絶版文庫書誌集成

中公文庫 【わ】


ワイルド 福田 恆存・福田 逸訳 (ふくだつねあり・ふくだはやる)
「アーサー卿の犯罪」
 (あーさーきょうのはんざい)


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*214頁
*発行 1977年
*カバー原画・ビアズリー(Aubrey Beadsley)の挿画より

*カバー文
手相見の一言が若者の人生を変えた――愛しい恋人との幸福を守らんと呪われた自己の運命に挑む若者が、深謀を極めた殺人を企てるが次々と失敗し、終には手相見その人を手にかけてしまう愛の悲喜劇を描く表題作。他に五篇収録の短篇集。


若山 牧水 (わかやまぼくすい)
「みなかみ紀行」
 (みなかみきこう)


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*229頁 / 発行 1993年
*カバー写真・千本松原にて(昭和三年五月)

*カバー文
漂泊の哀しみと純粋な心情を謳いあげ、今日も広く愛誦される若山牧水。飄然と旅に出、ひとり山径をゆく彼の姿は、澄明な寂寥感を湛え、人々の心に染み透ってゆく。酒と旅を愛した歌人が綴る殊玉の紀行文集。

*目次
序文 / みなかみ紀行 / 大野原の夏草 / 追憶と眼前の風景 / 杜鵑を聴きに / 白骨温泉 / 通蔓草の実 / 山路 / 或る旅と絵葉書 / 野なかの滝 / 或る島の半日 / 伊豆紀行 / 雪の天城越 / 解説 若山旅人


鷲田 清一 (わしだきよかず)
「感覚の幽い風景」
(かんかくのくらいふうけい)


*カバーデザイン・松田行正
 カバー写真・田村尚子
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*218頁 / 発行 2011年

*カバー文
感覚はまるで幽い淵のよう。おどろおどろしい闇が匿されていたり、時には尻込みするほど深い官能を宿らせていたり……とらえどころのない感覚を身体論の名手が自在に読み解く。

*目次
 まえがき
ほころび ── 食について
疵 ── 苦痛について
聲 ── 聴取について
ふるえ ── 気配について
まさぐり― ── 触について
縁 ── 輪郭について
まどろみ ── 感覚について
ぬくみ ── 塞ぎについて
こもり ── 住居について
うつろい ── 服飾について
やつし ── 身体変工について
 あとがき / 初出一覧
 解説 鴻巣友季子


和田 亮介 (わだりょうすけ)
「扇子商法 ― ある船場商人の遺言」
(せんすしょうほう)


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*256頁
*発行 1998年

*カバーレイアウト・丸山邦彦(CREATIVE MIND)

*カバー文
暑い時(好況時)は大きく開いて使うが、不要時(不況時)には小さく畳める扇子のように企業経営を行うことが肝要、と説く「扇子商法」。その独特の経営理念を貫いた、祖父である創業社長の人生哲学や逸話を紹介しつつ、不況に動じない大阪商法の奥義を綴る。


綿谷 雪 (わたやきよし)
「近世悪女奇聞」
(きんせいあくじょきぶん)


*カバー画
 右上から時計回りに
 ・鬼神のお松(『芳年国周画帖』より 国立国会図書館蔵)
 ・雷お新(『新編明治毒婦伝』より)
 ・鳥追お松(『新編明治毒婦伝』より)
 ・妲妃のお百(『芳年国周画帖』より 国立国会図書館蔵)
 ・高橋お伝と伝えられる写真(『小林孝子懺悔秘話:附・女妖高橋お伝』より 国立国会図書館蔵)
カバーデザイン・中央公論新社デザイン室
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*320頁 / 発行 2010年

*カバー文
雷お新、高橋お伝、夜嵐お絹など、幕末から明治前半期にかけて世間を騒がせた悪女・毒婦一七人の生涯を活写。失敗と逃走に明け暮れ、しだいに転落・敗残の淵へと追い落とされていく彼女たちの人生を、凄惨と言うよりもエネルギッシュに描き出す。

*目次
雷お新
  全身刺青のナメシ革 / 西郷従道の大刺青 / 実録物のお新の経歴
高橋お伝
  アルコール漬けの珍物 / 色と慾との両天秤 / 蔵前大王橋の麦湯見世 / 旅人宿「丸竹」の惨劇 / お伝の口供書と決審 / 夢幻法師の悲しみ
夜嵐お絹
  妾奉公は気楽だけど / 雪の日の向島「植半」 / 石見銀山ねずみ取り / 召捕りから処刑まで / 実録本の作為と璃鶴の誕生
鳥追お松
  毒婦物実録本の流行 / 危難に次ぐ危難 / 獣心の恋に身は腐れて
島津お政
  懺悔芝居実演の元祖 / 島津お政の履歴
茨木お滝
  幸手堤の殺人 / 人性、果たして善か悪か
今常盤布施いと
  貞女と不貞のあいだ / 口実という名のモラル
雲霧のお辰
  実録本と告白談 / 美人局(つつもたせ)とお花殺し / 御守殿姿の賭場荒らし / 獄中獄後
花井お梅
  人形食いの宇田川屋秀吉 / 浜町河岸箱屋殺し / 獄中ばなし
権妻お辰
  権妻の流行 / お辰と角蔵の密通 / お辰とお峯の再会
蝮のお政
  運命を引き裂いた小学教諭 / ならず者への逆襲 / 放火犯として下獄 / 変幻自在虚々実々の活劇 / 不思議な聞書きの内容
幻お竹
  田舎まわりの淫婦の生活 / 烏山からハイ左様なら
斑猫お初
  娼妓解放令 / 至るところ男は色魔
大阪屋花鳥
  火薬を仕込む吉原火事 / 流人船の実況 / 三宅島代官殺し / 牢内の娘浄瑠璃太夫を虐待 / お虎処刑と喜三郎の晩年
妲妃のお百
  京の祇園の白人 / 色茶屋女将の破格の出世 / 実録本の成長
鬼神のお松
  『笠松峠女盗賊くどき』(瓦版全文) / 合巻本と読本と実録本のお松 / 講談の地理は不合理
大経師小町おさん
  西鶴えがくおさん / 意俊の正体と歌祭文のおさん / 近松作ではハッピイ・エンド

 あとがき
 解説 山本博文


綿谷 雪 (わたたにきよし)
「実録 後藤又兵衛」
 (じつろくごとうまたべえ)


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*244頁
*発行 1984年

*カバー文
山崎の合戦、耳川の合戦、関ヶ原の合戦、大坂の冬の陣・夏の陣と常に戦場にあって、その戦国の世を疾風のごとく駆け抜けていった豪勇無双の武将の実像に、歴史考証五十年の著者が虚説を排して肉薄する労作。

*解説頁・尾崎秀樹


渡辺 たをり (わたなべたをり)
「祖父 谷崎潤一郎」 (そふたにざきじゅんいちろう)


*カバー画・安田靫彦筆『蘭花』
(川崎市市民ミュージアム蔵)
 カバーデザイン・鈴木正道
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*225頁 / 発行 2003年

*カバー文
「タヲリと云ふものがゐるお蔭で、どんなに僕は老後を慰められてゐるか知れません」 ―― 谷崎潤一郎の晩年を「孫・たをり」の視点から捉えた貴重な証言。老いた文豪の複雑な私生活を内側からあますことなく描き、『瘋癲老人日記』へと至る作家の旺盛な創作熱、想像力の原点に迫る。

*目次
第一章 谷崎潤一郎の書簡と私
 一、潤一郎と渡辺千万子のこと
 二、北白川仕伏町の家
 三、孫の持つ意味
第二章 晩年の日常生活
 一、食べ物のこと
 二、芝居・歌舞伎・本・映画
 三、後の雪後庵のこと
第三章 書簡とそれにつながる作品
 一、雪後庵夜話
 二、台所太平記
 三、瘋癲老人日記
附 谷崎潤一郎から渡辺千萬子への手紙(昭和三十二年〜三十八年)
 あとがき
 解説 法月敏彦


渡辺 たをり (わたなべたをり)
「花は桜、魚は鯛 ― 祖父谷崎潤一郎の思い出」 (はなはさくら、さかなはたい)


*カバー画・安田靫彦「佐久良」
(川崎市市民ミュージアム蔵)
 カバーデザイン・鈴木正道
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*222頁 / 発行 2000年

*カバー文
「この子は味がわかるんだよ」「たをりは食べる名人だね」 ― 祖父谷崎にもらった遺産“おいしいもの”を見分ける感覚。幼時からの和漢洋の味わい豊かな食の体験を、文豪の日常、谷崎家の食卓風景をまじえて楽しく描き出す美食エッセイ。

*目次
プロローグ
第一章 食べる名人
 おじいちゃん、おいしいね / たをりという名 / 熱海のおじいちゃん / 谷崎家の動物たち
第二章 京と女
 祇園のこと / 京も好き、江戸も好き / 『細雪』の四姉妹
第三章 谷崎のお気に入り
 京都・たん熊 / 神戸でなければ / 支那の料理 / おししいものの旅
第四章 谷崎家の食卓
 谷崎家の春夏秋冬 / バーベキュー大会 / お手伝いさんの部屋 / お花見料理
第五章 谷崎の死
 新しい薬大好き / 谷崎の最期 / 心残りのこと
エピローグ
味覚の親和力 千葉俊二


渡辺 銕蔵 (わたなべてつぞう)
「自滅の戦い」 (じめつのたたかい)


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*448頁 / 発行 昭和63年
*カバー・明治神宮における学徒出陣壮行会 昭和18年10月23日 毎日新聞社提供

*カバー文
青年将校と暗殺団による武力の威嚇、そして官憲による言論の圧迫と権力の濫用 ― 昭和維新とは日本を破滅に導くことであった。
昭和初期の軍部の台頭から日中・太平洋戦争を経て敗戦に至る暗黒の日日の渦中で、毅然と昭和維新に抗した、一知識人の孤独な戦いと自省の記。

*目次
 序
前篇 自滅への道
 一 序説
 二 軍縮と暗殺の脅威
 三 北一輝の思想と日米戦争の遠因 ― 「日本改造法案大綱」
 四 橘孝三郎の愛国革新運動
 五 九・一事変の前後 ― 桜会と三月事件および十月事件
 六 血盟団事件
 七 農民と陸軍による革命 ― アントン・ツィシュカの観察
 八 蘆溝橋事件の真相とその発展
 九 ナチスに支配された日本
 一〇 近衛内閣と三国同盟および新体制
 一一 仏印進駐より対米開戦まで
 一二 自滅の戦い
 一三 勝敗の計算
 一四 爆撃の惨禍
 一五 言論圧迫と虚偽の宣伝
中篇 反戦苦闘十余年
 一 反産運動
 二 粛軍論
 三 ユダヤ人排斥問題
 四 三国同盟反対運動と七・七事変終結論
 五 渡辺経済研究所の設立
 六 第二次欧州大戦と日本の立場
 七 日本と米国および英帝国との貿易関係
 八 近衛総理および重臣らに対する建言
 九 反戦講演
『臣民の道』を読みて
 一〇 一茶寮舌禍事件 ― 投獄
 一二 最後のもがき
後篇 戦争責任論
 一 開戦の責任
 二 戦争終結についての責任
 三 反省
  解説 伊藤隆


渡辺 みどり (わたなべみどり)
「日韓皇室秘話 李方子妃」
(にっかんこうしつひわ りまさこひ)


*カバーデザイン・山田健二
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*237頁 / 発行 2001年

*カバー文
一九二〇(大正九)年、韓国併合後の融和政策の名のもとに、日本の皇族から韓国皇太子英親王に嫁いだ梨本宮方子妃は、数奇な運命に翻弄されながらも、夫との愛を貫く。夫との死別後も、福祉事業に献身、韓国での生涯を終える。世紀の政略結婚といわれながらも歴史の波間を生き抜いた方子妃の素顔を追う。

*目次
系図 / 序章 皇世孫・李玖(イク)はいま / 方子妃と垠殿下 / 母と娘 / 自分の結婚を新聞で知る / 百年恨(ペンニヨンハン) / 因縁・閔妃暗殺事件 / 留学、実は人質? / 生母厳妃(オムビ)と朝鮮王朝後宮 / 伊藤博文暗殺と日韓併合 / ココフツォフの弔辞 / 世紀の政略結婚 / おめでたと晋の誕生 / 里帰り / 覲見(きんけん)の儀 / 関東大震災と朝鮮人 / 逃避・ヨーロッパ旅行 / 待望の世つぎ玖誕生 / つかの間の幸せ 宇都宮と二・二六事件 / 戦争への足音 / 太平洋戦争突入と終戦 / 日本の敗戦と李王室 / 母・伊都子妃の日記 / 巨籍降下・無国籍となる / 玖のアメリカ留学 / 冷たい祖国 / 李玖の成長 / 時代の変貌 / 五十六年ぶりの帰郷 / 永遠の別れ / 明暉園(ミョンヒイウオン)と慈恵学校(チャヘハツキヨ) / 再会・悲劇の王妃 / 韓国に眠る李方子妃 / 李方子妃関連年表 / 朝鮮王朝李王家系図 / 文庫版のためのあとがき / 参考文献


和辻 哲郎 (わつじてつろう)
「桂離宮 ― 様式の背後を探る」
 (かつらりきゅう)


*写真(本文・カバー)・渡辺義雄
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*264頁 / 発行 1991年

*カバー文
道長・忠通ら藤原氏ゆかりの地に、古今集の風景観をイメージして造られたという、桂離宮。簡素で調和のとれた建築・庭園の美は、ブルーノ・タウトを初め、グロピウス等の世界屈指の建築家を感動させた。
 この美術史上の偉業をなしとげた、後陽成天皇御弟・八条宮とその周囲の人びと、江戸教養人の美意識、制作過程など、本書は様式の背後を克明にさぐる。豊かな学識と鋭く繊細な感性、そして流麗な文章。日本の美の極致を捉えた注目の美術論考。

*目次
 改訂版序
一 桂離宮の位置
二 桂離宮の創始者八条宮とその周囲
三 桂離宮の造営の開始
四 庭園の製作と作者の問題
五 桂離宮の庭園の構想
六 加藤佐馬助進上奥州白川石
七 古書院とその改造の問題
八 思し召す侭の普請
九 古書院御興寄
十一 中書院とその周囲
十二 松琴亭とその周囲
十三 新御殿増築
 余録