 坂上弘


山口 瞳 (やまぐちひとみ)
「梔子の花」
(くちなしのはな)


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*271頁
*発行 平成7年
*カバー装幀・柳原良平

*カバー文
忘れられないことがある。思い出せないこともある。胸に去来する様々な感慨。ホント、人生いろいろありました。同窓会を開けば、ひとり、またひとりと出席者が減っていく。そんなとき、一抹の寂しさを感じるけれど、これからの人生だって、捨てたもんじゃない。まだまだ、これから、これから。さりげない人生の彩りをすくいあげ、歳時記風に綴る滋味豊かな短編42篇。

*解説頁・来生えつこ


山口 瞳 (やまぐちひとみ)
「男性自身 生き残り」
 (だんせいじしんいきのこり)


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*276頁
*発行 1986年
*カバー装画・柳原良平

*カバー文
マメに働けば腹が立つ、野暮に水させば泣かされる、意地でも張らねば退屈だ、とかくに人の世は住みにくい…。だか待てしばし、それでも真面目に生きている男の本音、男のこころがここにある。雑木林の残る東京郊外の、倉庫のような箱のようなまっちかくな家「変奇館」で書かれる、思わず笑いがこぼれたり、なるほどとうなずいたり、“同感”と叫んだりの名エッセイ51編。

*解説頁・横山政男


山口 瞳 (やまぐちひとみ)
「男性自身 英雄の死」
 (だんせいじしん えいゆうのし)


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*286頁
*発行 1987年
*カバー装画・柳原良平

*カバー文
梶山季之は生前、自分が死んだ時の通夜の情景を書いた。山口瞳は奥で酒を飲んでいることになっている。だから私は、仕方がない、奥に坐って飲んでいた。自分が作り出した週刊誌時代に生き、そのために死んでいった梶山。なんというバカな男であったか、そしてそれをはるかにうわまわって、なんという愛すべき男であったか。二度と巡り会うことのできぬ“心友”に捧げる51編。

*解説頁・高橋呉郎


山口 瞳 (やまぐちひとみ)
「男性自身 おかしな話」 (だんせいじしんおかしなはなし)


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*290頁
*発行 1985年
*カバー・柳原良平
*カバー文
「私は猥談がどうも苦手だ。といって、もちろん高潔な人間ではない。私は猥談では笑えないけれど、おかしな話を聞くと我慢ができない ― 」男の喜び、男の楽しみ、男の悲しみ、男の苦しみ、男でなければわからない男の本音をあまさず語る「男性自身」シリーズ。あるときはコント風に、あるときは評論風に、またあるときは私小説風に、さりげない中にも多彩に綴る名エッセイ52編。

*解説頁・諸井 薫


山口 瞳 (やまぐちひとみ)
「男性自身 暗がりの煙草」 (だんせいじしんくらがりのたばこ)


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*289頁
*発行 昭和58年
*カバー装画・柳原良平

*カバー文
無神経な周囲には憤りを覚え、それだけに人にはこまやかな心配りを欠かさず、友情にはつい涙する男の気持ち……。人生の一コマ一コマに鋭い視線をあてて、時にはさり気なく、時には辛辣に、ユーモアとペーソス溢れる筆致で語る『男性自身』シリーズ。ここには、男の人生そのものがある。“師”山本周五郎の仕事場に故人を偲ぶ表題作をはじめ、人生の実感48編。

*解説頁・村松友視


山口 瞳 (やまぐちひとみ)
「男性自身 素朴な画家の一日」 (だんせいじしん そぼくながかのいちにち)


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*305頁
*発行 1988年
*カバー装画・カバー・柳原良平

*カバー文
描きためた絵を持って銀座へ出て、額緑屋へ寄る。個展を開く。作者であるところの私は、ベレー帽をかぶり、パイプたばこをくゆらしながら、画廊の中央のソファーに悠然と坐って…。そんなことをやってみたいなあ、と思った。絵と文章は不即不離の間柄。山口瞳、作家、実は画家。玄人はだしの絵ごころで街の暮らしを観察し、絵筆のタッチで写生した、これはエッセイ展覧会。

*解説頁・塩田丸男


山口 瞳 (やまぐちひとみ)
「男性自身 冬の公園」 (だんせいじしんふゆのこうえん)


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*316頁
*発行 昭和57年
*カバー・柳原良平

*カバー文
男なら、涙を抑えて微笑み、激怒のかわりに爆笑することもある。笑いの背後に潜んでいる、男性自身でなくては分からない男の喜びと悲しみ。サラリーマンの日常の出来事もあれば、スマートな世相判断もあり、ほろ苦い人生の哀歓を、著者独自のユーモア溢れる筆致で描く。現在も「週刊新潮」でおなじみの「男性自身」に連載(昭和39年〜40年)されたものから55編を精選して収録する。 (解説頁・常盤新平)


山口 由美 (やまぐちゆみ)
「クラシックホテルが語る昭和史」
(くらしっくほてるがかたるしょうわし)


*カバー写真・伊藤千晴
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*403頁 / 発行 2011年

*カバー文
開戦前夜、日米極秘交渉が行なわれたとされる、箱根の富士屋ホテル。戦後、マッカーサーを迎えた横浜のホテルニューグランド。フィリピン大統領一家が亡命した奈良ホテル。中には百年以上の歴史を誇る名門ホテルは、昭和という時代にどのような役割を果たしてきたのか。富士屋ホテル創業者の曾孫である著者が、その秘められた謎に迫るノンフィクション。

*目次
序章
第一章 日米交渉の舞台
 消えたレジスターブック / 神父工作とは何だったのか / 日米が接近した三日間 / ゾルゲ事件とのかかわり
第二章 戦中のインターナショナルゾーン
 箱根に空襲がないといわれた理由 / 昭和二十年 一月一日の記念写真
第三章 強羅ホテルと奈良ホテルの終戦前夜
 昭和二十年六月の強羅ホテル / フィリピン亡命政府と奈良ホテル
第四章 ホテルと終戦
 連合軍進駐の日 / マッカーサーに東京を案内した男 / ヤマトホテルとは何だったのか / 日本占領下のコロニアルホテル
第五章 接収ホテルの光と影
 接収ホテルとは何だったのか / ペンキとペロの記憶 / ジャズとダンスとバスストップ
終章 厨房の見える部屋

 あとがき
 文庫版あとがき
 主要参考文献資料
 解説 川本三郎


山崎 洋子 (やまざきようこ)
「沢村貞子という人」
(さわむらさだこというひと)


*カバー写真・沢村貞子氏愛用の着物地と柘植の櫛
 撮影・広瀬達郎(新潮社写真部)
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*198頁 / 発行 2007年

*カバー文
美しく老いるなんてありえない、と言っていたけれど、あなたは死ぬまで美しかった ── 東京浅草下町の歌舞伎狂言作者の家に生れ、女学校を出て女優になり、名脇役で知られた沢村貞子。エッセイストとしても活躍、その暮らしぶり、生き方は多くの人の共感を集めた。潔く生きて、自分らしく終えたその人生の流儀と心を打つ老後を、長年共に過ごして最期を看取った著者が爽やかに綴る。

*目次
はじめに / マネージャーってナニ? / 仕事を決める話 / 大橋さんのこと / せっかち / おせっかい / 衝立 / 創る / 食事 / すきやき弁当 / おしゃれ / 店じまい / 家さがし / 上原の家の茶の間 / 弟・加藤大介 / 兄・沢村国太郎さんと甥たち / 姉・矢島せい子さん / 引越し / わしの鯛茶 / 鶯ととんび / 雀 / 金庫 / 富士山と夕陽 / 大橋さん逝く / 沢村さんの一日 / 写真 / 沢村さん発病 / 沢村さんの死 / 散骨の日 / あとがきにかえて / 文庫版のための付記 / 嫉いちゃ、いけないよ 早坂暁


山下 洋輔 (やましたようすけ)
「ドバラダ門」
(どばらだもん)


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*562頁
*発行 1993年
*カバー装幀・山藤章二 / 写真 増田彰久 / 楽譜 著者自筆 (「A DIALOGUE FOR PERCUSSIONS」より合成)

*カバー文
門を作った張本人、その名は山下啓次郎。おーまいごっど、オレのじいさんが建築家だと。ルーツ探しに旅行けば、出るぞ鹿児島、やっぱり西郷。山下清も乱入し、時空を越えた大騒ぎ。官軍、逆賊を叩っ斬れば、洋輔、ピアノを叩っ弾く。門を壊しちゃならねえと、反対門前コンサート。住民一気に盛り上がり、かつぎ出されたピアニスト ── 。日本文壇をしゃばどびと震撼させた奇著を読め。


山田 風太郎 (やまだふうたろう)
「明治波濤歌」(上下巻)
 (めいじはとうか)


*カバー・辰已四郎
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*上巻377頁・下巻441頁 / 発行 1984年

*カバー文
上巻
波濤(なみ)は運び来り 波濤は運び去る
明治の歌……。倒壊した徳川幕府の残影、明治維新政府と自由民権運動、時代の転換期には激しく生きた人々がいた。吉岡艮太夫、榎本武揚、成島柳北、川路利良、井上毅、南方熊楠、北村透谷……実在の人物たちを奇想天外の組合わせで自由に操り、明治初年から三十年代にいたる混沌とした時代相を浮彫りにして展開する伝奇ロマン。
下巻
文明開化、西欧文明は飽くことなく摂取され、新しい日本文化が胎動する。そして新しい文学者群像 ― 。海を越えて日本へ来た人、帰った人。出て行った人、出て行こうとした人。森鴎外、エリス、小金井良精、樋口一葉、川上音二郎、貞奴、野口英世、永井荷風……語られることのなかった歴史を仮構の中に再現し、激動の明治の裏面をいきいきと甦らせる伝奇ロマン。

*解説頁・種村季弘

親本

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「明治波濤歌 天の巻」
新潮社
*223頁・単行本
*発行 昭和56年
*装幀・沢田重隆

山本 健吉 (やまもとけんきち)
「古典と現代文学」 
(こてんとげんだいぶんがく)


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*230頁
*発行 昭和35年

*カバー文
わが国の詩の自覚の歴史をたどることを目標に置き、千年以上を経過している日本の古典文学を、その様式の交替の上で頂点をなす作家に焦点をあてて、現代文学の立場から見すえた絶好の文学展望である。『詩の自覚の歴史』『柿本人麻呂』『抒情詩の運命』『物語における人間像の形成』『源氏物語』『隠者文学』『詩劇の世界』『座の文学』『近松の周辺』『談笑の世界』の16編から成る。


山本 七平 (やまもとしちへい)
「禁忌の聖書学」
 (きんきのせいしょがく)


*カバー建築・安藤忠雄
 写真・大橋富夫
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*335頁 / 発行 2000年

*カバー文
キリスト教文化の象徴「聖母」の姿を聖書の中に探すと……。処女降誕、最後の晩餐など、広く西欧文学や美術の主題となり、日本人の心にも影響を与えた場景。それらが何故、どのように記されたのかを原典にたどり返し、記述の歴史的意味、信仰が希求し続けてきたものに光を当てる。混迷の度を増す世界と、否応なくその渦中に巻きこまれてゆく日本の行く末をも見すえた、著者最後の論考。

*目次
裏切者ヨセフスの役割
マリアは“処女”で“聖母”か
「ヨセフ物語」は最古の小説
結末なきヨブの嘆き
『雅歌』の官能性
過越の祭と最後の晩餐
 二十一世紀の禁忌(タブー) 山本良樹

*親本カバー画像

新潮社刊・283頁・単行本
発行1992年・装画安野光雅
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山本 七平 (やまもとしちへい)
「小林秀雄の流儀」
(こばやしひでおのりゅうぎ)


*カバー装画・池田良二
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*339頁 / 発行 2001年

*カバー文
いつも、自分のしたいことだけをして、しかも破綻なく、決して後悔せず、みごとなまでに贅沢な生き方を貫いた人。小林秀雄の、人生の「秘伝」をなんとしても盗みたくて、ひたむきな疾走にも似た、あの徹底的な思索の軌跡に肉薄する。すなわち、ドストエフスキイを、モオツァルトを、ゴッホを、本居宣長を、全身全霊で感得し尽そうとした、小林秀雄その人の「流儀」にならって ── 。

*目次
一 小林秀雄の生活
二 小林秀雄の「分る」ということ
三 小林秀雄とラスコーリニコフ
四 小林秀雄と『悪霊』の世界
五 小林秀雄の政治観
六 小林秀雄の「流儀」
 「空気」から脱出(エクソダス)する「流儀」 新保裕二


山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう)
「小説の効用・青べか日記」 
(しょうせつのこうよう・あおべかにっき)


*カバー装画・芹沢_介
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*311頁 / 発行 昭和60年

*カバー文
純文学と大衆文学の区別を認めず、小説にはよい小説とよくない小説があるだけだという確たる信念のもとに、すべての文学賞を辞退して、ひたすら読者に訴えかけた山本周五郎。かずかずの名作を生みだすに至った考え方、ものの見方を率直に語ったエッセイと、公表された唯一の日記である浦安時代の「青べか日記」に、対談・インタビューを加えて、周五郎の文学観を総覧する。

*目次
1
小説の効用 / 歴史か小説か / 作品雑感 / 大衆文学芸術論? / 小説の芸術性 / 「面白さ」の立場から / 中島健蔵氏に問う / 歴史と文学 / 歴史的事実と文学的真実 / 小説と事実 / 断片 ― 昭和二十五年のメモより / 無限の快楽 / すべては「これから」 / お便り有難う / 型もののご趣向と演技 / 旧帝劇の回想
2
多忙 / 飛躍にも表と蔭 / 性分 / 武士道の精髄 / 国史に残る忍城の教訓 / 武家の食生活 / めがねと四十年と / 酒みずく
3
堀口さんとメドック / 土岐雄三著『カミさんと私』出版記念会でのあいさつ / 跋に代えて / 小説「よじょう」の恩人 / 畏友山手樹一郎へ / 江分利満氏のはにかみ / あきせいの今昔 / 語る事なし
4
直木三十五賞「辞退のこと」 / 毎日出版文化賞辞退寸言 / 文藝春秋読者賞を辞するの弁 / 作者の言葉
5
青べか日記
6
著者と一時間 / 現代養生訓(高橋義孝との対談) / 作家の素顔(河盛好蔵との対談)
 解説 木村久邇典

*註 「江分利満氏」=山口瞳


山本 夏彦著・藤原 正彦編 (やまもとなつひこ・ふじわらまさひこ)
「『夏彦の写真コラム』傑作選(1)」
(なつひこのしゃしんこらむ)


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*266頁 / 発行 2004年
*カバー装幀・装画 唐仁原教久 / デザイン 野田あい(H・B・C)

*カバー文
週刊新潮に23年間連載された名物コラムの極上のエッセンス。可哀想な美空ひばり / 恐るべきは正義である / 教育の普及は浮薄の普及 / 人生は些事から成る / サラ金と銀行は一味である……世の中の偽善とエゴを見抜き、たったひとことでひとの言わないことを言う。前半12年間のコラムから、著者より「時代遅れの日本男児」と命名された、年下の友人で数学者の藤原正彦氏が100編を選んだ。

*解説頁・天邪鬼の本領発揮 藤原正彦