絶版文庫書誌集成

ちくま文庫 【か】

桂 文楽 / 飯島 友治編 (かつらぶんらく / いいじまともはる)
「古典落語 文楽集」 (こてんらくご ぶんらくしゅう)


*カバー装画・和田誠
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*455頁 / 発行 1989年

*カバー文
その昔、文楽が『明烏』を高座にかけると、売店の甘納豆がよく売れた。噺のなかで甘納豆を食べる迫真の芸に、ついお客がつりこまれて ― という話がある。八代目桂文楽は演題のすべてが「十八番」だった。どれも、言葉のはしばしまで一字一句ゆるがせにできぬほど磨きぬかれ、完成された一席。それを、完璧な落語芸で演じてみせた。古典落語が行きついた一つの到達点というべき、文楽落語十八番集の一冊。

*目次
明烏 / 松山鏡 / 心眼 / 鰻の幇間 / 船徳 / 富久 / 酢豆腐 / 厩火事 / よかちょろ / 素人鰻 / 寝床 / つるつる / 厄払い / 景清 / 馬のす / 干物箱 / 愛宕山 / 星野屋 / 王子の幇間 / 夢の酒 / 花瓶


金子 光晴著・大庭 萱朗編 (かねこみつはる・おおばかやあき)
「流浪 金子光晴エッセイ・コレクション」
(るろう)


*カバーデザイン・佐々木暁
 カバー写真・「金子光晴詩集」
 (創元社 1951年刊)口絵より
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*278頁 / 発行 2006年

*カバー文
戦時下日本で反戦詩を書き続け、「抵抗詩人」と呼ばれた金子光晴のベスト・エッセイ集。本書では自伝と、アジア、ヨーロッパ紀行を収める。幼少時に若い養母に育てられ、早く性に目覚めた青年は、反抗と放蕩を繰り返した後、森三千代と結婚。三千代を巡る三角関係解消のために、夫妻は貧乏旅行に出発、数々の強烈な体験をする。だが、帰ってきた日本こそが「異国」だった。

*目次
T 〈鬼の児〉世に憚る
 洞窟に生み落されて / 第一の「血のさわぎ」 / 大学遍歴
U 愛と放浪の始まり
 発端 / 恋愛と輪あそび / 支那浪人の頃
V ヨーロッパへ
 瘴癘蛮雨 / 処女の夢 / ビールセル城 / 安土府
W ふたたびアジアの懐へ
 マルセイユまで / 疲労の靄 / 夜 / 虹 / 蝙蝠
X 異国日本
 腫物だらけな新宿 / 再びふりだしから出発
出典 / 編者後記 / 解説 ── 山崎ナオコーラ


唐木 順三 (からきじゅんぞう)
「良寛」
 (りょうかん)


*カバー装画・門坂流
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*281頁 / 発行 1989年

*カバー文
良寛といえば、まず「書画にすぐれた僧」あるいは「子供の好きなお坊さん」という印象を持っている人も多いであろう。しかし良寛はきびしい修業をつんだ曹洞宗の僧であり、学識深い大教養人であった。後年の軽妙洒脱、自在の境地にいたるには、多くの苦悩・挫折を経なければならなかった。その、内面の風景を、主として漢詞に依って描き、従来あまり知られなかった良寛の心を、細密に説く。

*目次
一 生涯懶立身 ―― 良寛の生涯と境涯
二 「捨てる」と「任す」
三 良寛の資性
四 良寛における詩
五 良寛の「戒語」と「愛語」
六 良寛における「聞く」
七 良寛における歌と書
 あとがき / 良寛略年譜 / 良寛詩歌索引


河口 俊彦 (かわぐちとしひこ)
「大山康晴の晩節」
(おおやまやすはるのばんせつ)


*カバーデザイン・倉地亜紀子
 カバー写真・弦巻勝
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*382頁 / 発行 2013年

*カバー文
通算1433勝、タイトル獲得80期、名人A級在籍連続45年という大記録を持つ大山康晴。全盛期の圧倒的な戦績に加え、衰え、死病に侵されながらも一流の証A級に留まり続けた強さの秘密はどこにあるのか。「人間は必ず間違える」を底に持つその将棋観、天才たちを相手に人間的威圧感で君臨し、将棋界の家長として振る舞う姿をプロ棋士ならではの観点から描く。

*目次
序章
 甦った大山将棋 / 人間的な威圧感
一章 ガンとの闘い
 六十三歳の名人挑戦者 / 熾烈な生存競争 / 棋界政治と大山会長 / しのびよる衰え / 晩年の驚異的な粘り
二章 生い立ちから名人まで
 十二歳で木見八段門へ / 名人への道 ―― 昭和二十年代の実力者たち
三章 大山将棋の強さ
 ナンバー2を叩け / 強すぎて、面白くない
四章 早逝した天才棋士との闘い
 若き山田道美の自負と懊悩 / 大山は催眠術を使う? / 大山VS山田 ―― 大山奇勝を博す / 絶局は大山戦だった
五章 追われる身に耐えて
 升田に引導を渡す / 中原に名人位を奪われた七局
六章 会長就任と永世名人
 名人戦と三大新聞社の抗争 / 五十歳以後の勝星がすごい!
七章 ガン再発後の粘り
 手術直前の対局 ―― 対有吉・小林戦 / A級残留への執念 ―― 対高橋・米長戦 / 大スターの残光 ―― 対谷川・高橋戦
終章 ―― まだ引退できないのか

 あとがき / 新潮文庫版あとがき / ちくま文庫版あとがき / 解説 yomoyomo


カール・フォン・フリッシュ著・桑原 万寿太郎訳 (Karl von Frisch・くわばらますたろう)
「ミツバチの生活から」
(みつばちのせいかつから)
ちくま学芸文庫


*カバーデザイン・難波園子
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*326頁 / 発行 1997年

*カバー文
ミツバチは、なぜ六角形の巣を作るのか? どうやって蜜のありかを仲間に知らせるのか? 「人口」過密な巣の温度を一定に保つ秘訣は? 正確な時刻を知る体内時計とは? 鋭く優しい観察眼で、小さな社会性動物ミツバチをとらえ、自然史=ナチュラルヒストリーから動物行動学への架け橋となった記念碑的名著。フリッシュ没後の新知見多数を加えた決定版。解説 青木清

*目次
 初版の序文 / 第九版の序文 / 第十版の序文
一 ミツバチの国家(コロニー)
二 ミツバチの住家
三 ミツバチ国家の栄養
四 ミツバチの子供
五 ミツバチの巣分かれ
六 雄蜂の殺戮
七 ミツバチ国家の分業
八 嗅覚と味覚
九 ミツバチの眼とその機能
十 定位の能力
十一 ミツバチはいかに語り合うか
十二 ミツバチの時刻記憶
十三 ミツバチの敵と病気
十四 ミツバチ国家への進化の階段
 訳者あとがき / 解説 青木清


川本 三郎 (かわもとさぶろう)
「雑踏の社会学 東京ひとり歩き」 (ざっとうのしゃかいがく)


*カバー写真・河合蘭
 カバーデザイン・加藤光太郎

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*235頁 / 発行 1987年

*カバー文
東京は大人にとってのおもちゃ箱……雑踏から場末へ、路次裏から酒場へ、いろいろな場所を歩きまわり、街の表情を凝視(みつ)め、街の空気を味わった遊歩エッセイ。
東京を歩く楽しみを綴って話題を呼んだ本に、最新エッセイを加えた新編集版。河合蘭のナイーヴな写真も楽しい。

*目次
T 雑踏のなかにこそ神がいる
  東京は歩くのが楽しい / デモから見た町 / 不易の酒場のすすめ
U 未完の町●新宿
  白い町●渋谷
  街と町●吉祥寺
  耐える町●池袋
  路地裏の町●赤坂
  歩ける町●銀座
V 映画の東京地理学
  「の・ようなもの」「チ・ン・ピ・ラ」「赤ちょうちん」「魔性の香り」「十九歳の地図」「火宅の人」「早春物語」「夢みるように眠りたい」「四月の魚」「煙突の見える場所」「キネマの天地」「沙耶のいる透視図」「道」「めぞん一刻」
W 燃えていた町●阿佐ヶ谷
  わが町●荻窪
  若旦那になる町●麻布十番
  一つ目小町●神泉
X 場末回遊
  洲崎のガイジン / 浅草酒場のトランジスタ・ラジオ / 高井戸の気弱なイヌ / 吉野家のビール / 赤羽の家族連れ / 茅場町の初老の男 / 荻窪の大衆酒場 / 大久保のお酉様
Y 地下鉄が変えた東京の「点と点」
 文庫版あとがき
 解説 分断された「黄金時代」 小笠原賢二


川本 三郎 (かわもとさぶろう)
「東京つれづれ草」
 (とうきょうつれづれぐさ)


*カバー装画・森英二郎
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*298頁 / 発行 2000年

*カバー文
試写室を出て飲む銀座のビール、古書街のいまむかし、下町の小さな商店街に残っているもの、東京の坂道……猫と豆腐と風呂をこよなく愛する路地裏散歩の達人が感じ、描いた東京の町。

*目次
 プロローグ 午後の町
 銀座のビール
T 心地よく秘密めいた町
U 青いお皿の特別料理
V ひとり遊びぞわれはまされる
W 東京の空の下
X この町はいつか来た町
Y 町を歩いて美術館の中へ
Z 眺めのいい旅
 エピローグ 夕暮れの町
 場末の映画館が隠れ家だったころ
 あとがき
 解説 「珍玩多宝格」 永留法子


川本 三郎 (かわもとさぶろう)
「忘れられた女神たち」 (わすれられためがみたち)


*カバー写真提供・オリオンブレス
 カバーデザイン・加藤光太郎

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*322頁 / 発行 1991年

*カバー文
1920年代から50年代にかけて、アメリカを舞台に、華麗に、陽気に、孤独に、そして悲劇的にそれぞれの生を演じ切った魅力的な女たち。銀幕を色どった妖艶な女優、ジャズ・エイジの花形フラッパー、寡作のボヘミアン作家、人種差別と闘い続けた黒人歌手……。アメリカで活躍し、日本ではその存在や生涯があまり知られていない“女神たち”のポートレート集。

*目次
ヘディ・ラマー エクスタシーと呼ばれた女
デューナ・バーンズ 失われた時代のレズビアン作家
バーバラ・ハットン 七歳で世界一のお金持ちになった少女
イデス・ヘッド ハリウッドの衣裳デザイナー
ドロシー・ダンドリッジ 黒いヴィーナスと呼ばれた黒人女優
マリオン・デイヴィス ジャズ・エイジのフラッパー女優
エルシー・ド・ウルフ 一九二〇〜三〇年代のテイスト・メーカー
タルラ・バンクヘッド ハリウッドのゴシップ・クイーン
キャサリン・アン・ポーター 寡作のボヘミアン作家
ジプシー・ローズ・リー 二十年間第一線で活躍したストリッパー
レナ・ホーン “アイス・ビューティー”と呼ばれた美人歌手
リビイ・ホルマン 巨万の富を手にしたシンガー・女優
メイベル・ノーマンド ハリウッド初期のお転婆女優
マーガレット・バーク-ホワイト 二十世紀を撮り続けた女性カメラマン
キャロル・ロンバード ハリウッドのお転婆美人女優
アニタ・ルース ジャズ・エイジの女流作家
ドロシー・パーカー プリンセス・チャーミングと呼ばれた毒舌家
グロリア・ヴァンダービルト 十歳で全米の注目を浴びた富豪の娘
ドロシー・ブレット 荒野に住んだ貴族出身の画家
ジーン・リイス 三十年代の女流作家
あとがき
解説 忘却の彼方から蘇った女神たち 松岡和子


川本 三郎著・写真、武田 花 (かわもとさぶろう・たけだはな)
「私の東京町歩き」 (わたしのとうきょうまちあるき)


*カバー装画・森英二郎
 カバーデザイン・日下潤一
 カバー写真植字・前田成明

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*221頁 / 発行 1998年

*カバー文
佃島、人形町、門前仲町、千住、日暮里……路地から路地へ、ひとりひそかに彷徨って町を味わう散歩エッセイ。
「町歩きは本当はただ無為に歩いているときがいちばん楽しい。…〈中略〉…夕暮れ、見知らぬ町の見知らぬ居酒屋でひとりでビールを飲んでいるとき、寂しいのだがしかし不思議と心が落着く。」(「あとがき」より)

*目次
プロローグ 地図にない町
 1 西の下町 ―― 阿佐谷(杉並区)
   エスニック・タウン ―― 大久保(新宿区)
   空港行きの電車に乗って ―― 蒲田、羽田(大田区)
   高台にある眺めのいい町 ―― 高輪・二本榎(港区)
   銀座の先にある「離れ里」 ―― 佃島、月島(中央区)
 2 「川の手」の小さな町 ―― 人形町(中央区)
   川向うの親密な町 ―― 門前仲町(江東区)
   町全体が大きな雑貨屋 ―― 本所駒形(墨田区)
   文学碑の目立つ町 ―― 三ノ輪(荒川区)
   ラビリンスの残る墨東の町 ―― 玉ノ井、鐘ヶ淵(墨田区)
   荒川を渡って路地の町へ ―― 四ツ木、堀切(葛飾区)
   水と江戸時代が残る町 ―― 千住(足立区)
 3 城北の盛り場 ―― 赤羽(北区)
   「バザール」の雰囲気のある町 ―― 板橋(板橋区)
   寄り道の楽しみがいっぱい ―― 日暮里、三河島(荒川区)
エピローグ 東京B級ストリート
 あとがき
 文庫版あとがき


川本 三郎 【写真】武田花 (かわもとさぶろう・たけだはな)
「私の東京万華鏡」
(わたしのとうきょうまんげきょう)


*カバー装画・森英二郎
 カバーデザイン・日下潤一
 カバー写真植字・前田成明

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*253頁 / 発行 1999年

*カバー文
川・下町・相撲、あるいは原っぱ、地下鉄、橋といった細かい色ガラスを筒に入れ、くるくる回し眺めた東京の町。ひそやかな隠れ場所を求めてさまよう散歩エッセイ。
「……悪口ばかりいわれるこの大都市にも、どこかにほっとひと息つける隠れ場所があるのではないか。それが過去のなかにあるのか、あるいはどこかの路地にあるのかはわからないが……」(「あとがき」より)

*目次
プロローグ 橋の見える場所
水の街、東京
 記憶の中の「自然」 ―― 多摩川
 下町らしさを求めて ―― 幻の柳橋散歩
 川のこちらと向こうがわ ―― 橋を渡って向こうの町へ
 別の東京が見えてくる ―― 空から見ると海から見ると
私の散歩道
 墓地は都会の散歩道 ―― 青山、染井、雑司ヶ谷
 山の手の子どもたちの故郷 ―― 原っぱ
 下町と山手がぶつかる坂と崖のある町 ―― 谷中、本郷、麻布
 都営新宿線は、私だけの名所に連れていってくれる ―― 浜町、森下町、大島
 下町と相撲は相性がいい ―― 蔵前、両国、小岩、阿佐谷
 知らない町の知らない居酒屋で ―― 私流“場末風流”
東京には夢がある
 江戸東京銀幕観察 ―― 映画の記憶の中の東京
 山内選手が町にやってきた! ―― 野球に夢中だったころ
 変わりゆく街の観察者 ―― 高見順の描いた東京
 映画に見る東京地理学 ―― サミュエル・フラーの「東京暗黒街 竹の家」
 焼け跡の人間模様 ―― 「君の名は」の東京地理学
町中のランドマーク
 街角から見上げる都市の遺跡 ―― 東京タワー
 アパートの時代の東京
 もうひとつ別の都市空間 ―― 地下街、地下道、地下鉄
 東京のなかの「まんが道」 ―― 深川から椎名町トキワ荘
 ささやかな湯の楽しみ ―― 銭湯は小さな町のシンボルだった
あとがき
解説 私の「東京(?)地図」 片岡真由美


川本 三郎 (かわもとさぶろう)
「我もまた渚を枕 東京近郊ひとり旅」 (われもまたなぎさをまくら)


*カバーデザイン・日下潤一
 カバー装画・森英二郎
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*286頁 / 発行 2009年

*カバー文
消えゆく下町を見つめてきた著者が、変化の激しい東京から一歩離れ小さな旅に出た。向かったのは、船橋、大宮、鶴見など、格別の観光地ではない東京近郊の16の町。その町を舞台にした文学作品や映画を手がかりに、大宮では太宰治の旧住居の跡を訪ね、市川では永井荷風が晩年に通った店へ足を運ぶ。日々の暮らしが穏やかに営まれている普通の町を気ままにゆく町歩きエッセイ。

*目次
磯の香にひかれて歩く漁師の町「船橋」
ローカル鉄道に揺られ、川べりを歩く「鶴見」
近未来都市と田園風景が共存する町「大宮」
下町の匂いが残る本当の横浜「本牧」
手賀沼と利根川、水と暮す町「我孫子」
荷風晩年の地、寺と緑と川の「市川」
歴史に消えた風景の幻が甦る町「小田原」
ローカル鉄道と漁港の町「銚子」
京急大師線沿線、工場街を歩く「川崎」
「基地」と「日常」が溶け合う町「横須賀」
横浜の裏町、「寿町」「日ノ出町」「黄金町」
鉄道の思い出が残る、かつての軍都 「千葉」
緑と太陽と潮風の町「藤沢」「鵠沼」
相模川、水無川。川べりの町「厚木」「秦野」
京浜急行終点、海辺の隠れ里「三崎」
あとがき / 文庫版あとがき